kanb 2025年11月12日にCD3枚組で発売されたKANの歴代全カップリング曲集「KAN B面 Collection」。全曲レビューの2回目となる今回の「CD Review Extra」では、1993年から1998年までの楽曲を収録したDISC 2の全12曲をご紹介。DISC 1同様、2010年のオリジナルアルバム未収録曲選集「Songs Out of Bounds」収録曲に関しては、元のレビューをアップデートした形で再掲しています。


「KAN B面 Collection」全曲レビュー DISC 2編

※特記のない限り、作詞・作曲:KAN/編曲:小林信吾、KAN。

1.Long Vacation
 1993年1月21日発売、14thシングル「丸いお尻が許せない」c/w。
 KANの地元で開催された「'92 福岡国際マラソン」の大会イメージソングのタイアップが付いた(この大会は12月開催なのでその時点では未発表曲ということに)。大会用にオファーを受けて作られたのかは定かではないが、「君の背中に光る汗を見た」という、KANの詞の世界では滅多に出てこないようなキーワードが飛び出してくる異色(?)の楽曲。テーマ的にはマラソンではなく、一つの物事に縛られていた分、どこかに遊びに行って開放されようよ、というメッセージの曲ではないかと思う。曲調はブラスのリフもふんだんに使ったメジャースケールのアメリカンロック調で、これも彼にしては結構珍しいのでは。個人的には彼のカップリング曲の中でもかなり好きな曲。

2.フランスについた日 Re-arranged
 1993年4月21日発売、15thシングル「まゆみ」c/w。アルバム初収録。
 同年2月発売の7thアルバム「TOKYOMAN」からの表題曲のリカット用に制作された新規音源。原曲は3rdシングルのカップリング曲(本作DISC 1に収録)。原曲は松本晃彦とKANの共同名義だったが、本作では当時鉄板のコンビであった小林信吾とではなく、初参加の十川知司との共同名義。ピアノを中心にストリングス、間奏ではアコーディオンのソロが登場するなど、シンプルな室内楽調にリアレンジされており聴き心地は良く、オリジナルと比べて時代性を感じさせなくなった。なぜこの初タッグになったのかは不明だが、小林信吾との共作アレンジバージョンも聴いてみたかった気がする。

3.はやくふってくれ
 1993年11月17日発売、16thシングル「いつもまじめに君のこと」c/w。
 マイナー調のメロディーに乗せて、自分への気持ちが離れてしまったことを察しながらも別れを切り出さず(切り出せず?)ふってくれるのを待っている主人公の心象を描いたシリアスなミディアムナンバー。作中で「愛してる」と一度でも言わなかったことでせめて意地を張る…というのは付き合って短期間でフラれた「こっぱみじかい恋」を彷彿とさせたりも…(だからそれが駄目なのだ)
 翌月発売の映像作品「孔雀だもの」にはリリースに先駆けて披露されたライブ映像が収録されているが、2015年のDVD再発時の新録コメンタリーにて、実はシングル候補だったが結局カップリング送りになった曲だった、とKAN自身が語っている。

4.君たちはうまく行く
 1994年11月26日発売、17thシングル「Sunshine of my heart」c/w。
 友達カップルの片割れの女性からの恋愛相談を受け、それに応える口調で綴られたある種の励ましソング…なのだが、今回の主人公(現在彼女なし)は妙に人生悟った感じで淡々と語りかける系であり、起伏のないメロディーも相俟ってかなり地味な楽曲。シチュエーションは違うがかつての「恋はTONIN'」(1988年)に比べると落ち着いたというか達観したというか…。多様な恋愛の形を描いた同時発売の9thアルバム「東雲」に入っていても違和感はなかったと思う。
 曲とは関係ないツッコミどころとして、本作の歌詞ページにて「外と素直で」が「外と素直で」と誤植あり。ちょっと残念。

5.ライバル
 1995年1月25日発売、18thシングル「すべての悲しみにさよならするために」c/w。
 9thアルバム「東雲」よりリカットされた表題曲に対してこちらは新曲。ブルボンのバレンタイン&ホワイトデーのキャンペーンCMソングに起用された。中学時代からの腐れ縁であるライバルである、サッカー部と野球部の二人の男子が同じ相手を巡っての告白バトル(?)を繰り広げる爽やか青春ソング。既に三十代中盤を迎え、作風も対象年齢を上げていたKANがこのようなテーマの曲を自発的に作るとはあまり考えられず、タイアップのお題ありきで曲を作ったのではないかと思うのだが真相は如何に。
 なお、シングルの裏ジャケットには詰襟の学生服を着たKANの姿が(コスプレの域)。

6.練馬美人
 1995年5月10日発売、19thシングル「東京に来い」c/w。
 こちらもアルバム「東雲」からのリカットシングルの際の新曲。NHKのバラエティ「作法の極意」のエンディングテーマ。練馬在住で育ちの良い彼女を称した「練馬美人」と車で送り迎えをし、デートする間柄…なのだが、まだ友達止まり程度的な描写がKANらしい(?)。それでもくじけずに環八飛ばすのさ、という健気さが良い。編曲は久々にKAN単独名義。初期のビートルズの作風を意識したサウンドやyah yah yahコーラスが小気味良く、結構好きな楽曲。
 まったくの余談だが、筆者の知り合いのビートルズフリーク(KANの曲は全然知らない)はこの曲と「東京に来い」を偶然聴いて気に入った、とKANの逝去直後に語ってくれた。

7.続ライバル
 1996年5月27日発売、20thシングル「MAN」c/w。
 本作よりマーキュリー・ミュージックエンタテインメントに移籍。1年半前の「ライバル」に歌詞を追加した別バージョンとして新録。編曲はヤン嶋田とニューブリーフ(2001年までのKANのライブのバンド名)名義で演奏も行っている模様。基本的には原曲と同じアレンジだが、ドラムが生になり(清水淳)、コーラス(小林慈野沢トオル)、掛け声に西嶋正巳(本業はベース)の声が聞こえてくるなど当時のバンドメンバーとのわちゃわちゃ感が微笑ましい。なお追加された歌詞では高校3年になり、何故か受験勉強中にライバル二人が両想いになるというまさかの展開で終了するのが衝撃的(笑)。2022年の歌詞本「きむらの和歌詞」では「ライバル」の掲載はスルーされこちらが掲載されているので、KAN的にはこちらが完成版と言うことだろうか…(?)。「Songs Out of Bounds」収録範囲は本作まで。

8.Permanent Dragon(Live)
 1996年8月26日発売、21stシングル「涙の夕焼け」c/w。アルバム初収録。
 同年5月発売の10thアルバム「MAN」よりリカットされた表題曲に対しこちらは新曲。ただしライブツアーのオープニング用に制作された楽曲(1996年6月22日中野サンプラザでのライブ録音)であり、スタジオ音源の有無は不明。編曲はKAN単独名義で、演奏はヤン嶋田とニューブリーフと表記。タイトルよろしくいきなりオリエンタルな響きで始まるのだが、Aメロは漢字熟語の羅列、Bメロは日本語、サビは英語という国際チャンポン系な不思議なロックナンバー。A、Bメロは何やら物々しい歌詞なのだが、要するにパーマ椅子に座ってパーマをかけているというシチュエーションを遠回しに描いたワケわからんエンタメテイスト溢れる楽曲である。個人的には完奏後数秒おいて「Girlfriend」のイントロが流れるところが一番気分があがる(笑)。

9.君を待つ
 1997年8月27日発売、22ndシングル「Songwriter」c/w。
 ピアノの弾き語り風(弾いているのは小林信吾の模様)で始まり、途中で生のストリングスも加わって厳かに曲を彩るバラードナンバー。春から夏、秋から冬、そしてまた春へ…という四季の移ろいの中でじっと対象物を見つめて描いたような歌詞で、具体的に何(誰?)を指しているのは示されていないのだがそれがまた味わい深い。この後はユニークさに磨きがかかる彼の歌詞だが、この曲は90年代中盤までの路線での詩人としてのKANの集大成的な楽曲なのではないかと思う。
 レコード会社移籍後の翌年3月の11thアルバム「TIGERSONGWRITER」にも表題曲共々収録。また、活動休止を経てのフランスからの帰国後、2005年にリリースされた本名名義での弾き語りアルバム「何の変哲もないLove Songs」にも新録されている。

10.結婚しない二人(Live)
 1997年12月25日発売、23rdシングル「ドラ・ドラ・ドライブ大作戦」c/w。アルバム初収録。
 本作よりワーナーミュージック・ジャパンに移籍。9thアルバム「東雲」に収録された楽曲の1997年11月8日中野サンプラザでのライブ音源。編曲はヤン嶋田とニューブリーフ名義。最初からバンドイン状態の原曲と異なり、エレキギターのバッキングからの歌唱から始まり、バンドインした後も各パートで原曲と違うフレーズが端々に登場する完全リアレンジバージョンである。当時としては珍しい(とされた)事実婚のカップルを歌った曲で、有名曲というわけではないが存在感がある曲だと思う。
 なお、KANと同じ事務所所属の松浦亜弥が2009年にアルバム「想いあふれて」にてカバーしている。

11.Regrets(Live)
 1998年2月5日発売、24thシングル「サンクト・ペテルブルグ 〜ダジャレ男の悲しきひとり旅〜」c/w。アルバム初収録。
 1989年発売の6thシングルの1997年11月8日中野サンプラザでのライブ音源。こちらもヤン嶋田とニューブリーフの編曲名義だが、原曲からキーをひとつ下げたぐらいでアレンジはほぼ一緒であまり特筆すべき点はない。曲以外のところでは、このテイクはKAN最初で最後のノーギャグコンサートからの音源だと思われ、この時に知り合ったバイオリニスト・早稲田桜子と1999年に結婚する運びになるのだが、この曲ではストリングスっぽい音はおそらくキーボーディスト(矢代恒彦)が鳴らしているようで、彼女は参加していない模様。

12.SANKT PETERBURG LIVE
 1998年9月25日発売、25thシングル「英語でゴメン」c/w。アルバム初収録。
 前作の表題曲の1998年5月11日東京厚生年金会館でのライブ音源。今回は編曲クレジットがなく、ヤン嶋田とニューブリーフは演奏でクレジット。最初のサビまではピアノとボーカルとコーラスのみのアレンジだが、サビ以降はオリジナルキーで忠実に演奏しており、最終的に受ける印象も原曲とほぼ変わらない。なおKANはこの曲を公認ベストにも選出するなど、詞・曲共に最も納得度の高い作品のひとつと語っているのだが、サブタイトルを付けたのは完全に不要だったとリリース後に語っており、以降の公認作品に収録される際はサブタイトルは基本的にカットされている。この曲のライブテイクを正式なタイトルにしなかったのもその理由からかも。


(以下、後日更新予定のDISC 3編へ続きます)