number9 今週の1枚は、1998年6月20日発売の斎藤誠のアルバム「Number.9」。ちなみにこのCDジャケットの写真はご存知、俳優・柄本明氏であり、本人ではありません(笑)。なぜこのジャケット?!

 近年、サザンオールスターズや桑田佳祐のサポート(帽子かぶってギター弾いている人です)として、お茶の間での発見度も少しアップしたような気がする斎藤誠。他にもプロデューサーとしての顔やアレンジャーとしての顔を持つ彼ですが、実は今年でシンガーソングライターとしてデビュー25年を迎えています。どんな音楽性を持つかと言われると・・・う〜ん、強いてたとえるなら和製エリック・クラプトンと言った感じでしょうか(言い過ぎか?)。今回ご紹介するこのアルバムは、デビュー15周年にリリースされた9枚目のオリジナルアルバム。気がつくとレコード会社を移籍している(苦笑)マコト氏ですが、ソニー系列での発売は2作目。前作をリリースしてすぐに次のアルバム製作に取りかかるつもりが、じっくり取り組んでいたら完成まで1年半以上かかってしまったという今作は、ミディアムを中心にバラード、ディスコナンバー、そしてカヴァー曲と、彼の独特の中音域を活かした声に合った曲たちを数多く収録。聴き疲れのしない、良質のポップアルバムとしてまとまりの良い1枚になっています。

 現在では「Mr.AOR」なる二つ名を授かっているという彼ですが、80年代後半〜90年初頭あたりに発表された作品は、その時代を象徴するようなシンセサウンドをけっこう使っていて、当時の録音技術の限界もあり、今聴くと音圧を含めてけっこう隔世の感ありなのですが、6年ぶりのオリジナル作品だった前作「Dinner」あたりから、より生楽器を前面に押し出すという試みが見受けられるようになったと思います。アナログレコーディングを行った前作に続き、今回も生楽器を基本に据えてほとんど打ち込みはなし。レコーディングではもちろん本人によるギタープレイに加え、常連の成田昭彦、片山敦夫など、気心の知れたベテランの面子が参加。彼らが鳴らす楽器のグルーヴが心地良く耳に迫ってきて、スタジオレコーディングにも関わらず生演奏の即興感を感じられる楽曲が多いです。
 また、プロデュース、レコーディングでの人脈の広さを活かしてか、ゲストミュージシャンも豪華。アルバムしょっぱなからPUFFYの掛け声で始まる「沸点」をはじめ、スカパラのホーン隊が参加している「SIGN!」、古内東子、近藤名奈ともそれぞれデュエットという形で競演しており、これによりアルバムにアクセントが付いています。ここではゲスト参加者をも適材適所にアルバムに取り込んでしまう、プロデューサー斎藤誠の職人的な腕も体感できるのではないでしょうか。

 さて、このような盤石の演奏陣・ゲスト陣に支えられて、語られる彼の歌詞の世界はというと、恋愛以外がテーマの「THE DOCTOR」「空にお願い」などではシュールな世界を描くマコト氏ですが、ラブソングになると途端にピュアになるんですね(笑)。だいたい彼のラブソングに登場する男主人公は、「気弱で自信がなくて、それでもこんな僕を好きになってくれてありがとう」みたいなタイプのキャラクターが多いんですが、今回のアルバムではラブソングのほとんどがそれです(笑)。「どんな君でも構わない 愛してる」と歌う「It's Alright」、遠距離恋愛の不安な気持ちを素直に歌った「それもそうね この恋は」(この曲が近藤名奈とのデュエット)など、この当時の彼の実年齢(40歳)を考えても、擦れてないな〜この主人公・・・という感じなのですが、この傾向は今現在でも続いているので、これが今のマコト氏の作風なのでしょう。逆にいきなり世相を斬ったブラックな曲とかやられたらビックリするかも(笑)。
 ただ、単に優しいだけではなく、「大切な人を自慢したいけど 無作法なものでブルースなんか歌っている」んだけど、「悲しい時は絶対に離れずにいる」「誰にも言えないけれど それなりの歌を君にあげたい それだけ」と不器用な男の恋心を歌った名曲「ギターマンの純情」、終わった恋を「すべて忘れてみせるよ」と切なく決意するラストナンバーの「HOLDING ON」など、ある意味「優しさの中の男らしさ」を感じさせる曲も散見され、歌詞の世界が一本調子ではないのはさすがベテランという感じ。筆者もこんな男になれるように頑張ってみたいと思います(何だそりゃ)。

 前述の通りレコード会社をすぐ移籍してしまう(笑)マコト氏なだけに、本人選曲の全レーベルからのベスト盤は2004年の「BALLAD'S BEST」のみ。しかも読んで字のごとくバラードのみの選曲で、斎藤誠の音楽に触れてみたいという方にはちょっと曲調的に限定されてしまうかも。なので、「興味を持った人が最初に聴く斎藤誠のアルバム」としては、アルバム全体のバランスの取れたこの「Number.9」を積極的にオススメしたいところ・・・なのですが、このアルバム、既に生産中止だとか(泣)。勿体ないなぁ。アコギを軸としたポップ・ロックサウンドが好きな方が、もし中古CD屋さんなどでこのアルバムを見つけた際には、ぜひ救出してやってください。損はさせません、多分(笑)。