chagekazari 2024年8月28日発売、Chageの通算10作目(ミニアルバムもカウント)となるオリジナルアルバム。全10曲収録。CDのみの1枚形態と、加えてMVやスタジオライブ映像等を収録したBlu-ray/DVDが付属の2枚組形態での販売で、CD1枚が通常盤としての扱いの模様。さらにUNIVERSAL MUSIC STORE限定でCD+トートバッグの販売もあり。本レビューは発売と同時に配信されたサブスク(通常盤仕様)を聴いてのものとなります。

 ここ10年間はまとまった楽曲の発表は基本的にはミニアルバムか、それに準ずる形でのリリースが続いていたChageにとって、フルアルバム形態でのオリジナルアルバムリリースは2010年の「&C」から実に14年振り。といっても今回収録された新曲は7月31日に先行で配信リリースされていたデジタルシングル「飾りのない歌」と、新曲2曲の計3曲のみ。残りの7曲はファン投票で選ばれた(後述)Chage関連の楽曲を新録したものであり、厳密にはオリジナルアルバムというよりも新曲+セルフカバーの企画盤と呼んだほうがしっくり来るかも。

 表題曲であるミディアムバラード「飾りのない歌」は作詞をこの年の直木賞受賞作家であり、10年来の付き合いでもあるという万城目学が担当。氏のインタビューによると作詞は初挑戦とのことで、小説とは違って字数やメロディーという制約がある中で、言葉数少なめながら作家らしい表現も駆使して、チャゲアスファンでもある彼の手によって書かれたChage像という感じ。全編ゆったりとしたメロディーラインながら、アコギとピアノで静かに始まりバンドサウンドへと徐々に盛り上がっていく十川ともじ編曲による鉄板のポップスアレンジと噛み合った良曲。他の2曲は前作でも共作したtheSoulの河野健太郎とのタッグが再び実現。平メロの怪しげなマイナー調から突如光が開けたように明るいサビへの繋ぎが鮮やかな、アッパーで爽快なロックサウンドの「Begins Now 〜万華鏡の刹那〜」、ジャズに接近した叙情的な三連ミディアムの「横顔の月」と、どちらも従来のChageであるようでそうでもない…という新たなアプローチを仕掛けてきており、このコンビの楽曲、なかなか相性が良いのではないかと思いました。

 セルフカバー7曲は、2024年の1月末から4月末にかけて公式サイトで行われたネット投票「Chage BEST SONGS “電リク”」の投票結果からの選抜。結果としてはチャゲアス名義が3曲、MULTI MAX名義が2曲、Chageソロ名義で2曲というバランスの良いラインナップに(ちなみに収録曲発表動画によると1位はチャゲアスの「Reason」)。既に過去セルフカバー経験のある「ロマンシングヤード」「SOME DAY」に関しては再度の録音となりましたが、前者は「hurray!」収録バージョンをベーシックにバンド色を強め、後者はMULTI MAXの原曲に寄せた女性ボーカルとのデュエットという体裁で変化をつけた形に。これらの曲は現在のChageのツアーバンドである「1/6(ワンスラーシックス)」のメンバーによるほぼ一発録り状態でのレコーディングとのことで、各曲のサブタイトルにも「-1/6 ver.-」と表記されています。どの曲もロックバンド的、ライブ的な生音のアプローチが施され、原曲よりも躍動感が増した音像に仕上がっている中、個人的にはソロでリリースされた「TOKYO MOON」「equal」のセルフカバーが印象的。「TOKYO〜」は2011年の震災の後の初リリース作品、「equal」は前年に当時相方のASKAが起こした事件の後でのリリース作品ということで、どちらもどこか寂寥感や無常観のあるアレンジになっていたのですが、今回のセルフカバーではそれらを乗り越えた上で得た「今の優しさや強さ」を感じるChageの現在地点を示しているような出色の出来でした。

 なお、本作はデビュー45年目を迎えた「45th Anniversary Album」とも銘打たれています。1979年にチャゲ&飛鳥でデビューしたChageもいつの間にか還暦を過ぎて現在は67歳と、すっかり大御所の域なわけですが、毎年何曲か新曲を届けてくれるし、近年ではバンドツアー以外にも全国各地を歩き回るライブ紀行「Chageのずっと細道」を継続して行ったりと精力的な活動を続けており、本人のインタビューでも「(細道のおかげで)引退を意識しなくなった」と語るなど、ファンとしては嬉しいところ。今後も現役感溢れる活動に期待できそうです。