timelesspiece 8月限定特別企画「ベストアルバム特集」第3弾アーティストとしてご紹介するのは高野寛。プロデュースやユニット、ミュージシャンへのライブサポートやスタジオレコーディングなど、音楽業界で幅広く活動しているので、特にポップス好きの方ならば一度は彼の名前を耳&目にしたことがあるのではないでしょうか。そんな高野氏が1992年12月16日に発売した初のベストアルバム「Timeless Piece〜BEST OF HIROSHI TAKANO〜」を「今週の1枚」としてピックアップ。

 本題に入る前にまずは個人的な思い出から。前にも書いたのですが、筆者のJ-POP(当時そんな言葉はなかったけど)の入り口はTM NETWORKだったわけですが、そのきっかけはTMのメンバーが某ラジオ番組のパーソナリティを担当していて、その番組を偶然聞くようになった後で、彼らの作品に興味を持ち始めた・・・という経緯があるのですが、高野寛を知ったのもその頃でした。彼に関しては、FMのカウントダウン番組で流れた「ベステンダンク」という曲を聴き、「ああ、この曲良いな」と、アーティスト情報を一切知らずに曲を気に入ったというケースで、そういった意味では、筆者が「純粋ないち楽曲として興味を持ったアーティスト」第1号は、この高野寛だったのかもしれません。
 当然、楽曲に興味が持てば他の曲にも手を出す・・・というパターンになるのが通常なのですが、あいにく当時は小学生。レンタルショップもなかったその頃、少ない小遣いではシングルはおろか、アルバム購入などもってのほか(苦笑)という金銭事情から、アルバムがリリースされても、ラジオで流れるのをチェックするぐらいしかできなかった時期でした。なので、今回ご紹介のベストアルバムが発売されると知った時は、「これでようやくヒット曲が1枚にまとまったCDが出る!これは買わなきゃ!」と喜んだ記憶があります。そういったわけで、このアルバムは個人的に大変思い出深い1枚になっています。

 思い出話長いよということで(汗)、本作品の詳細を。上に挙げた「ベステンダンク」は勿論、代表曲「SEE YOU AGAIN」「虹の都へ」「目覚めの三月(マーチ)」、そしてこの年オリジナル・ラヴの田島貴男とユニットを組んでリリースした「Winter's Tale〜冬物語〜」の高野寛ソロバージョンを収録。デビューから1992年までの活動を、シングル曲、アルバム曲問わずに網羅した、理想的な名刺代わりのベストです。全17曲中7曲がNew Version(ヴォーカル再録とリミックス?)と称され、オリジナルアルバムを揃えているファンにもアピールできている内容だと思います。
 さて、このアルバム。レビューを書くために久々に聴いてみたのですが・・・ミックスはさすがに90年代前半的な耳当たりという点は否めないのですが、使用している楽器の音色や、アレンジ面に関しては意外にも古臭くないというか、斬新というわけでもないのですが、今の時代にミックスやり直して出してもそのまま通用しそうなサウンドになっているのには驚かされました。
 この当時の彼の音楽は、やや抽象的であり、聴き手によっては複数の解釈が得られそうな独特な歌詞を、半透明なヴォーカルで表現することで主張をほどよく中和し、そこに親しみの持てるポップなメロディーを乗せ、良い意味で「時代の流行に寄り添っていない」職人芸的なアレンジセンスで味付けしていたんだなぁと、今さらになって感心してしまった次第です。大ヒットとはあまり縁のなかった彼ですが、時代が変わっても風化しない曲作りを続けていたのではないでしょうか。そう考えるとアルバムタイトルの「Timeless」とは、「時間(時代)とは関係のない=いつの時代でも聴ける普遍的な作品(Piece)」って意味だったのか?などと、ついつい深読みしたくなってしまいます(笑)。

 あと、面白いのはブックレット。なぜか歌詞カードが進むにつれ、高野寛がメイクで年齢を重ねていく(ヒゲ生やしたり、額にシワ増えたり、最後は総白髪の老人になっていたりする^^;)写真構成。曲目とは直接には関係ないのですが、ベストアルバムだからこそ出来る、遊び心満載の仕様になっています。でも高野氏のビジュアル目当ての人は肩透かしだったかも(苦笑)。

 ちなみに、1997年には「EXTRA EDITION」、そして2004年にも「相変わらずさ」というベストアルバムをそれぞれリリースしていて、今から高野寛の代表曲に触れてみたいという方には「相変わらずさ」が入門編としてベストだと思うのですが、ポップス職人として名を馳せる彼の初期の集大成的な作品として、本作品もJ-POP好きにはチェックしておいて損のないアルバムです。ソロ・アーティストとしてもっと一般的に知られてもいい人だと思うんですけどねぇ・・・あまり前面に出てこないのはやはりシャイな性格(と業界内では呼ばれているらしい)だからなのでしょうか^^;。