
去年は原由子とのユニット・ハラフウミを結成したり、ここ数年でドラマの主題歌やCMソングなどに起用され、結構お茶の間に流れる機会も増えてきたのでご存知の方も多いのではないかと思いますが、風味堂はヴォーカル&ピアノ、ベース、そしてドラムスという、いわゆるギターレスのスリーピース編成。
彼らが注目されたのはシングル「ナキムシのうた」のスマッシュヒットがきっかけ。そしてこのアルバムがメジャーデビューアルバムなわけですが、すでにこの時点で風味堂名義でインディーズから2枚のミニアルバムをリリースしていました。この頃から彼らの音楽性は確立されていたようで、ヴォーカル渡和久の手による楽曲の芯はメジャーデビューに至ってもブレることがなく、デビューアルバムにしてある程度完成された音楽を聴かせてくれています。
渡和久が紡ぎ出す詞の世界は、時に真っ直ぐ、時に軽薄、時にエロ(笑)という感じで、一曲ごとに様々な表情を見せるのが特徴。収録曲をざっと見てみると、ちょっと斜に構えつつも人生の決意を語る「眠れぬ夜のひとりごと」、一転して素直なラブソング「楽園をめざして」「ねぇ 愛しい女よ」、恋愛ドン詰まり状態(笑)の「もどかしさが奏でるブルース」、励まし系の「ナキムシのうた」、女性視点で綴る「笑ってサヨナラ」、そしていわゆる欲情系の「真夏のエクスタシー」。さらに本編ラストに感謝の意を込めた「ゆらゆら」など実に多種多様。
曲調もアップからスローバラードまで幅広く、アレンジ面ではピアノサウンドを根底に、ジャズ風にまとめられたポップロックという印象。演奏がやや荒削りな感があると思いますが、前述のストーリーを奏でる詞曲の感情と上手くマッチしていて、風味堂の優しい部分と激しい部分がバランス良く混ざり合っています。
彼らに限らず、ギターレスのバンドスタイル、あるいはテクニカルなピアノを前面に出すバンドというのは、最初に聴いた時は、「ギターの音を使わずにここまでの演奏ができるのか!」というインパクトを与えることのできる強みがあると思うのですが、ピアノ+リズム隊という限定されたバンドの構成上、作品を重ねていくと、どうしても音色や演奏の幅に限界、というか、いわゆるマンネリ感が漂ってきてしまうもの。むしろそこから先がギターレスバンドの課題になる点だと思うのですが、彼らはこのアルバムでは上記の楽器以外にホーンセクションを導入。曲によっては「散歩道」のようにむしろホーン隊が主役?と思えるかのような曲もあり、アルバム一枚で多彩な色を出すことに一役買っている感じ。
この「風味堂」以降「風味堂2」「風味堂3」とアルバムリリースする度にサウンドが洗練されていき、演奏面でもより安定していくのですが、楽曲の粒の良さという点では、このアルバムが風味堂入門に適しているんじゃないでしょうか。
ギターレスのピアノロックということ、そしてヴォーカル渡の独特の歌声。リスナーにとってはこれらの二点に関して好き嫌いが分かれるところかもしれません。逆に言うと、このジャンル、そして声が苦手ではない(って書き方も変ですが)人にとっては、このアルバム、バラエティ豊かな詞曲とアレンジが詰まった作品として、楽しめると思います。
なお、初回盤には、渋谷のライブハウス「B.Y.G」で行われた「Swinging Road」(インディーズアルバム収録曲)のライブバージョンがボーナストラックとして入っています。原曲よりもハイテンポになり、風味堂のライブでの臨場感を1曲ながら体験できるので、興味を持たれた方はこの初回盤を探してみるのもいいかも。案外レンタルでも置いてあったりするんで(笑)。
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