
「今西太一って誰?」という声も少なからずあると思うので、ここで軽く前歴をご紹介。その昔、バーモントカレーのCMソングを唄っていた人らしいです(筆者もその辺りはよく知らない^^;)。1994年にメジャーデビュー。その年のうちにアルバムを2枚リリースするも、しばらく活動が停滞し、今回ご紹介のアルバムが発売されたのは1999年2月24日。デビュー当時の作品群では、打ち込みロックサウンドに、激しいシャウトを込めて歌い上げる系の、ある意味熱い(暑い?)楽曲が多く収録されていたのですが、ブランクの間に方向性を転換したのか、先に出ていたシングル「さよなら それなら」からはプロデューサーにチト河内氏を迎え、アコースティックギターと生バンドサウンドをメインに据えて、以前とはまったく異なるサウンドアプローチを展開。有山じゅんじ氏や馬場一嘉氏といったベテランのミュージシャンが多数参加し、クオリティの高いアンサンブルを聴かせてくれています。
そして、今西太一自身も、前作で見られたハイキーでのギリギリの歌い方から一転、各曲のキーも従来よりもかなり低めに設定し、穏やかに、でもどこか耳に残るヴォーカルスタイルで丁寧に歌い上げています。かつての気迫の代わりに、土の匂いのするような朗らかさというか、日だまりの中にいるような、どこかヌクヌクとした雰囲気で、第一印象・インパクトという点では以前よりは薄く、欠けるかもしれませんが、その分、聴けば聴くほど心に沁みるメロディーを書いている、といった印象を受けました。
歌詞の内容にもちょっと触れておくと、「海の見える丘で」とか「銀色のハネムーン」みたいなハッピーな曲もあり、「夏が行く」「過ぎ去りし君へ」といった失恋ソングもありなのですが、表現の仕方が感情込めてドーン!(何それ)という感じではなく、喜怒哀楽を含めてむしろ淡々と歌っている曲が多くて、これが却って歌詞を浮き立たせているような気がします。歌い方が朴訥なので、失恋ソングでも何だかポカポカしてくるのが不思議(?)。ラブソング以外にも、日常を切り取ったその名も「日々」、自身の行方をタイトルに託した(と思われる)「カザミドリ」など、心の琴線に触れる曲が多数。小説風の「Freeday's」は例外的に歌い方が前作に近い感じで異彩を放っています。
・・・そして、個人的に気に入っているのがいわゆる望郷系とでもいいましょうか。シングル曲でもあり、アルバムタイトル曲にもなった「遠くの友達へ」。シングルタイトル曲にもかかわらず7分超という長さを持ったこの曲、故郷を離れ、「お前に逢いたい、今も頑張ってるかな」という気持ちを綴った歌詞、終始穏やかながら存在感のある歌メロと歌唱、シンプルなイントロからバンドアンサンブルを経て、サビの合唱になるアウトロまで、無駄なものは一切無い、このアルバム一番のお薦め曲。「遠き暮れ方」といい「ナツメロ」といい、どうも筆者はこういう系に弱いらしいです(苦笑)。
あと、特筆すべきはCD盤の音質の良さ。筆者の素人耳でもアコギの音色の立ち方をはじめ、各楽器の主張のバランスや、パンの振り方が絶妙で、これはミュージシャンの技量によるものか、ミックスの腕によるものか、多分両方なのではないかと思うのですが、とにかく聴いていて「いい音だな〜」と思えるアルバムでした。この作品を聴く時はヘッドフォンを着けて聴くと、より楽しめるのではないかと思います。
それにしても、このアルバムのサブタイトル(END OF MY INNOCENCE)って何か深い意味がありそうで邪推してしまいそうだなぁ・・・^^;。
今作が発売された1999年初頭といえば、女性R&Bシンガーが台頭し、ビジュアル系が猛威を振るっていた頃(ちょっと懐かしいな)。そんなメインストリームからかなりかけ離れた音楽性を詰め込んだこのアルバムは、残念ながら当時の音楽シーンの中では埋もれてしまう結果となってしまいました。むしろ、音楽のジャンルが細分化・多様化した現在ならば、受け入れられる土壌はもう少し広かったのかもしれませんが・・・。なお、このアルバムを最後に今西太一はメジャーから離れ、以降はインディーズシーンでギター片手に各地で歌い続け、今では「奇跡のオッサン」と呼ばれているそうです。彼の最近の作品(といっても2005年のアルバムですが)は、本作とはまたベクトルの違う方向性で勝負していて、筆者の音楽的嗜好からするとやはり「遠くの〜」をひいきしてしまうのですが(笑)、こちらの作品もいつかは採り上げたいと思っています。その前にライブに行って、その奇跡っぷりを一度拝見したいものです。全国津々浦々廻っているみたいなんですが、埼玉にはあんまり来てくれないんですよねぇ(苦笑)。
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