facelessman 最近やたら顔のアップのジャケットを紹介しているような気がするのですが、決して意図的なものではないのであしからず(苦笑)。本日ピックアップする「今週の1枚」は、THE BOOMの5枚目のオリジナルアルバム「FACELESS MAN」。1993年8月21日発売。

 デビュー以後、「スカのビートに乗せて、ヴォーカル宮沢和史が個性的な歌詞を歌い上げる」という路線から始まり、アルバムを重ねるごとに少しずつ、スカ以外の要素を取り入れながら徐々に作風を変化させてきた彼ら。前年(1992年)にそんな初期の4枚のアルバムを総括したベスト「THE BOOM」をリリースし従来の音楽性に一区切りをつけたのか、明けた1993年に彼らが発売した楽曲は、一気にメーターを振り切った、今までのイメージを覆すものばかりでした。シングルの「月さえも眠る夜」は朝本浩文、「真夏の奇蹟」は久保田真琴が共同プロデュースと、(当時は)従来のTHE BOOMの音楽性から見ると異色のコラボレートだったように思えます。また、このアルバムが発売された時期は、前作「思春期」からシングルカットされた「島唄」がロングヒットを続けていた最中。一躍時の人として注目されていたTHE BOOMが放った今作「FACELESS MAN」は、いい意味でリスナーを裏切る、色々な意味での問題作だったように思います。

 彼らの代名詞的な存在となった「島唄」に代表される、沖縄民謡風サウンド「いいあんべえ」で幕があがると、2曲目の「YOU'RE MY SUNSHINE」ではブラスファンク、3曲目の「真夏の奇蹟」ではソウルミュージックに接近と、この冒頭からの3曲の完成度の高さとインパクトで、リスナーをTHE BOOMの新境地へと誘う役割を果たしています。ベストアルバム「THE BOOM」を聴いて、何となく彼らの音楽をイメージしてからこのアルバムを聴くと、あまりのギャップに驚かされるかも。それだけ今までの作品にない、斬新なアプローチが作品全体を包括しています。全英語詞によるエッジの効いたギターロック「Black Guitar」「有罪」「雪虫」のバラード2曲連続も、それぞれのアプローチが全く異なるので構成的にもダレることはありません。のちの名曲シングル「手紙」のプロトタイプ?とも思わせるポエトリーリーディング「YES MOM!」も面白いし、和風の音階が美しい唱歌「つばき」、ほのぼのとしたアコースティックバラード「帽子の行方」もいい感じ。他にも様々なジャンルの音楽がアルバム1枚にぎっちりと収録されており、多種多様な顔を見せてくれています。「FACELESS MAN」=顔の無い男と冠されたアルバムタイトルですが、これは逆説的に「いくつもの顔(音楽性)を持つ男(THE BOOM)」という意味で名づけられたのではないか?と勝手に妄想しています(笑)。
 個人的に気に入っているナンバーは「幸せであるように」。詞もサウンドも暖かさを感じるこの曲。アバンギャルドな曲を生産しまくっていた当時の彼ら(というか、宮沢和史)が、こういった純朴な「歌」もしっかりと書いてくる、その振り幅の広さこそ、彼らの魅力であり武器でもあるのでしょう。

 今作以前のアルバムで示されていた、「四人のバンドとしてのTHE BOOM」という括りを外し、今作も含めてそれ以降(特にソニー時代において)、もはや四人では表せないような音も多数含んだ、誤解を恐れずに表現するならば「THE BOOMという巨大プロジェクト」という側面を見せるようになった彼ら。この辺りでファン層が入れ替わったという話もなんだか納得が行く感がありますが、ひとつのバンドを長く続けていくと、必ずと言っていいほどぶち当たる「マンネリの壁」を、彼らは一般的なロックサウンド以外の要素、たとえば琉球音階や、ワールドミュージックのエッセンスを大胆に取り入れることで、見事に打破していった点は大いに評価できると思います。
 来年の結成20周年に向けて、久々に動き出すという噂のあるTHE BOOM。各自のソロ活動を経て、今度はどんな音楽を聴かせてくれるのでしょうか。とりあえずは前作から4年間もリリースされていないオリジナルアルバムの発売を期待したいところですね。かくいう筆者も最近は彼らの音楽から遠ざかっていたので(コラ!)、この機会に、過去の音源をじっくりと聴いて振り返ってみたいと思います。