worldgroove 今年でデビュー16年目、avex勢の重鎮として存在感を示し続けるTRF。今週の1枚でご紹介するのは、彼らのユニット名がまだ小文字(trf)だった、1994年2月9日に発売されたアルバム「WORLD GROOVE」です。

 1992年、「小室ファミリー」という言葉もなく、小室哲哉を表すTKという二文字も世の中に浸透していなかった頃。当時の小室先生の本職であるTMNの活動休止中に彼が陣頭に立って結成された、日本ではまだ珍しかった「テクノ+レイブプロジェクト」TK RAVE FACTORY(=trf)は、1993年夏の「EZ DO DANCE」のヒットで一躍その名前を知られることになりました。「EZ DO〜」の時は総勢10人だったらしいのですが、この直後に現在のヴォーカル+DJ+ダンサー3人の5人形態となってよりユニットらしくリスタート。3枚のシングルを先行させた後で発売されたこの作品は、ホンキになった小室先生の実力をまざまざと見せつけられる、TMファン戦慄の一作(?)となっております。

 このアルバムはリミックス盤を除くと通算3枚目。1st、2ndアルバムとの違いは、アルバムとしてのトータル性に優れていること。良くも悪くも最初から最後まで踊っとけ!というジュリアナ東京的雰囲気(懐かしい響きだな)が無きにしもあらずだった前二作から一転、今作は「テクノ」「ダンス」というtrfの根底に流れる部分は変えずに、曲の幅やアレンジにバリエーションを増やして、踊る以外にも(笑)、家でBGMとして流しても十分聴きごたえのある作品に仕上がりました。
 例を挙げると、「愛がもう少し欲しいよ」みたいなゆったりと身体を動かせるような曲。跳ねるリズムの上に、空港へ向かうまでのワクワク感を描いた歌詞の「Waiting Waves」では親近感(しかしこの曲イントロがこの直後に出た「Survival dAnce」のサビそのものなんですけど^^;)と、これまでにないtrf像をリスナーに与えることに成功。従来の「Fell the CENTURY」「Beauty and Beast」、そして「EZ DO DANCE」を彷彿とさせる「Silver and Gold dance」といったサウンド志向の曲も収録しているものの、他の曲とのバランスを保つためか曲数を絞って収録。個人的にはこういうタイプの曲はアルバムの中では2、3曲でいいかなとか思っているので十分です(笑)。ロングヒットになったシングル「寒い夜だから・・・」は原曲の雰囲気を保ちつつ、シーケンスをオーバーダビングしているバージョンで収録。これはTMNの「CLASSIX」で培った技術のフィードバックかな?なかなか出来の良いリミックスです。
 ・・・そして、それらの音楽をすべて総括したタイトル曲「WORLD GROOVE 3rd.chapter(main message)」は、大陸系のサウンドも取り入れて広義な意味での愛を歌い上げる圧巻の名曲。ライブでの終盤の大団円の様子が思い浮かんできそうな感じです。また、ラストを飾るバラードの後で、隠しトラックとして小室先生のピアノ弾き語りが収録しているあたりは、この数年後に出る小室プロデュースでのアルバムのラスト(globeとか華原朋美)のプロトタイプといったところ。
 最初から最後まで、1994年当時の小室哲哉のアイデアが注入されまくったこのアルバム。他のアイドルやアーティストに楽曲提供の経験はあっても、彼がTMやサントラ以外でトータルプロデュースを行ったのはこのtrfが確か初めてだったはず。それだけに、「絶対成功してやる!」という気迫が伝わってくる、そしてそれが見事に完成度の高さにつながっているという、会心の作品になったのではないでしょうか。

 このアルバムで商業的にも成功を収めた小室哲哉。ここで得たノウハウを持ち込んでTMNを活動再開するんだろうなぁ・・・という筆者の願いも空しく、この年の4月、TMNは突然の終了宣言(涙)。小室哲哉はプロデューサーTKとして、篠原涼子や安室奈美恵、hitomiや華原朋美などをブレイクに導いていく、いわゆる「小室ブーム」がこの後始まるわけです。まあ当時TMファンだった筆者の心境の複雑っぷりと言ったらなかったですが(苦笑)、今振り返って聴いてみると、音楽性を模索しながらも実験に走らず、リスナーに伝わりやすい音楽を提供する、小室サウンドの黎明期にあたるこの時期の音楽は素直に好きだと思えますね。
 また、現在は小室哲哉の手から離れ、独自の色を出して活動するTRFの結成初期の音に触れてみたい、振り返ってみたいという方にも、このアルバムはお勧めの1枚です。