billylongisland 2024年5月31日発売、海外アーティストのライブアーカイブCDを輸入盤国内仕様で販売するIAC MUSIC JAPAN「Alive The Live」シリーズの一作としてリリースされた、ビリー・ジョエルのライブアルバム。全16曲収録。

 今回登場したのは1982年12月29日に本人の故郷であるニューヨークのロングアイランドで開催された、ナッソー・ベテランズ・メモリアル・コロシアムでの凱旋ライブ音源。これまでもビリーの秘蔵(?)ライブCDを何作かリリースしてきたAlive The Liveシリーズですが、本公演はかつてコロムビアから「LIVE FROM LONG ISLAND」というタイトルでVHSやLDで一度公式リリースされ、日本でもソニーから「N.Y.LIVE」というタイトルで発売済み。しかし映像メディアが移り変わる中で、現在に至るまで一度もDVD等での再発の類がされていないという不思議な作品。今回は音だけという形ではありますが「LIVE FROM〜」収録曲全曲を収めたライブアルバムとして日の目を見たということになります。

 封入ブックレットの英文を日本語訳した外付け帯と一体のライナーノーツによると、本公演は当時の最新アルバム「The Nylon Curtain」を引っ提げてのツアーの途上で行われたとのこと。既に70年代末にブレイクを果たし、80年代に入るとロック色の強い「Glass Houses」や、社会風刺の色合いを出した「The Nylon〜」と、従来のピアノマン的なスタイルから徐々に脱皮をし始めた頃のライブのようで、全体的にパワフルなパフォーマンス。大会場の万雷の拍手のオーディエンスを相手にした彼が率いる強固なツアーバンドによる演奏の迫力もいよいよスタジアム級といった感じ。
 選曲的には最新曲「Allentown」で幕を明け、ブレイク作「The Stranger」以降のアルバムを中心に2〜3曲ずつ万遍なく披露されるなど、凱旋ライブに相応しいベスト選曲かと。翌年のアルバム「An Innocent Man」辺りまでの選曲で現在に至るまでの鉄板セットリストがほぼ揃うのですが、もうこの時点で大半は固まったな、という意味ではピークまでもう少しの時期と言ったところでしょうか。序盤から観客が熱狂しているので、盛り上げ曲が惜しみなく投入される最終盤ではさらにヒートアップしていくのが音だけでも聞き取れるなど、演者のみならずオーディエンスからもエネルギーを感じますが、それでも最後は初期の名曲「Souvenir」でしっとりとステージを締めるのは個人的には嬉しいところ。
 ビリーの歌声は初期の繊細さと後期の力強さの中間という印象でCDに近く、長年彼のスタジオアルバムに馴染んだリスナーにも違和感なく聴けると思います。音質はマスターが傷んでいる箇所があるのか、途中で出力が怪しくなる瞬間も僅かにあって完璧というわけではありませんが気になったのはその程度で、よほど拘りがなければ十分な音質で楽しめるレベルだと思いました。

 このライブから数年後のロシア公演やヤンキースタジアムでのライブ等、後発の作品は21世紀になってからBlu-rayでのアップグレード版が発売されているにも関わらず、本公演は前述の通りコロムビアやソニーからの映像再発のアナウンスが全く出てこない(ブート盤がノーブランド品として販売されていたりはする模様)のが本当に残念。権利の問題等かもしれませんが、これだけエネルギーに満ち満ちたライブ、いつの日か公式な映像作品として観てみたいものです。