saiai 今週の1枚は、2005年9月2日にリリースされた、The LOVEの6枚目のオリジナルアルバム「彩愛」をご紹介。

 このアルバムの内容の前に、まずは彼らの紹介を。The LOVE(通称「ラブ」)は福岡県出身のバンド。メンバーは、ほぼすべての作詞作曲を手がける平義隆(Vo)、内田敏夫(G)、中村勝男(Ba)による3人編成。1996年の「P-STOCK」というテレビ番組(らしい。この頃は彼らを知らなかったもので^^;)をきっかけに、翌年メジャーデビューを果たし、2000年までに3枚のオリジナルアルバムをリリースして活動。以降はインディーズシーンに活動の場を移し、2003年にアルバムの収録曲だった「再会」が関西方面を中心に脚光を浴びシングルカット。メジャーレーベルからのベストアルバムの発売を経て、現在も地道に活動を続けています。

 そんな彼らの楽曲のコンセプトは、ひとことで言ってしまえばバンド名の通り、ずばり「愛」。愛といっても恋愛だけではなく、家族愛、親子愛、友愛など、様々な愛の形を作品として発表し続けています。今回ご紹介するこの「彩愛」もタイトルを読んで字の如く、「日々を彩る愛の歌」が詰まったアルバムになっています。
 「愛の歌」、と一概に言っても、一個人の人間としてのささやかな楽曲から、地球規模に至るまでの大きなテーマを持った楽曲まで、ミュージックシーンでは様々なアーティストが様々な切り口で挑戦していると思いますが、彼らの場合、デビューから一貫しているのが、「ごくごく身近な、ありふれた日常の中で見つけたり感じたりした愛」を歌っていっているところ。平義隆の作風は主にそこに着眼点を置いていて、彼の歌声と相俟って良い意味で「土の匂い」がします(田舎臭いというのではなく、日常に根付いている、という意味で)。日常的な歌詞だからこそ、聴いているこちらも「ああ、あるある」と共感できる点が多いんですね。こういう類の歌詞は、壮大でグローバルな世界を書くよりも、より根気のいる作業なんじゃないか?と筆者は思うのですが、実際のところはどうなんでしょうね?

 さて、アルバム曲を実際に見ていくと、先述の「日常感」が顕著なのは「サボテンが枯れる瞬間」「コロッケ買ってくね」あたり。タイトルを見るだけでなんか身近な風景が浮かんでくる気がしますね(笑)。友情をテーマにした「耳を澄まして」や、恋愛の初期衝動を描く「コイノチカラ!」などは、誰もが一度や二度は経験したことがあるような描写にハッとしたりニヤけたりしてしまうのではないでしょうか。また、平氏は女性の目線から描いた曲も数多く手がけていて、「禁断の林檎」「長い髪の人」などでその手腕を発揮しています。こういう曲もある意味武器になっていて、女性ファンが多い理由もこの辺かな?そして、すでに社会人となった主人公が大学時代を回顧するという内容の「未完の自画像」。かつてデビュー当時は高校卒業をリアルタイムに描いた曲があった彼らですが、それから数年が経ったこの時点で、主人公の年齢が上がった曲を書いてみることで、The LOVE自体もリスナーと同じくリアルタイムに成長している、そんな印象を受けました。
 平ワールドが炸裂しているアルバムの作品中、1曲、「雨と夢のあとに」だけは奥田美和子に提供した曲のカヴァーで作詞は柳美里。よって世界観はこの曲だけ少し浮いているかな?という気がしますが、柳美里の儚さのある歌詞が、良いアクセントになっていると思います。

 歌詞については語り出すと長くなるので(苦笑)この辺にしておいて、音楽性に関して書くと、メジャーで活動していたという経緯もあって、基本は王道のロックサウンド、普遍的なアレンジがデビュー以来続いていると思います。一曲目の「カナヅチ」はオープニングを飾るのにふさわしいまさに王道ロック。インディーズに移行してもその作風は変わることはないのですが、アルバムの枚数を重ねるにしたがってループ的な打ち込みサウンドやアンビエント的なSEを含めたアレンジを徐々に導入していったり、このアルバムでも「禁断の林檎」でスカを、「存在理由」ではジャズ風味を濃くしてみたりと、微妙な変化をつけることによってマンネリを感じさせないのは、さすが活動歴の長いベテランバンドといったところでしょうか。

 このように、普遍的な日常を描いた詞と、キャッチーで飽きのこないメロディー、ロックサウンドを聴かせる音楽が特徴のThe LOVE。今作のラストに収録された「あの駅で待ってる」もJR九州のイメージソングに採用されたほどの親しみやすく、美しい旋律のバラードで、音楽を積極的に聴きにいかないライトな層にも十分アピールできる作品だと思います。たぶん、彼らの音楽は昔も今もメジャーシーン向けなのではないかな?と思う反面、セールス的には急にグンとは伸びないのも事実。ただ、最近では地道な活動が実り出して、西日本を中心に徐々にファンが増えつつあるという情報(?)も風の噂で耳にしますので、いつか、日本中に「愛の歌」を響かせる日が来るといいなぁ、と思っています。レンタル屋などでもあまり見かける機会はないかもしれませんが、ここまで読んでみて「ああ、ちょっと聴いてみたいかな」と興味を持たれた方がいましたら、ぜひ探してみてほしい一枚ですね。