sistermoon 今週の1枚は、CHAGE&ASKA(当時の表記)の1996年4月22日発売のアルバム「CODE NAME.2 SISTER MOON」をピックアップ。このアルバム、ミニアルバムを含めると彼らの通算20枚目のオリジナルアルバムにあたるそうです。さすが15年活動を続けてきたのは伊達じゃない!といったところでしょうか。

 アルバムタイトルにも含まれていますが、このアルバムは1995年6月に出た「Code Name.1 Brother Sun」に続くコードネームシリーズ(?)の後編。ライナーノーツによると、前作の時点で既にCD2枚組のボリュームの楽曲数が完成していたところを、敢えて曲数を振り分け、まず「Brother Sun」として1枚でリリース、そして1995年の年内にもう1枚リリース・・・という計画だったところが、追加録音や追加収録で年明けの4月まで発売が延びた・・・ということらしいです。とはいえ今作のベーシックな部分の録音は前作の時点で済んでいたということで、事実上の同時期録音、つまりは兄妹盤といっても良いでしょう。

 前作「Brother Sun」、そして今作「SISTER MOON」、どちらのアルバムも、チャゲアスが大ブレイクした1991年〜1994年頃のアルバム「TREE」「GUYS」「Red hill」で見受けられた、キーボードや管弦楽器を多数用いた重厚なアレンジの要素が薄くなり、代わりにエレクトリックギターの音を前面に押し出した、ざっくりとしたロックサウンドでまとめられているのが特徴。実際サウンド的にこの2枚に明らかな差はほとんどなく、敢えて言うなら後出しの「SISTER MOON」のほうがよりUKロック調に傾いているといったところ。むしろ、ASKA、CHAGE、それぞれの手がけた曲のタイプが前作、今作でずいぶん異なる、というのが最大の違いであり、比較するに面白い点だと思います。

 まずASKA。前作ではヒットシングル以外では、シリアスで重く、ストイックな面を前面に押し出してきていたように感じたのですが、この「SISTER MOON」でのアプローチは真逆。「river」「好きになる」のような王道の純愛バラード、「もうすぐだ」「One Day」といった前向きでキャッチーな作品、後追いのコーラスと、学生時代を回顧する歌詞が楽しい「青春の鼓動」などなど、いわゆる一般的な「チャゲアス像」ど真ん中な作品を多く収録。それでありながら、マンネリに陥らずに一定以上のクオリティで仕上げているところはさすがというべきでしょうか。
 一方のCHAGE。彼のアルバムでの従来の曲の役割はわりとマニアックで難解、というイメージがあり、それは前作でも同様に感じたのですが、今作では実に様々なアプローチで意欲的に幅の広い作品を提供。前述のロックサウンドに乗せて変拍子で紡ぐ「Sea of Gray」、まったりとした小品的な「ピクニック」、ファンクサウンドで恋人の浮気を歌う(苦笑)「港に潜んだ潜水艇」などなど。マニアックな「濡れた夢」みたいな曲もあります(しかしこの曲があの「めぐり逢い」のカップリングというのは・・・^^;)。そして圧巻なのは「NとLの野球帽」。少年時代のノスタルジーを叙情的に綴る(この詞には文面以外にも深い意味がありそうですが)この曲の歌詞を筆者は非常に気に入っていまして、個人的にCHAGE史上屈指の名曲だと思っております。
 ・・・このように、ASKAは全力で直球勝負で突き進み、CHAGEはその間隙を縫うように変化球を投げるといった具合に、両者のコントラストが面白いこのアルバム。1枚通してのまとまりは前作に一歩譲るものの、(当時)デビューして15年を経て、熟練した彼らの音楽世界を見せつけるに十分な作品だと思います。それでも「On Your Mark」をラストに置いて締めるあたり、「まだまだスタートライン、これからだよ」という力強い決意表明が感じられて、なかなかに心憎い演出だよチャゲアス!と思ったものでした(笑)。

 さて、最近のCHAGE and ASKA(←近年はこれが正式表記らしいです)は、それぞれのソロ活動を主軸に置いて、オリジナルアルバムは3〜4年に1枚、という、リリースの点ではいわゆるベテランアーティスト的な活動形態になってきているようです。90年代の精力的な活動を知る身としては近年の寡作ペースには少々物足りなくも感じてしまいますが、「Man and Woman」(2007年)のような名曲を作り出せる力をアピールしてもらったことだし、次のアルバムはいつになるか・・・指折り数えてしばらくは待つことにします(笑)。その時はまた、今作のような名盤を期待していますよ!