
「BEGIN さにしゃんベスト」全曲レビュー・DISC-1編
1.恋しくて
作詞・作曲:BEGIN/編曲:白井良明
1990年3月21日発売、デビューシングル。
前年夏にTBS系の深夜バラエティ「平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国」(通称イカ天)のバンド対決コーナーに出演し、失恋バラードであるこの曲を演奏したところ大評判になり、五週連続で勝ち抜いて二代目グランドイカ天キングを獲得。デビューへの大きな足掛かりとなった。実際は半ば冗談のつもりで応募したら本選に進出してしまい、オリジナルの持ち歌がほとんどなかったので勝ち抜けば勝ち抜くほどにギリギリの状態であった…ということが、1998年のメンバー自著「さとうきび畑の風に乗って」で明かされている。
オリコン最高位4位、20万枚を売り上げ、デビュー曲にしてBEGINの最高売上のシングル曲ということで、バージョン違いを含めればベスト系には当然ながら皆勤。そのベストでもほぼ1曲目に配置されることが多い。
2.いつものように
作詞・作曲:BEGIN/編曲:白井良明
1990年6月23日発売、デビューアルバム「音楽旅団」収録曲。
晴れてデビューを果たしたものの、前述の通りオリジナルの持ち歌がほとんどなかった彼らをサポートすべく、初期のアルバムでは提供作家の楽曲を歌うことが多かった彼らだが、この曲はデビューアルバムでは「恋しくて」以外唯一のBEGIN単独名義での作詞・作曲。デビュー前から存在した楽曲とのことで、軽やかに跳ねたビートに乗って燻る思いを抱きながらも前向きに進んで行く意志を感じるポジティブナンバー。2008年3月の初のライブ選曲集「BEGINライブ大全集」では1993年の京都での演奏がセレクトされているが、曲中で上地等がさだまさしのモノマネをするなどおちゃらけた雰囲気なのが微笑みを誘う。ベストアルバムへのスタジオ音源の選曲は本作が初。
3.Blue Snow
作詞:BEGIN・川村真澄/作曲:BEGIN・山田直毅/編曲:白井良明
1990年12月1日発売、2ndシングル。
クリスマスの街を舞台にした切ない片想いソング。当時世間的には若手のブルースバンドが出てきたという見方をされていたようだが、そのイメージに沿った、シングル2作目にして枯れた味わいの渋い楽曲である。本ベストの発売を記念し、公式動画で当時制作のMVが公開されたが、メンバーが普段着で海に潜ったりするなどやらされている感の強い珍妙な映像に仕上がっていた(当時はこういうのが流行りだったのか…?)。
余談だが、1990年末のNHKのクリスマスライブ特番にこの曲で出演。筆者(当時小学生)はこの番組をリアルタイムで何となく観ていた記憶があったが、近年CSでの番組オンエアを拝見してはっきりと思い出した。イカ天を観ていなかった筆者にとってBEGINの初鑑賞はこの時だった、ということになる。
4.YOU
作詞:BEGIN・真名杏樹/作曲:BEGIN/編曲:岡田徹
1991年11月10日発売、3rdシングル。
プロとしての楽曲制作も徐々に経験していく中で、納得の行く曲が作れたということでメンバー内ではシングルタイトル曲の候補に挙がっていたが、シングルにはビールのCMタイアップのついた別の提供楽曲をA面にするという会社側の判断に対して猛反発し、会社と協議。その結果、その曲(「これがはじまりだから」)と両A面という形でリリースされたという経緯を持つ楽曲。セールス的には結局ふるわなかったが、自分達の意志を貫いたということが良い経験になった、と後に語られているように、BEGINにとっては大事な1曲となっているようだ。曲自体は爽やかな励ましソング。
5.愛が走る
作詞:辻仁成/作曲・編曲:BEGIN
1997年11月21日発売、13thシングル。
レコード会社をファンハウスに移籍し、1992年より5年間在籍後に古巣のテイチクに戻ってきた後のシングル…ということで、一気に時代が6年間飛んだが、この間に音楽的な経験値を積み重ね、制作にもその成果が表れ出してきた頃の楽曲。イントロのアコギの音からこれまでに無かったような自信を感じるラテンナンバー。TBS系時代劇「南町奉行事件帖 怒れ!求馬」の主題歌に起用されたが、時代劇ということを意識しすぎて詞が書けず、辻仁成に手掛けてもらったとのこと(提供された詞は完全に現代が舞台)。打ち込みパーカッション、重ね録りのアコギ、ボーカルにコーラスという、余分な装飾を排してシンプルな音像に拘っていた当時のコンセプトに合致した佳曲。
6.防波堤で見た景色
作詞・作曲・編曲:BEGIN
1998年8月12日発売、16thシングル。
初出は同年6月の9thアルバム「Tokyo Ocean」に収録のアルバム曲。大阪のFM802にてヘビーローテーションを獲得し、約2ヶ月後に4小節のアコギのイントロが追加されたシングルバージョンとしてシングルカットされた。
青春時代を過ごした防波堤で夢見た景色を追って故郷を離れ、忙しい街で暮らす日々の葛藤を久し振りに再会した旧友とのやり取りを通して綴る叙情的なバラード。10年前のレビューにも書いたが当時実家を離れて大学生活を送る日々の中でリアルタイムで聴いたこともあり、筆者の中ではBEGINの楽曲の中でも特に思い出深い曲である。シングルバージョンは2001年2月の10周年ベスト「BEGIN BEST 1990-2000」にて初収録。その後もベスト系には毎回収録されるので、今や隠れた名曲ではなく一般的にも代表曲的な知名度を獲得している感も。
7.涙そうそう
作詞:森山良子/作曲:BEGIN/編曲:萩田光雄
2000年3月23日発売、18thシングル。
BEGINが楽曲提供を行った森山良子の1998年のアルバム「TIME IS LONELY」に収録されたのが原曲。デビュー10周年を迎えた2000年に記念になるシングルを…ということで候補に挙がり、BEGINバージョンとしてレコーディングされ世に出た。この時はそれほど話題にならなかったが、翌年に夏川りみ(姉がBEGINと同級生で旧知の仲)がカバー。このバージョンがヒットしたことでBEGINの知名度上昇にも貢献。2003年のNHK紅白歌合戦には、森山・BEGIN・夏川の3組でこの曲を披露している。
BEGINバージョンとしても様々なバージョンが存在するが、2024年10月発売の企画アルバム「ビギンの盆マルシャ」では盆踊りバージョンというコンセプトでリアレンジがなされた。森山が早逝した兄を想って綴った歌詞ということで、亡き人を偲ぶお盆に踊るという意味ではテーマに沿っている気がするが、それでも異色であった。
8.イラヨイ月夜浜
作詞:大島保克/作曲:比嘉栄昇/編曲:BEGIN
2000年7月21日発売、企画アルバム「ビギンの島唄 オモトタケオ」収録曲。
元々は八重山高校時代の同級生で沖縄民謡と自作曲を並行して活動する唄者である大島保克の1993年のデビューアルバム「北風南風」への収録が初出。1995年10月のBEGINの初セルフプロデュースアルバム「USED」にてBEGINバージョンが初録音。その後2000年の初の島唄アルバムにてリアレンジされて再録音されたバージョンがこちら。月が照らす夜の浜辺の情景を三線・ギター・ピアノによるメンバーのみのアコースティックスタイルで奏でるリアレンジとなり、ぐっと完成度が増した。2008年の「BEGINライブ大全集」にはこのバージョンを再現した長崎・諫早でのライブバージョンが収録。また、大島にとっても代表曲であり、セルフカバーを二度行っている。
9.竹富島で会いましょう
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2000年7月21日発売、企画アルバム「ビギンの島唄 オモトタケオ」収録曲。
デビュー10周年を記念してメンバーがレコード会社に呼びかけ、オリジナル島唄の企画アルバム制作が実現。既発曲の再録音や標準語で歌われる島唄など、試行錯誤の跡が見られる本作の中では、以降開花するBEGINのオリジナル島唄の雛型とも呼べるノリ良く、分かりやすく、軽快な楽曲。なお舞台の竹富島とは八重山諸島に存在する島のひとつ。2005年の自著「肝心 BEGIN ON BEGIN」によると、竹富島でのアルバム売上枚数が島の人口(当時260人)を超えたらライブを開催すると宣言したところ、400枚を突破したことで、2002年の夏には実際に竹富島の小中学校の校庭でライブが行われたとのこと。
10.かりゆしの夜
作詞:BEGIN・大島保克/作曲:BEGIN/編曲:BEGIN・大島保克
2000年3月23日発売、18thシングル「涙そうそう」のカップリング曲。
自著「肝心 BEGIN ON BEGIN」によると、元々は前年(1999年)の琉球フェスティバル出演に際して大島保克と共作したものを、歌詞を書き替えてスタジオ録音したという経緯を辿ったとのこと。大島は三線に加えてコーラスでも参加。終始掛け合いコーラスでの歌唱となるのだが、最後の最後で左チャンネルから「かりゆしの夜よ〜」とサビの終わりを一人で歌うパートがあるなど地味にフィーチャリングされている。ダイナミックなメロディーをゆったりとしたビートで奏で始め、曲の中盤でテンポアップしてカチャーシーを踊るパートが差し込まれるなど、ライブ向けに作った曲ならではという楽曲構成。実際にもライブ定番曲となり、ライブでの人気曲を選曲した2019年10月の「BEGIN ガジュマルベスト」にも選出。翌月発売の「BEGINライブ大全集2」には2013年のブラジル公演テイクが収録された。
11.ボトル二本とチョコレート
作詞・作曲:BEGIN/編曲:BEGIN・梅口敦史・大浜浩一
2002年2月27日発売、22ndシングル。
90年代のBEGINのライブにサポートドラマーとしても参加し、2001年に夭折した同級生・盛山達也に捧げられた楽曲。レコーディングは盛山がかつて在籍した石垣第二中学校のブラスバンド部と体育館で行われた。本ベストの発売に際して、当時の様子を撮影したMVが公式動画にて公開されている。陽気なブラスロックに加え、後追いのシンガロング系コーラスもあるので、現在に至るまで盛り上げナンバーとしてライブで定着している模様。
12.島人ぬ宝
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2002年5月22日発売、23rdシングル。
2001年秋の「あたらしい沖縄のうたコンサート」にて初披露、翌年の沖縄本土復帰30周年に向けて、中学生達の詩を推敲して作り上げられた、地に足を着けたビートで「自分が生まれた沖縄という島への想い」を歌う楽曲。直近の沖縄ブームという追い風も相俟って同年末のNHK紅白歌合戦に初出場。「恋しくて」は知らないけどこの曲だけは知っている、という層も増えるなどセールス以上にBEGINの代表曲となった。2002年6月には公式カセットテープとして「涙そうそう」とカップリングされてリリースされている。また、2017年には発売15周年記念として、内容はそのままに価格を廉価にリニューアルしたシングル(当時の税込で定価1,000円)がリリース。2022年には20周年記念として歴代のライブの模様を組み合わせて構成された公式MVが制作されている。
13.オジー自慢のオリオンビール
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2002年7月3日発売、企画アルバム「ビギンの島唄 オモトタケオ2」収録曲。
沖縄の大手ビール会社・オリオンビールのCMソングを依頼され、クライアントとの話し合いで手直ししていくうちにコテコテの島唄が完成。人気曲「島人ぬ宝」が収録されたアルバムの新曲という話題性もあり、こちらも地元で愛されるBEGINの看板曲となった。翌年2月には構成や歌詞、和太鼓等の演奏を追加した「エイサー・バージョン」を沖縄限定シングルとしてリリース。2015年6月発売の企画アルバム「ビギンのマルシャ ショーラ」にはブラジルのサンバのリズムを取り入れたマルシャ ショーラバージョンとしてショートサイズでセルフカバーされている。
14.オバー自慢の爆弾鍋
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2002年7月3日発売、企画アルバム「ビギンの島唄 オモトタケオ2」収録曲。
「オジー自慢のオリオンビール」と対になる楽曲(アルバムでも連続して収録され、シングルカットの際もカップリングにエイサー・バージョンで収録)だが、楽曲が誕生したのはこの曲が先とのこと。畑で拾った不発弾を鍋にして、女手ひとつでの屋台から始まった食堂を切り盛りし56年というオバーが主人公。サビで沖縄の郷土料理が連呼されるなどキャッチーなのだが、演奏は陽気な「オジー〜」と比べて意外にもロック色が強い。なお、歌詞の元ネタは上地等の祖母が畑で爆弾の残骸を拾い鍛冶屋で鍋に仕立て直してもらった、という話を比嘉栄昇が膨らませて歌詞にしたとのことだが、あくまでフィクションで細かい設定は異なるという話らしい。
15.声のおまもりください(一五一会バージョン)
作詞:田代五月・一倉宏/作曲・編曲:BEGIN
2003年7月24日発売、セルフカバーアルバム「ビギンの一五一会」収録曲。
原曲は1996年7月に発売され、アステル東京のPHSのCMソングとしてスマッシュヒットを飛ばした通算10枚目のシングル。BEGINとヤイリギターが共同開発した四弦ギター「一五一会」をフィーチャーしたセルフカバーアルバム制作の際に再録音したバージョン。全体的な雰囲気はそれほど変わらないが、イントロが刷新され、コーラスもオミットされ、ピアノで刻むリズムが強調されるなど、オリジナルのトロピカルな雰囲気から若干引き締まったバージョンとなった。
「恋しくて」以来のヒット曲となり、原曲は歴代のベストにもほぼ収録されているのだが、ファンハウス時代のヒット曲がこの曲だけということでなかなか音源を借りにくいのか、2019年の「BEGIN ガジュマルベスト」では未収録。今回はバージョン違いという形だがなんとか収録され、筆者の溜飲を下げた(?)。
16.誓い
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2004年8月11日発売、27thシングル。
同年夏のテレ朝系スポーツ番組「熱闘甲子園」テーマソングに起用。BEGINにしては珍しいピアノ独唱から始まる熱唱型のバラード。歌詞も抽象的なフレーズが多く、聴き手に解釈を委ねるという意味では異色か。翌年2月のベスト「BEGINシングル大全集」に収録され、オリジナルアルバムには未収録。ただし、「熱闘甲子園」の歴代テーマソングを収録した2010年のソニー系コンピレーション「熱闘甲子園のうた 〜夏の高校野球応援ソング〜」にはレーベルの壁を超えて収録。なお、インストとしてはシングル発売の約一ヶ月前となる7月14日にリリースされた島袋優プロデュースの一五一会演奏アルバム「Reef Line」に先行して発表されている。
(以下、後日更新予定のDISC-2編へ続きます)
1.恋しくて
作詞・作曲:BEGIN/編曲:白井良明
1990年3月21日発売、デビューシングル。
前年夏にTBS系の深夜バラエティ「平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国」(通称イカ天)のバンド対決コーナーに出演し、失恋バラードであるこの曲を演奏したところ大評判になり、五週連続で勝ち抜いて二代目グランドイカ天キングを獲得。デビューへの大きな足掛かりとなった。実際は半ば冗談のつもりで応募したら本選に進出してしまい、オリジナルの持ち歌がほとんどなかったので勝ち抜けば勝ち抜くほどにギリギリの状態であった…ということが、1998年のメンバー自著「さとうきび畑の風に乗って」で明かされている。
オリコン最高位4位、20万枚を売り上げ、デビュー曲にしてBEGINの最高売上のシングル曲ということで、バージョン違いを含めればベスト系には当然ながら皆勤。そのベストでもほぼ1曲目に配置されることが多い。
2.いつものように
作詞・作曲:BEGIN/編曲:白井良明
1990年6月23日発売、デビューアルバム「音楽旅団」収録曲。
晴れてデビューを果たしたものの、前述の通りオリジナルの持ち歌がほとんどなかった彼らをサポートすべく、初期のアルバムでは提供作家の楽曲を歌うことが多かった彼らだが、この曲はデビューアルバムでは「恋しくて」以外唯一のBEGIN単独名義での作詞・作曲。デビュー前から存在した楽曲とのことで、軽やかに跳ねたビートに乗って燻る思いを抱きながらも前向きに進んで行く意志を感じるポジティブナンバー。2008年3月の初のライブ選曲集「BEGINライブ大全集」では1993年の京都での演奏がセレクトされているが、曲中で上地等がさだまさしのモノマネをするなどおちゃらけた雰囲気なのが微笑みを誘う。ベストアルバムへのスタジオ音源の選曲は本作が初。
3.Blue Snow
作詞:BEGIN・川村真澄/作曲:BEGIN・山田直毅/編曲:白井良明
1990年12月1日発売、2ndシングル。
クリスマスの街を舞台にした切ない片想いソング。当時世間的には若手のブルースバンドが出てきたという見方をされていたようだが、そのイメージに沿った、シングル2作目にして枯れた味わいの渋い楽曲である。本ベストの発売を記念し、公式動画で当時制作のMVが公開されたが、メンバーが普段着で海に潜ったりするなどやらされている感の強い珍妙な映像に仕上がっていた(当時はこういうのが流行りだったのか…?)。
余談だが、1990年末のNHKのクリスマスライブ特番にこの曲で出演。筆者(当時小学生)はこの番組をリアルタイムで何となく観ていた記憶があったが、近年CSでの番組オンエアを拝見してはっきりと思い出した。イカ天を観ていなかった筆者にとってBEGINの初鑑賞はこの時だった、ということになる。
4.YOU
作詞:BEGIN・真名杏樹/作曲:BEGIN/編曲:岡田徹
1991年11月10日発売、3rdシングル。
プロとしての楽曲制作も徐々に経験していく中で、納得の行く曲が作れたということでメンバー内ではシングルタイトル曲の候補に挙がっていたが、シングルにはビールのCMタイアップのついた別の提供楽曲をA面にするという会社側の判断に対して猛反発し、会社と協議。その結果、その曲(「これがはじまりだから」)と両A面という形でリリースされたという経緯を持つ楽曲。セールス的には結局ふるわなかったが、自分達の意志を貫いたということが良い経験になった、と後に語られているように、BEGINにとっては大事な1曲となっているようだ。曲自体は爽やかな励ましソング。
5.愛が走る
作詞:辻仁成/作曲・編曲:BEGIN
1997年11月21日発売、13thシングル。
レコード会社をファンハウスに移籍し、1992年より5年間在籍後に古巣のテイチクに戻ってきた後のシングル…ということで、一気に時代が6年間飛んだが、この間に音楽的な経験値を積み重ね、制作にもその成果が表れ出してきた頃の楽曲。イントロのアコギの音からこれまでに無かったような自信を感じるラテンナンバー。TBS系時代劇「南町奉行事件帖 怒れ!求馬」の主題歌に起用されたが、時代劇ということを意識しすぎて詞が書けず、辻仁成に手掛けてもらったとのこと(提供された詞は完全に現代が舞台)。打ち込みパーカッション、重ね録りのアコギ、ボーカルにコーラスという、余分な装飾を排してシンプルな音像に拘っていた当時のコンセプトに合致した佳曲。
6.防波堤で見た景色
作詞・作曲・編曲:BEGIN
1998年8月12日発売、16thシングル。
初出は同年6月の9thアルバム「Tokyo Ocean」に収録のアルバム曲。大阪のFM802にてヘビーローテーションを獲得し、約2ヶ月後に4小節のアコギのイントロが追加されたシングルバージョンとしてシングルカットされた。
青春時代を過ごした防波堤で夢見た景色を追って故郷を離れ、忙しい街で暮らす日々の葛藤を久し振りに再会した旧友とのやり取りを通して綴る叙情的なバラード。10年前のレビューにも書いたが当時実家を離れて大学生活を送る日々の中でリアルタイムで聴いたこともあり、筆者の中ではBEGINの楽曲の中でも特に思い出深い曲である。シングルバージョンは2001年2月の10周年ベスト「BEGIN BEST 1990-2000」にて初収録。その後もベスト系には毎回収録されるので、今や隠れた名曲ではなく一般的にも代表曲的な知名度を獲得している感も。
7.涙そうそう
作詞:森山良子/作曲:BEGIN/編曲:萩田光雄
2000年3月23日発売、18thシングル。
BEGINが楽曲提供を行った森山良子の1998年のアルバム「TIME IS LONELY」に収録されたのが原曲。デビュー10周年を迎えた2000年に記念になるシングルを…ということで候補に挙がり、BEGINバージョンとしてレコーディングされ世に出た。この時はそれほど話題にならなかったが、翌年に夏川りみ(姉がBEGINと同級生で旧知の仲)がカバー。このバージョンがヒットしたことでBEGINの知名度上昇にも貢献。2003年のNHK紅白歌合戦には、森山・BEGIN・夏川の3組でこの曲を披露している。
BEGINバージョンとしても様々なバージョンが存在するが、2024年10月発売の企画アルバム「ビギンの盆マルシャ」では盆踊りバージョンというコンセプトでリアレンジがなされた。森山が早逝した兄を想って綴った歌詞ということで、亡き人を偲ぶお盆に踊るという意味ではテーマに沿っている気がするが、それでも異色であった。
8.イラヨイ月夜浜
作詞:大島保克/作曲:比嘉栄昇/編曲:BEGIN
2000年7月21日発売、企画アルバム「ビギンの島唄 オモトタケオ」収録曲。
元々は八重山高校時代の同級生で沖縄民謡と自作曲を並行して活動する唄者である大島保克の1993年のデビューアルバム「北風南風」への収録が初出。1995年10月のBEGINの初セルフプロデュースアルバム「USED」にてBEGINバージョンが初録音。その後2000年の初の島唄アルバムにてリアレンジされて再録音されたバージョンがこちら。月が照らす夜の浜辺の情景を三線・ギター・ピアノによるメンバーのみのアコースティックスタイルで奏でるリアレンジとなり、ぐっと完成度が増した。2008年の「BEGINライブ大全集」にはこのバージョンを再現した長崎・諫早でのライブバージョンが収録。また、大島にとっても代表曲であり、セルフカバーを二度行っている。
9.竹富島で会いましょう
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2000年7月21日発売、企画アルバム「ビギンの島唄 オモトタケオ」収録曲。
デビュー10周年を記念してメンバーがレコード会社に呼びかけ、オリジナル島唄の企画アルバム制作が実現。既発曲の再録音や標準語で歌われる島唄など、試行錯誤の跡が見られる本作の中では、以降開花するBEGINのオリジナル島唄の雛型とも呼べるノリ良く、分かりやすく、軽快な楽曲。なお舞台の竹富島とは八重山諸島に存在する島のひとつ。2005年の自著「肝心 BEGIN ON BEGIN」によると、竹富島でのアルバム売上枚数が島の人口(当時260人)を超えたらライブを開催すると宣言したところ、400枚を突破したことで、2002年の夏には実際に竹富島の小中学校の校庭でライブが行われたとのこと。
10.かりゆしの夜
作詞:BEGIN・大島保克/作曲:BEGIN/編曲:BEGIN・大島保克
2000年3月23日発売、18thシングル「涙そうそう」のカップリング曲。
自著「肝心 BEGIN ON BEGIN」によると、元々は前年(1999年)の琉球フェスティバル出演に際して大島保克と共作したものを、歌詞を書き替えてスタジオ録音したという経緯を辿ったとのこと。大島は三線に加えてコーラスでも参加。終始掛け合いコーラスでの歌唱となるのだが、最後の最後で左チャンネルから「かりゆしの夜よ〜」とサビの終わりを一人で歌うパートがあるなど地味にフィーチャリングされている。ダイナミックなメロディーをゆったりとしたビートで奏で始め、曲の中盤でテンポアップしてカチャーシーを踊るパートが差し込まれるなど、ライブ向けに作った曲ならではという楽曲構成。実際にもライブ定番曲となり、ライブでの人気曲を選曲した2019年10月の「BEGIN ガジュマルベスト」にも選出。翌月発売の「BEGINライブ大全集2」には2013年のブラジル公演テイクが収録された。
11.ボトル二本とチョコレート
作詞・作曲:BEGIN/編曲:BEGIN・梅口敦史・大浜浩一
2002年2月27日発売、22ndシングル。
90年代のBEGINのライブにサポートドラマーとしても参加し、2001年に夭折した同級生・盛山達也に捧げられた楽曲。レコーディングは盛山がかつて在籍した石垣第二中学校のブラスバンド部と体育館で行われた。本ベストの発売に際して、当時の様子を撮影したMVが公式動画にて公開されている。陽気なブラスロックに加え、後追いのシンガロング系コーラスもあるので、現在に至るまで盛り上げナンバーとしてライブで定着している模様。
12.島人ぬ宝
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2002年5月22日発売、23rdシングル。
2001年秋の「あたらしい沖縄のうたコンサート」にて初披露、翌年の沖縄本土復帰30周年に向けて、中学生達の詩を推敲して作り上げられた、地に足を着けたビートで「自分が生まれた沖縄という島への想い」を歌う楽曲。直近の沖縄ブームという追い風も相俟って同年末のNHK紅白歌合戦に初出場。「恋しくて」は知らないけどこの曲だけは知っている、という層も増えるなどセールス以上にBEGINの代表曲となった。2002年6月には公式カセットテープとして「涙そうそう」とカップリングされてリリースされている。また、2017年には発売15周年記念として、内容はそのままに価格を廉価にリニューアルしたシングル(当時の税込で定価1,000円)がリリース。2022年には20周年記念として歴代のライブの模様を組み合わせて構成された公式MVが制作されている。
13.オジー自慢のオリオンビール
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2002年7月3日発売、企画アルバム「ビギンの島唄 オモトタケオ2」収録曲。
沖縄の大手ビール会社・オリオンビールのCMソングを依頼され、クライアントとの話し合いで手直ししていくうちにコテコテの島唄が完成。人気曲「島人ぬ宝」が収録されたアルバムの新曲という話題性もあり、こちらも地元で愛されるBEGINの看板曲となった。翌年2月には構成や歌詞、和太鼓等の演奏を追加した「エイサー・バージョン」を沖縄限定シングルとしてリリース。2015年6月発売の企画アルバム「ビギンのマルシャ ショーラ」にはブラジルのサンバのリズムを取り入れたマルシャ ショーラバージョンとしてショートサイズでセルフカバーされている。
14.オバー自慢の爆弾鍋
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2002年7月3日発売、企画アルバム「ビギンの島唄 オモトタケオ2」収録曲。
「オジー自慢のオリオンビール」と対になる楽曲(アルバムでも連続して収録され、シングルカットの際もカップリングにエイサー・バージョンで収録)だが、楽曲が誕生したのはこの曲が先とのこと。畑で拾った不発弾を鍋にして、女手ひとつでの屋台から始まった食堂を切り盛りし56年というオバーが主人公。サビで沖縄の郷土料理が連呼されるなどキャッチーなのだが、演奏は陽気な「オジー〜」と比べて意外にもロック色が強い。なお、歌詞の元ネタは上地等の祖母が畑で爆弾の残骸を拾い鍛冶屋で鍋に仕立て直してもらった、という話を比嘉栄昇が膨らませて歌詞にしたとのことだが、あくまでフィクションで細かい設定は異なるという話らしい。
15.声のおまもりください(一五一会バージョン)
作詞:田代五月・一倉宏/作曲・編曲:BEGIN
2003年7月24日発売、セルフカバーアルバム「ビギンの一五一会」収録曲。
原曲は1996年7月に発売され、アステル東京のPHSのCMソングとしてスマッシュヒットを飛ばした通算10枚目のシングル。BEGINとヤイリギターが共同開発した四弦ギター「一五一会」をフィーチャーしたセルフカバーアルバム制作の際に再録音したバージョン。全体的な雰囲気はそれほど変わらないが、イントロが刷新され、コーラスもオミットされ、ピアノで刻むリズムが強調されるなど、オリジナルのトロピカルな雰囲気から若干引き締まったバージョンとなった。
「恋しくて」以来のヒット曲となり、原曲は歴代のベストにもほぼ収録されているのだが、ファンハウス時代のヒット曲がこの曲だけということでなかなか音源を借りにくいのか、2019年の「BEGIN ガジュマルベスト」では未収録。今回はバージョン違いという形だがなんとか収録され、筆者の溜飲を下げた(?)。
16.誓い
作詞・作曲・編曲:BEGIN
2004年8月11日発売、27thシングル。
同年夏のテレ朝系スポーツ番組「熱闘甲子園」テーマソングに起用。BEGINにしては珍しいピアノ独唱から始まる熱唱型のバラード。歌詞も抽象的なフレーズが多く、聴き手に解釈を委ねるという意味では異色か。翌年2月のベスト「BEGINシングル大全集」に収録され、オリジナルアルバムには未収録。ただし、「熱闘甲子園」の歴代テーマソングを収録した2010年のソニー系コンピレーション「熱闘甲子園のうた 〜夏の高校野球応援ソング〜」にはレーベルの壁を超えて収録。なお、インストとしてはシングル発売の約一ヶ月前となる7月14日にリリースされた島袋優プロデュースの一五一会演奏アルバム「Reef Line」に先行して発表されている。
(以下、後日更新予定のDISC-2編へ続きます)
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