kanb 昨年の「KAN A面 Collection」に続き、KANの三回忌にあたる2025年11月12日に発売された「KAN B面 Collection」。前作同様オフィシャルサイトでは一切告知されず、発売元であるユニバーサルミュージックに商品情報が掲載されるのみという非公認ベスト(ジャケットの異様なシンプルさも前作準拠)のようなのですが、アルバム未収録のままの歴代のカップリング曲が多数回収できるという、「A面 Collection」よりもコアなファン向けにニーズがありそうな本作の発売を記念して、「CD Review Extra」にて全3回にわたり本作収録曲を1曲ずつレビュー。なお、カップリング曲のレビューは2010年に発売されたカップリング&アルバム未収録選集「Songs Out of Bounds」の発売時に一度行っており、そちらにも収録された曲に関しては元のレビューをアップデートして掲載していきます。第1回目はDISC 1、1987年から1992年までの全13曲をご紹介。


「KAN B面 Collection」全曲レビュー DISC 1編

※特記のない限り、作詞・作曲:KAN。

1.セルロイドシティも日が暮れて
 1987年4月25日発売、デビューシングル「テレビの中に」c/w。
 編曲はKAN単独名義。流麗なピアノに導かれて始まるベース、ドラムとのアンサンブルが嚙み合ったノリの良いポップな楽曲で、後年の「秋、多摩川にて」や「Songwriter」のプロトタイプ的な印象を受ける。作詞は高校時代の友人でアマチュア時代の音楽仲間でもある長島理生が担当。感じたことをそのまま書くKANの歌詞とは対照的に雰囲気重視で抽象的な歌詞(失恋ソング?)で、ちょっと職業作家っぽさも。表題曲共々、同時発売のデビューアルバム「テレビの中に」に収録された。

2.僕のGENUINE KISS
 1987年10月25日発売、2ndシングル「BRACKET」c/w。
 当時駆け出しの若手アレンジャーだった松本晃彦との共同編曲名義。君との恋の復活を真剣に願って歌う(口説いているだけのようにも見えるが)ミュージカルっぽい楽曲。軽妙なサウンドでまとめられた同時発売の2ndアルバム「NO-NO-YESMAN」のラストを飾る大団円的なナンバーでもある。筆者が2008年に初めて観に行ったKANのライブでは力強いバンドアレンジに変更されており、これがかなり良くこの曲の印象が上がった記憶がある。この時のライブ映像は同年6月発売のDVD「Sco Sco Sco Sco Scottish」に収録。

3.フランスについた日
 1988年6月25日発売、3rdシングル「だいじょうぶI'M ALL RIGHT」c/w。
 同時発売の3rdアルバム「GIRL TO LOVE」にも収録。進路のためのフランスへの渡航を決意しながらも、「君の夢」を気に掛ける主人公のモノローグ。1992年の著書「ぼけつバリほり」によると、レコード会社を移籍したいという思いを込めて書いた詞と明かされており、そう考えると意味深な歌詞であるか。編曲は松本晃彦と共同名義。80年代ならではの浮遊感のあるデジタルなサウンドメイキングになっており、5年後の1993年にはシングルのカップリングとしてアレンジャーを変更して再録音されている(本作DISC 2に収録)。
 余談だが、実際にKANが訪仏するのは公式サイトによると1991年の秋が最初。さらに音楽活動を休止していた2002年から2年間はパリに在住し、逝去の数ヶ月前の2023年には奥様と共に渡航していたことが後に語られている。

4.NEVER LEAVE
 1988年10月25日発売、4thシングル「OVER YOU」c/w。
 編曲はKANと林部直樹の共同名義。ピアノ独唱でAメロはバラード調で始まるが、途中からタッカタッカ跳ねたリズムの鼓笛隊っぽい(?)ミディアムナンバーに変貌。「大きなことこそ小さなもんからはじまるさ」というフレーズは結構良いことを言っているように思えるが、アレンジの影響であまり印象に残らないのが欠点か。初期の曲にしては珍しく、2022年の歌詞集「きむらの和歌詞」でもピックアップされていたのがちょっと意外だった。
 「OVER YOU」共々オリジナルアルバム未収録で、2010年の「Songs Out of Bounds」にてようやくアルバム初収録。

5.君から目がはなせない
 1989年5月1日発売、5thシングル「東京ライフ」c/w。
 金曜日の夜のパーティー(ディスコ?)で出会った「君」に一目ぼれして、ここから連れ出したい…というナンパ男が主人公。翌月の4thアルバム「HAPPY TITLE -幸福選手権-」にも収録されたが、この軽薄さがアルバム内では若干浮いている気も。なお曲中で視線を遮るように登場するウェイターはデビューアルバム「テレビの中に」に収録の「恋するDISCOMAN」の主人公と同一人物とのこと。軽快な打ち込みディスコチューンで、編曲は久々にKANが単独で担当している。
 元々はシングルA面曲としてリリースされる予定が直前の会議でひっくり返った…というエピソードが著書「ぼけつバリほり」で語られている。代わってシリアスな「東京ライフ」がA面になり、初期の代表曲となったのでこの決定は英断だったと思う。

6.ALL I WANT IS YOU
 1989年9月1日発売、6thシングル「REGRETS」c/w。
 4thアルバム「HAPPY TITLE -幸福選手権-」から表題曲共々のリカット(ジャケットもアルバム流用)。雨に濡れた夜景を眺めながら二人で過ごす…というムード溢れる歌詞なのだが、「二人の時ぐらい現実はなれよう」等、この二人どんな関係?と思わせる意味深な楽曲。ブラック・コンテンポラリー色の強い編曲は大谷幸が担当。
 この時期の曲としては映像化に恵まれており、1993年の「孔雀だもの」では、コーラスの西村正人、コリオグラファーの竹下宏太郎と共に踊りながら歌うライブ映像が、2000年の「AFRO37 -LIVE UNDER THE BALL-」では曲の途中でテンポアップしピアノの上でタップダンスを踊り始めるが実はやっているフリだった…というコントまがいの(笑)ライブ映像が残されている。

7.青春国道202(ツーオウツー)
 1990年5月25日発売、7thシングル「健全 安全 好青年」c/w。
 タイトルの「202」は、KANの地元福岡を走る国道202号線のことで、その近くで過ごした高校時代を大人になってから振り返る青春ナンバー。彼の数少ないいわゆる友情ソングである。「大学生が大人に見えた」というのは高校生目線では良く分かるフレーズ…ということは発売数年後の高校時代に聴いて実感した。同年7月発売の5thアルバム「野球選手が夢だった。」にも収録。
 元々は同じ事務所の森高千里のデビュー当時に提供したが没になった楽曲を、自分で歌詞を書いて歌った曲とのこと。編曲は佐藤準が初参加しているが、アレンジの方向性でKANとひと悶着あったらしく、彼が手掛けた曲は2曲のみで終わった。
 
8.それでもふられてしまう男(やつ)
 1990年9月1日発売、8thシングル「愛は勝つ」c/w。
 5thアルバム「野球選手が夢だった。」制作初期のストック曲で編曲は佐藤準が担当。元々は「GUINNESS」というタイトルがついていたが登録商標の問題でNGになり、「愛は勝つ」のリカットの際にこのタイトルになったとのこと。前のめり気味のアップテンポナンバーで、並み居るライバルたちをかわして君を自分のものにしたい…という攻めまくりの歌詞の内容とは裏腹に、タイトルはその結末を暗示しているというオチ?が哀愁を誘う。以前にも書いたが「健全 安全 好青年」でKANを知り、「愛は勝つ」のシングルを購入したところカップリング曲も好みだったのでアルバムに手を出して本格的なファンになった…という経緯を持つ筆者としては重要な楽曲である。2010年の「Songs Out of Bounds」にてアルバム初収録。

9.ときどき雲と話をしよう
 1991年4月25日発売、9thシングル「イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」の両A面曲。
 「野球選手が夢だった」以降のメイン体制となるKANと小林信吾の共同編曲名義。この年の春から始まったテレ朝の日曜夜のスポーツ報道番組「スポーツフロンティア」の初代エンディングテーマとして3ヶ月間使用された。メロディーは牧歌的なのだが、多忙な日々に追われるうちに「君」を失ってしまった…という悲しい失恋ソング。「愛は勝つ」でブレイクし激動の日々の中で制作されたということもあり妙な説得力がある。当時のインタビューでは、KAN本人が提唱した「セーブ・ザ・レバー・キャンペーン」のテーマ曲とされていたがそんなキャンペーンが展開されていたかどうかは定かではない(笑)。
 翌月発売の6thアルバム「ゆっくり風呂につかりたい」にも収録。以降冷遇された「イン・ザ・ネイム〜」と異なり、翌年2月のベストアルバム「めずらしい人生」にも選曲されるなど扱いは結構良い。また、後半部分に歌詞を追加して披露されたライブ音源も2001年にカップリングとしてリリースされている(本作のDISC 3に収録)。
 
10.恋する気持ち
 1991年7月11日発売、10thシングル「プロポーズ」の両A面曲。
 6thアルバム「ゆっくり風呂につかりたい」からリカットされた「プロポーズ」に対してこちらは未発表の新曲。「ゆっくり〜」のレコーディングで既に録音していた曲と語られている。恋に破れ、もう二度と恋はできないはずだった自分に新しく気になる相手が現れてどうしよう…という軽薄な男心をポップなサウンドで歌い上げている。「プロポーズ」と共にフジテレビ系「邦ちゃんのやまだかつてないテレビ」のコーナー主題歌のタイアップが付いた。
 現在の公式では「ときどき〜」同様カップリング扱いのようだが、発売当時はこの曲で歌番組に出演しているなど表題曲扱いであった。オリジナルアルバムには収録されず、翌年発売のベストアルバム「めずらしい人生」にてアルバム初収録。オリジナルアルバム未収録曲だったので「Songs Out of Bounds」にも収録された。

11.東京ライフ(Retake)
 1992年1月29日発売、11thシングル「こっぱみじかい恋」c/w。
 原曲は1989年の5thシングル。ベストアルバム「めずらしい人生」リリースにあたってピアノ弾き語りで新録されたものを先行して収録。弾き語りだからか編曲クレジットがない。機械的なオケで淡々と歌う原曲と異なり枯れ気味の声で歌い上げており、当時のKANの多忙さが反映されているかの如きリアリティがある。この後もライブバージョンや本名名義でのセルフカバーバージョンが発表されるのだが、個人的にはこのバージョンが飛び抜けて好きである。なお、発売当時にはタイトルに(Retake)は付記されていなかった。これが付記されるようになったのは公式サイトのディスコグラフィーが初出か?

12.Day By Day
 1992年3月25日発売、12thシングル「言えずのI LOVE YOU」c/w。
 3rdアルバム「GIRL TO LOVE」収録が初出で直近のベストアルバム「めずらしい人生」に収録された「言えず〜」を、ストリングスをオーバーダビングしてリミックスしたリカットシングル(説明長)のカップリングとして用意された新曲。片思いだが打ち明け話はできるぐらいの仲の相手を想い続けているが、相手からは明確な好意は向けられていない模様…という切ないソウル系ミディアムバラードで、表題曲のテーマを1992年現在のKANの感性で描いたような悲しい名曲である。
 翌年2月の7thアルバム「TOKYOMAN」ではボーカルをリテイクしたバージョンを収録。ライブでの経験か歌い回しが変わっている箇所がありそちらは小慣れた感がある。個人的はシングルバージョンの歌い方が好きだったりする。また、本曲はDISC 1の中で唯一アルバム初収録のバージョンでもある。

13.KANのChristmas Song
 1992年10月22日発売、13thシングル「死ぬまで君を離さない」c/w。
 KANと外国人のコーラス2名(Joey McCoyWornell Jones)で作り上げられた初にして唯一のアカペラナンバー。既に1987年に完成しておりライブでも披露されていた曲の初の音源化。約2分の短い楽曲で、クリスマスイブの夜に待ち合わせ場所で一人待ちぼうけ…というシチュエーション。KANの曲的にはその後悲しい展開を迎えそうな予感がするがとりあえず期待を持たせたまま曲は終わる。カップリング曲ながら「ケンタッキー・フライドチキン」のCMタイアップが付き、クリスマス時期に大量オンエアされ、年末にヒットチャートに再浮上しており、タイアップ効果って凄いな…と思った記憶がある。
 翌年の7thアルバム「TOKYOMAN」にも収録。公認ベストには2007年の「IDEAS -the very best of KAN-」に選曲された。28年後の2020年にはストリングスカルテットと録音したセルフカバーバージョンをカップリングの場で発表(本作のDISC 3に収録)。また、KAN逝去後の翌月となる2023年12月には、本曲をベーシックに縁のあったアーティストが多数参加した「KANのChristmas Song 2023」がラジオのみのオンエアで公開されていた(KAN with His Friends名義)。


(以下、後日更新予定のDISC 2編へ続きます)