kugatsunosola 6月最終週の「今週の1枚」は、2002年9月11日リリースの、PE'Zのメジャー1stアルバム「九月の空 -KUGATSU NO SOLA-」をご紹介。

 すでに数年前世界進出を果たしているPE'Z。彼らは5人組のインストジャズバンド。筆者はジャズはおろか、いわゆるインストものは全くといっていいほど聴かない人間なのですが、そんな自分が彼らを知ったのはふと立ち寄ったCDショップ。店内にBGMとして流れていた、このアルバムにも収録されていて、先行シングルでもあった「Hale no sola sita -LA YELLOW SAMBA-」に一目惚れならぬ一聴惚れをいたしまして、その頃はPE'Zのペの字も知らず、おそらくこのCD屋に立ち寄らなければ彼らの音楽を聴いてみよう!と思うこともなかったかもしれず、いやはや偶然の出会いとはあるものですね〜・・・ということを書きたいのではなく(苦笑)、インストものは言葉で伝えるメッセージがない分、純粋な楽器演奏での勝負になると思うのですが、そんな中で「Hale no sola sita〜」は、ただ一回聴いただけでも耳に残る、ポピュラリティー溢れるメロディーを彼らは書くことができる、ということが、筆者の素人耳にも十分伝わってくる曲でした。

 さて、今回ご紹介のアルバム「九月の空」は、そんな彼らのセンスが見事に炸裂した快作。基本的にメロディーラインはトランペットとサックスがなぞり、ピアノが動きのやたら細かいバッキングを、時に情熱的なソロを奏で、それらをテクニカルなリズム隊が支える、というのが基本的な構成だと思います。
 一曲目の「Ready! -黄色いおうちのエレベーターは緑色-」から期待感を持たせてくれるスピード溢れるナンバーを皮切りに、メロディーラインが歌モノとしても十分通用しそうな「Akatsuki」、アグレッシブにリスナーの耳を攻め立てる「Let it go」「across you」などのノリの良い曲が全体的に多いのですが、「Mosquito-38」のような適度に緩やかな曲も中には盛り込まれアクセント的な役割を果たしています。また、歌詞のかわりにアジテーション的な要素のある「人が夢を見るといふ事 -Black Skyline-」「I'M A SLUGGER」や、鬼束ちひろのポエトリーリーディングが聴ける「Amny」(←この曲、後のベスト盤には鬼束ちひろの声をカットしたバージョンが収録。その名も「ONITAHIJI Ver.」ってオイオイ^^;)など、アルバム一枚に様々な要素を盛り込んで楽しませてくれる内容になっており、なかなかに飽きさせません。
 そして、全12曲、どの曲もだいたいの演奏時間が長すぎず短すぎずの5分前後。そして各自パートのソロ部分もアドリブ的に長大に演奏するというのではなく、むしろ各パートソロを短くつなげていくことで、楽曲のドラマチックな展開が可能になり、ポップなメロディーと合わせて、筆者のようなインスト聴かない層の耳に訴えかけるインパクトと、適度な演奏時間こそが、彼らがブレイクした秘訣ではないでしょうか。本格的にジャズを聴いているリスナーへも勿論、普段このジャンルに縁のないライトリスナーへのアピールも十分にされている、メジャー1stにして、新人と呼ぶには納得のいかない(笑)完成度の高さである、だと感じます。

 このようにジャズ入門編としても機能しうるアルバムだと思うのですが、ひとつ難点を挙げるとすれば、このアルバム、コピーコントロールCD仕様でしか発売されていないということ。コピーコントロールCD導入黎明期でもあった2002年当時、発売元の東芝EMIはよっぽどの大御所でなければCD-DA盤がリリースできないという背景があったのかもしれませんが、エラーで生音に影響が出る(と私は思っている)この仕様で、完全生バンドの彼らの音楽を販売するというレコード会社の方針には抵抗があり、結局筆者はこのアルバムを現在に至るまで購入せず、今回のレビューで取り上げる際も、レンタルショップで久々に借りてきて書いています(笑えない)。通常のCDで出ていれば確実に購入に踏み切ったであろうこのアルバム、こういった形でセールスに影響が出て、有望な若手の芽を潰すことになってしまう(PE'Zは違いましたが)きっかけになるケースは往々にしてあるのではないかと思います。彼らがレコード会社を移籍した今、なかなか難しいことなのかもしれませんが、いつかCD-DA盤での再プレスをお願いしたいところです。