isingnotact 色々あって3日遅れとなりました「今週の1枚」。久々に1980年代のアルバムをご紹介しようと思います。今回のピックアップは西村智博(現・西村朋紘)のファーストアルバム「i sing〜not act〜」。1989年10月5日発売。

 シンガーソングライター、舞台演出、声優、音響監督などなど、マルチな分野で活躍している西村氏。筆者は当時のアニメ作品に出演していた声優として西村氏の声を知ったクチです。その時は別にファンとかそういうわけではなかったのですが(おい)、その後、某ラジオ番組にて流れた彼の歌を聴き、「ああ、あの人シンガーソングライターなんだ・・・」と認識。その時聴いたのがこのアルバムにも収録されている「Step by Step」、そして「リフレイン」という2曲で、何気に気に入りまして、その年の暮れ、これらの曲が入ったアルバムをクリスマスに親に買ってもらったという記憶があります(当時小学生だったんで、ホイホイとアルバム買えるだけのお金などなかった^^;)。

 このアルバムは、西村氏のソロ名義ではあるものの、以前にアニメ作品のイメージソングとして提供した曲の再録や、セルフカヴァーも収録。メインは男女の機微を中心にしたラブソングですが、励まし系の曲や友情をモチーフにした曲もあったりと様々。すべての楽曲を作曲、作詞も「ベスト・フレンズ」以外は彼の手によるものですが、作品の方向性はけっこうバラけています。また、ライブビデオを見る限りではロックスピリッツが根底にあると思われる西村氏ですが、今作では歌を聴かせることを打ち出したのか、曲調やアレンジはフォーク・・・とまではいかないものの、フォークとポップロックの中間のような路線。「時間(とき)」といったどフォーク(?)的なアプローチもあったりします。
 どの曲も音数は全体的に少なく、歌を邪魔しない程度のミックスで、音質的には80年代末期的な、ちょっと時代を感じさせる点は今聴くと否めませんが、西村氏の一度聞いたら忘れられないような独特のハスキーヴォイスと、歌メロの良さもあり、各楽曲とも耳に残る仕上がり。もともとこの人はシンガーからキャリアをスタートさせたそうなので、やはり「曲を作る、歌を歌う」ということは、彼の中ではホームグラウンド的な位置付けにあるのではないでしょうか。今作のアルバムタイトルからも、「役を演じるのではなく、歌を伝えたい」という意気込みが感じられます。セールスはそこそこだったようですが、歌い手としての西村智博の存在を世に示せたアルバムだったと思います。

 ところで、当時筆者は小学生。そんな頃の自分に「夜の祖師谷であなたと〜♪」(「ペ・ペ・ペのペ」)なんていう歌の本当の意味が理解できるはずもなく(笑)、意味も分からず口ずさんでたことを思い出して今、このCD聴きながら苦笑いを浮かべてしまいました(←つーか小学生が買う内容のアルバムでもないような気が^^;)。それとは逆に、「ラブソングはお前に」「フリーディア」といった、失恋の痛手や恋愛がテーマの曲ならば今ならより深く理解できるような、そんな気がします。古いフォトアルバムをめくるような懐かしい気持ちに浸ってしまう自分がここに(苦笑)。

 2008年現在、この「i sing〜」は彼の作品中で最も、当時の音楽シーンを感じる作りになっていて、世相を懐かしみながら聴くのも一つの楽しみ方かと。その後、2枚のオリジナルアルバムと、1枚のライブベストアルバム(←これお勧め)を発売していて、これらの作品群からは少しづつ叙情的にシフトしながらも、音楽的に垢抜けていく西村氏の足跡を確認することができます。90年代中盤以降はソロ名義作品のアルバムリリースを行っていないようなのが残念であり(ライブは時々やっているらしい・・・)、シンガー・西村智博の存在をもっと色々な人に知ってもらいたい気はしますが、あまり宣伝するよりも個人的にマニアックに応援していられたらいいかな、とも思います(二律背反的な心^^;)。またリリース活動が再開したら、ぜひCDを手に取ってみたいアーティストの一人ですね。