itsawonderfulworld 2月最初の「今週の1枚」。今週はMr.Childrenがデビュー10周年にあたる2002年5月10日に発売した、「IT'S A WONDERFUL WORLD」をご紹介。

 いきなり本作の話から脱線しますが、このアルバムが出る前の1〜2年間、ミスチルファンとして筆者はこの時期、ちょっと彼らの作品について不安を抱いていました。アルバム「深海」以降、内省的な方向に浸りつつ、穏やかな作品が来たと思えば外部に向けての激しい毒を吐いたりする、どこか統一感のない桜井和寿の詞の世界や、「Q」あたりから、バラエティに富んでいるもののどこかとっ散らかった印象を受けるようになったバンドの音楽性、それぞれエネルギーは満ちているんだけれども、一曲ごとに向かっている方向がバラバラだな〜という感じで、個人的に「ミスチルの音楽性は「深海」あたりで一度完結してしまって、今は次にやりたい音楽を模索している時期なのかな?」という印象があって。個人的にそんな勝手な思いを抱えていた時に、今までの活動を総括するようなベストアルバムの発表があり(まあすぐに「優しい歌」のリリースがあったわけですが)、ミスチルもいよいよ来るべき時が来たか・・・?と内心ビクビクしておりました。まあ、これは幸いなことに杞憂に終わったのですが(笑)、それも今だからできる話で。そんな自分の当時の「ミスチルへの葛藤期(勝手に命名)」にリリースされたこの「IT'S A WONDERFUL WORLD」は、今までの不安を一気に解消してくれるような、素晴らしい作品に仕上がっていたわけです。

 このアルバム、一言で表現するとすれば、「優しくて芯のあるアルバム」でしょうか。「youthful days」「Drawing」「君が好き」といった、かつての初期の名盤「KIND OF LOVE」を彷彿とさせるような純粋なラブソングが久々に数多く収録。これらの曲は「KIND〜」の頃の無邪気な優しさが復活したというよりも、「深海」や「DISCOVERY」に見られた内面的葛藤や、精神的な成長を経て、人間的に深みを増した優しさが備わったという感じ。また、優しいだけではなく、このアルバムのテーマ曲ともいえる「蘇生」で「叶いもしない夢を見るのは もう止めにすることにしたんだから 今度はこのさえない現実を 夢みたいに塗り替えればいいさ」という力強い一節は、今までの桜井さんからはなかなか出てこなかったような芯の強さが見受けられます。ちなみにこの部分、個人的にミスチルの名フレーズナンバー1に認定させてもらってる(また勝手な)ぐらい好きな歌詞です。
 他、失恋ソングにしてもえらく前向きな「one two there」、終末的カップルを描いた「渇いたkiss」「Bird Cage」も以前と比べるとどこか救いがあるというか。「いつでも微笑みを」みたいな曲も含めてデビューから10年、色々な活動、経験を通してひと皮むけたミスチル(というか桜井和寿?)の懐の深さを感じました。桜井さん、逞しくなったんだなぁ〜(笑)。

 一方、サウンド面に目を向けると、とにかくポップ。こちらの流れとしては前作「Q」から引き続き、第5のメンバー的な(あるいはそれ以上の)プロデューサー・小林武史の影響が大きいと思います。バラエティ豊かだったが故に散漫な印象もあった「Q」でしたが、今回は「ポップに」という引き締め(?)があったのか、アルバム全体の統一感は抜群。メジャーデビュー直後からすでにミスチルの王道サウンドは「メンバー四人のバンド演奏+α」で確立されており、以後、アルバムの枚数を重ねるごとにその方式にプラスしたりマイナスしたりを繰り返して作風に変化をつけてきたと思うのですが、今回は原点に戻り、バンド演奏に絶妙なバランスでキーボードやストリングスを導入した結果、それが上手く融合して、初心にただ戻ったというよりも、こちらも歌詞面同様、10年間のノウハウを活かした「ミスチルらしい」サウンドに仕上がっていると思います。
 ところで、このミスチルらしさっていうのは小林武史らしさなのか、それともミスチル+小林武史じゃないと出せない味、ってことなのか、どっちなんでしょうね?(笑)少なくともこのアルバムでは後者かな・・・。そつなく上モノ系の音を使っていてもオーバープロデュースな感じは全然しないし。

 このアルバムの後にも数枚オリジナルアルバムを発表し、現在も精力的に活動を行っている彼ら。筆者が現在までミスチルファンを続けて来れたのも、このアルバムがあったからだと思うし、ミスチルの全キャリアの中での最高傑作は何かと聞かれたら、迷わずこの作品を挙げるほどこのアルバムへの崇拝度は高いです(笑)。これからも、このアルバムを超える、優しくて、でも力強くて、ポップながらバンドサウンドを活かしたアルバム、メンバーの皆さんには是非作っていただきたいですね!またまた勝手に期待しておりますよ(笑)。

 (2008/9/23 一部改稿)