sukimamuse 2024年7月10日発売、スキマスイッチの通算10枚目となるオリジナルアルバム。全11曲収録。CDのみの通常盤、ライブ映像やレコーディングドキュメンタリーを収録したBlu-ray付属のEPサイズBOX入りファンクラブ限定DELUXE盤(期間限定受注商品)の二形態での発売。なお、配信版もリリースされていますが、フィジカル盤の1曲目に収録された「Intro ~for Compact Disc~」をカットした全10曲でのドロップ。本レビューは配信版となります。

 2枚同時発売(通算8・9枚目とカウント)の前作オリジナルアルバムからは2年7ヶ月振り。以降は2023年のデビュー20周年ベストや、2024年の配信EPトリビュートアルバムなどのリリースがあり、前々作から前作までの間(コロナ禍の影響で制作が滞っていたと思われる時期)ほど久々のオリジナルという感覚はなく、10年代以降は2〜3年に1枚程度のオリジナルアルバムのペースを守ってきた彼らとしては順当なスパンでリリースしてきたな、という印象。なお2023年9月の配信シングル「コトバリズム」、2024年1月に配信され、2月にフィジカルシングル化された「Lovin' Song」が既発曲。また発売三週間前の6月19日には「クライマル」が先行配信されています。

 スキマスイッチといえば、デビュー当時から既にセルフプロデュースとしてある程度作風は完成されており、二人のユニットという利点を活かして曲調により異なるミュージシャンを起用しながらも基本的にはピアノをメインに据えた生音バンドサウンド…という音楽性をデビュー以来貫いてきたポップス職人というイメージなのですが、その姿勢はデビュー20周年を超えてリリースされた本作でも健在の安定感。またアルバム1枚を通しての構成に関しても、静かに始まり一気に盛り上がっていく実質1曲目の「ゼログラ」は開幕の役割を果たし、アルバムのリード曲的存在でありMVも制作された「逆転トリガー」の配置もまた然り。こうしたインパクトのある曲を序盤に配置し、アルバムならではのコミカルな箸休め的な「ごめんねベイビー」、彼らのアルバムでたまにある長大なアウトロで演奏時間が8分に及ぶダウナーなノリの「遠くでサイレンが泣く」、洒落たムードにちょっと格好悪い歌詞がミスマッチの「Lonelyの事情」で中盤を整え、シングル曲を挟んで終盤には感動的なバラードになだれ込んで行く…といった「オリジナルアルバムならではの流れ」については発売当時のインタビューでも語られている模様。筆者も2年前のサブスク導入以降、配信は活用している方だと思うのですが、こういうサイトをやっていることもあってアルバム作品は1枚を通して聴く習慣は継続しているものの、音楽の聴き方も、さらに送り出し方も自由になったサブスク全盛の昨今、本作のような「1枚で1つの作品」という構成へのアーティスト側からの拘りを知ることができたのは喜ばしいことだと思います。

 そして本作の個人的キモは何といっても「魔法がかかった日」。これは明らかに先輩ミュージシャンであり、共催イベントも行うなど親しい関係にあったKAN(2023年11月逝去)へ向けられた曲で、イントロからして「Songwriter」、スキマスイッチがデビューした後の作品としては「小さき花のテレジア」を彷彿とさせる流麗なピアノでスタートする本曲は、歌詞の要所に歴代のKANの楽曲タイトルを散りばめた、彼らからKANに捧げられたオマージュ作品。曲調的にはKANをパロディーしたわけではなく、スキマスイッチの要素もしっかりと入ったナンバーとなっており、特にKANを意識しなくても良い曲だなと思えるのですが、やはりKANファンの筆者としては嬉しい、そして少し寂しい楽曲として深く心に刻まれることになりました。

 商法的にはライト層向け(通常盤)とコアファン向け(ファンクラブ限定盤)に明らかに線を引き、ファンクラブは入ってないけどライブ映像やドキュメンタリーは観たいというような中間層の存在を無きが如しに扱った…という点は疑問に思うものの、スキマスイッチらしいポップミュージックとしての完成度の高さに加え、配信でのアラカルト的なリスニングが主流の世の中の今、1枚のオリジナルアルバムとして設計された構成が光った作品でした。