rare 早くも2008年下半期に突入した7月。なんか今月に入ったら急に暑くなったと思うのは筆者だけ?それはともかく、第27回目の「今週の1枚」は、小林建樹(こばやし・たてき)のセカンドアルバム「Rare」をご紹介。

 小林建樹は、1999年2月にデビュー。翌年2000年の冬にリリースしたバラードシングル「祈り」がスマッシュヒットし、一躍音楽シーンで話題にされるようになった男性ソロシンガーで、作詞・作曲・編曲にプロデュースもこなす才人です。筆者もこの「祈り」で彼を知り、「こういう自作自演系の男性ソロって最近見かけないな〜・・・」と、注目するようになっていました。続けて彼は初夏にシングル「SPooN」を、そして2000年7月5日、アルバム「Rare」をリリース。これらは、筆者が「祈り」一曲での「バラードアーティスト」的なイメージしかとらえていなかった、彼に対する印象を一気に払拭する、「え?小林建樹ってこういう音楽やるの?」という驚きを見せつけてくれる魅力的な作品でした。

 彼の音楽は、一言でいうなら「ひねくれたポップス」、とでもいいましょうか(笑)。ファンク系を下地にした、生音あり打ち込みありのごった煮なサウンドを、スマートに整理して聴かせる一方、曲のところどころにヘッドフォンじゃないと聴こえないようなマニアックな音やフレーズを隠し味的に仕込ませたり、ストレートには理解できなそうな歌詞を並べたり(この辺ちょっとスピッツっぽい?)。これが基本で、あのシングル「祈り」ですら、パッと聴きは普通のバラードなのに、譜面を見てみるとコードが1〜2拍ごとにガンガン変わっていく、弾き語るにはかなり難解な曲だったりして、J-POPリスナーへの挑戦ともとれる行為(言い過ぎか)が連発されるわけです。
 アルバムの楽曲を見ていくと、シングルで先に出ていた比較的穏やかなミディアムバラード「青空」を除けば、一歩間違えば不協和音になりそうなスリリングなスロー「Rare」「進化」、かわいいラブソングと思いきや愛猫の想いを綴った(?)「Cube゜2」、後半いきなりキレキレロックな展開に驚かされる「トリガー」、普通にアレンジすれば美しいピアノバラードなのにエレキギターの即興的ソロを中盤から注入する「目の前」、そしてラストは小林建樹自身のギターとローズの音を絡ませるだけのインスト「Tuning」で締めたりと、最初から最後までやりたい放題、偏執的なサウンドを終始展開させる、ものすごいアルバムになっています(笑)。

 ・・・と書くと、なんか暴走していて実験に走っている・・・と思われるかもしれませんが、ところがどっこい(古いな^^;)、マニアックな臨界点を突破せずに、ちゃんと「ポップアルバム」という枠からギリギリはみ出していないところが今作の評価すべき点でしょう。上記のようにやりたい放題暴れておきながら、どの曲のメロディーラインもしっかりと耳に残る作りになっていて、か細い頼りなげなヴォーカルをフォローするのに一役買っています。このメロディーラインをもっと大衆的に生かす方法はいくらでもあるのではないかと思うのですが、それをやらず、「小林建樹色」を全面に出したアレンジでこのアルバム全体をまとめたあたりに、セルフプロデュースの才覚と、サウンド職人的な資質を感じました。トータルで面白く、驚かされるけども、どこか安心できる点もあるような、そんな一枚です。

 このアルバムの後も精力的にクオリティの高い作品をリリースしてきた小林建樹ですが、近年ではアーティスト活動は一時停止していて、近況(といっても二年以上前の話)では、平原綾香に、NHKトリノオリンピックのテーマソング「誓い」の楽曲提供を行ったり、広沢タダシのサポートでライブに出ていたりするようです。彼といい、東野純直といい、鈴木哲彦といい、筆者が応援する男性ソロアーティストってなんか裏方に回る人達がやたらに多いんですが(汗)、また、日本の音楽シーンを騒がせてくれるような曲で表舞台に戻ってきてくれることを願ってやみません。