KANの命日である11月12日に、ぴあアリーナMMにて開催されたトリビュートライブ「KANタービレ 〜今夜は帰さナイトフィーバー〜」が、来年1月19日にフジテレビTWOにて放送されるそうです。かつてバンドライブツアーのダイジェストを地上波やBSで放送していた縁もあるフジ系でのオンエアで、今回は有料チャンネルですがご興味のある方は是非。さて、同日発売のシングルベスト「KAN A面 Collection」の全曲レビュー、今回はDISC 2編。1992年の「死ぬまで君を離さない」から1998年の「サンクト・ペテルブルグ 〜ダジャレ男の悲しきひとり旅〜」までの全12曲を1曲ずつレビューいたします。
「KAN A面 Collection」全曲レビュー DISC 2編
※特記のない限り、作詞・作曲:KAN/編曲:小林信吾・KAN。
1.死ぬまで君を離さない
1992年10月22日発売、13thシングル。
メインでコードを鳴らすシンセの音色が印象的な、力強いバンドサウンドに乗せて愛する「君」に永遠を誓う体温高めのロッカバラード。KANの楽曲の主人公はだいたい煮え切らない態度が多いのだが、この曲に関してはド直球のプロポーズソングと呼べるのでは。ただ熱い想いをぶつけられている相手の心情が全く描かれていないのが気になる…というのは穿ちすぎか(?)。カップリング曲の「KANのChristmas Song」がクリスマスの時期にケンタッキーフライドチキンのテレビCMに起用されたことで年末にオリコンチャートに再浮上しており、むしろ現在ではカップリングのほうが有名になるという主従逆転現象が発生している。
ライブでは演奏される機会は少なかったが、冠婚葬祭をテーマにした1999年のライブツアーではコンセプトに合致したのか、この曲をハンドマイクで熱唱している姿がライブ作品「UNCUTTABLE 129min.」にて確認できる。余談だが、このシングルの背の部分には「死ぬまで君を離さない」としか書かれていない。アーティスト名も同時に掲載されるのが通常なところタイトルだけの表記なのがかなり謎であった。
2.丸いお尻が許せない
1993年1月21日発売、14thシングル。
タイトル通り、有り体に言って男のセックス願望を描いたスケベ系ソング。メロディーはキャッチー、アレンジは爽やかなポップ調なのであまりイヤらしさは感じないのだが、歌詞が結構きわどく、これをMステやCOUNT DOWN 100などのゴールデンタイムの歌番組で披露していたあたり、振り返れば大らかな時代であった。本人曰く「30歳を過ぎたら自分の頭の8割を占めるこういったテーマの曲も作っておかなければ」とのこと(KANは前年9月に三十路を迎えていた)で、その8割の部分はこの後も「夏は二の腕発情期」だの「ひざまくら」だの「胸の谷間」だので存分に活用されることになる(苦笑)。
翌月の7thアルバム「TOKYOMAN」では表記はないがアルバムバージョンで収録。シングルではフェードアウトで終わるのだが、アルバムでは最後まで完奏。さらにアウトロの部分で「オシリ〜♪」というコーラスが2回繰り返されて終わるどんだけお尻が好きなんだ。
3.まゆみ
1993年4月21日発売、15thシングル。
「TOKYOMAN」からのリカット・シングル。三ツ矢サイダーのイメージソングとしてこの年の春から夏にかけてテレビCMでオンエア。その効果でシングルカットながらロングランを記録し、約18万枚を売り上げて「愛は勝つ」に次ぐ自身二番手のヒット曲となった。
別々に作っていた曲のメロディーを無理やり合体させて1曲にした、と発売当時から本人が語っており、確かに淡々とした平メロから跳ねるようなサビへの繋ぎ方が強引なのだが、サビ直前で派手に盛り上げるアレンジによるドラマチックな展開にはカタルシスがある。歌詞についてはKAN自身はほとんど言及していないが、好意を持つ相手に恋焦がれるも、想いも伝えられずにただ見ているだけ…というまさにKANの曲恒例のウブな主人公像で、この曲のヒットにより「愛は勝つ」とは異なるナイーブな歌詞の作品が陽の目を見たのは良いことだったと思う。以降発売のベストには公認・非公認問わず全て選曲されている。
4.いつもまじめに君のこと
1993年11月17日発売、16thシングル。
歩くテンポに近い軽やかなノリで展開されるミディアムナンバーで、なかなか会えない君を想いながらも、君のことを気遣う紳士的(?)な主人公によるラブソング。曲中で悲しい出来事も特に起こらず割と良い状態…という状況は彼の曲の中では珍しいか。楽曲としては悪くないのだが、セールス的にはこの辺りで「愛は勝つ」からついてきたファンが離脱していったのか、一気に2万枚台まで落ち込んでしまった。ストリングスのリフが曲中にふんだんに使われており、2017年のセルフカバーアルバム「la RINASCENTE」では弦楽四重奏+ピアノという形で新録されている。
余談であるが、この年の春にKANは数年続けた真ん中分けヘアーから突然丸坊主に断髪。夏のイベントやライブツアーでは坊主頭で出演しておりインパクトがあった。本作はそれからしばらく経って髪が少し伸びてきた時期に撮影されたのか、シングルCDの裏ジャケには数年ぶりに短髪にした姿を確認できる。
5.Sunshine of my heart
1994年11月26日発売、17thシングル。
9thアルバム「東雲」と同時発売でアルバムにも収録。ダメ元で告白したらまさかのOKを貰って超上機嫌、無敵のハッピーぶりを歌い上げるというおおよそKANらしくない(苦笑)浮かれまくりのファンク系ノリの軽快ナンバー。様々な愛の形や報われない恋がディープに描かれる「東雲」の中では浮きまくっており、アルバムの1曲目に配置されたのは妥当なところか。前年12月の8thアルバム「弱い男の固い意志」から約1年経過というご無沙汰ぶりに加え、アルバム同時発売ということで前作よりもさらにセールスは半減。この辺りからシングル向けではなさそうな曲を積極的に切っていく傾向になっていくのは意図的なことだったのだろうか。
6.すべての悲しみにさよならするために
1995年1月25日発売、18thシングル。
「東雲」からのシングルカット。プライムタイムの日テレ系情報番組「スーパーテレビ・情報最前線」のエンディングテーマに起用された。
ピアノの弾き語りで始まりサビ直前でバンドインして盛り上がっていくロッカバラード。愛する相手に対して熱く語りかける様は「死ぬまで君を離さない」を連想させるが、こちらはお互いがお互いを必要とし、すべての悲しみや憂鬱を乗り越えていこう、と「死ぬまで〜」よりも一段階愛情が深まっている描写のある集大成的な楽曲。「東雲」のハイライト的な役割(10曲中9曲目)を担っており、演奏時間は7分近い超大作なのだが、あまり体感的な長さを感じさせないのは曲の展開の完成度の高さゆえか。
ライブツアーでは本編ラストに配置して何度か演奏されていた。前述のタイアップや、久々のMステ出演などが功を奏したか、リカットにも関わらず約3.5万枚を売り上げ、「Sunshine of my heart」よりもセールスは3倍弱ほど上回った。1999年の非公認ベスト「TREASURE COLLECTION」ではトリを飾っており、ポリドール時代を総括するベストとしてはなかなか良い締めであった。
7.東京に来い
1995年5月10日発売、19thシングル。
前作に続き「東雲」からのシングルカット第2弾。アルバムでは中盤の箸休め的な役割の2分半程度の小品だったのでこの曲でシングルを切ると知った時はかなり驚いた。なおリリースに際してはボーカルのリバーブをカットするなどミックスが変更され、シングル盤では「ビートル ミクス」と表記。
遠距離電話で愚痴も聞き飽きた主人公が、いっそ(自分が住んでいる)東京に来い、という提案を持ちかける。渋滞はシャクだし家賃は倍だけど何かが待っている、そして「何より君にとっても一番大切なぼくがいる」、というフレーズから、この「来い」というのは遊びに来いではなく一緒に暮らそうという意味でもあるようで、KANの作品の主人公にしてはなかなかに大胆。生バンド風の軽快な演奏も聴き心地が良い。シングル向きではないと思うが個人的には結構好きな曲。
8.MAN
1996年5月27日発売、20thシングル。
本作よりマーキュリー・ミュージックエンタテインメントに移籍。10thアルバム「MAN」と同時発売。ポリドール期から引き続きアレンジは小林信吾との連名だが、本作よりKANの名前が頭にクレジットされるようになる(「MAN」アルバム表記より)。
KAN流の「男の哲学」といった歌詞。女性に対する恋愛観をここまでダイレクトに描いた楽曲は彼の中では珍しいと思う。4ビート主体のピアノがリードする重厚なバンドサウンドが耳を惹くが、サビの早口部分の勢いも手伝ってかピアノ弾き語りでも結構ステージ映えのする曲で、2016年の弾き語りライブアルバム「弾き語りばったり #19 今ここでエンジンさえ掛かれば」にはライブ音源が収録。
9.涙の夕焼け
1996年8月26日発売、21stシングル。
「MAN」からのシングルカット。編曲は3年前のシングル「まゆみ」のカップリング曲「フランスについた日(Re-arranged)」で初タッグを組んだ十川知司との共同名義。十川とのタッグはこれが二回目にして最後となった。
じきにフラれてしまうことを予感しながらも、沈みゆく夕焼けを見ながら彼女への未練を綴るKANらしい楽曲。いわゆるリバプールサウンド的なアレンジで牧歌的なメロディーというギャップが切なさや悲しみを増幅させる効果があり、「MAN」の中では一番一般ウケしそうな曲だと思うが、後にあまり顧みられている曲ではないのが若干不憫。
10.Songwriter
1997年8月27日発売、22ndシングル。
この年デビューして10年目を迎えたKANの文字通りの「ソングライター」としての矜持や迷いを描いた楽曲。自信は打ち砕かれ必死だった恋は終わりを告げ、それでも答えなき答えを探して広がるべき未来の景色を求めピアノを叩く…という葛藤は、ミュージシャンという職業のみならず、創作に携わる人々の胸には深く響くのではないだろうか。流麗なピアノが織りなすバンド調のアレンジも隙の無い完成度の高さで、会心の作品だと思う。
一週間後に発売の公認シングルベスト「The Best Singles FIRST DECADE」の先行シングルだったが、ワーナー移籍後の翌年3月の11thアルバム「TIGERSONGWRITER」にもカップリングの「君を待つ」共々収録された。配信のほうではレーベルの壁は超えられなかったのか、この2曲はカットされ収録されていないのが残念(まあ「The Best Singles〜」やシングル単体の配信では聴けるけど)。
11.ドラ・ドラ・ドライブ大作戦
1997年12月25日発売、23rdシングル。
本作よりワーナーミュージック・ジャパンに移籍。カントリー調の軽やかな演奏をバックに、意中の相手をドライブに誘い、あれやこれやを妄想する脱力系楽曲。シングルCDのジャケットも遊び心満載で、移籍第1弾がこれで良かったのか…と思いつつ、体裁はともかく(?)ノリが良く演奏時間もそれほど長くないので楽しく聴ける。ただ本当にもうシングルヒットを狙わなくなったんだな…とは当時感じた。
翌年3月の11thアルバム「TIGERSONGWRITER」では、-トラ・トラ・トラどし大先輩-(特製ミックス)とサブタイトルが付き、シングルバージョンでは2コーラスから入るガヤや合いの手が初っ端からピンポイントで多数挿入されるアルバムバージョンで収録。ちなみにガヤの声はツアーメンバーであった西嶋正巳や野沢トオルが担当。シングルバージョンは本ベストにて27年の時を経てアルバム初収録となった。
12.サンクト・ペテルブルグ 〜ダジャレ男の悲しきひとり旅〜
1998年2月5日発売、24thシングル。
1コーラスではロシアの都市「サンクト・ペテルブルグ」上空を旅行中の飛行機の窓から見下ろし、2コーラスでは旅の目的地のパリでの出来事を、所々にダジャレを挟みながら回想する斬新(?)な楽曲。「ドラ・ドラ〜」に続いて脱力系のフザけた曲かと思いきや、歌詞を追っていくと実は失恋した後での傷心旅行だった…というとても悲しいオチが待っている。
KAN本人が「メロディ・歌詞共に最も納得度の高い楽曲のひとつ」と公言しており、次作シングル「英語でゴメン」のカップリングにはライブテイクの「SANKT PETERBURG LIVE」が収録。2007年の通算3作目の公認ベスト「IDEAS 〜the very best of KAN〜」にも並みいるシングルを押しのけて選出。さらに2018年のセルフカバーアルバム「la RiSCOPERTA」でも新録された。意外にも2004年の非公認ベスト「ゴールデン☆ベスト」にも収録されていたりするなど、この時期のシングルとしては公認・非公認問わず扱いが大きめ。
(以下、後日更新予定のDISC 3編へ続きます)
※特記のない限り、作詞・作曲:KAN/編曲:小林信吾・KAN。
1.死ぬまで君を離さない
1992年10月22日発売、13thシングル。
メインでコードを鳴らすシンセの音色が印象的な、力強いバンドサウンドに乗せて愛する「君」に永遠を誓う体温高めのロッカバラード。KANの楽曲の主人公はだいたい煮え切らない態度が多いのだが、この曲に関してはド直球のプロポーズソングと呼べるのでは。ただ熱い想いをぶつけられている相手の心情が全く描かれていないのが気になる…というのは穿ちすぎか(?)。カップリング曲の「KANのChristmas Song」がクリスマスの時期にケンタッキーフライドチキンのテレビCMに起用されたことで年末にオリコンチャートに再浮上しており、むしろ現在ではカップリングのほうが有名になるという主従逆転現象が発生している。
ライブでは演奏される機会は少なかったが、冠婚葬祭をテーマにした1999年のライブツアーではコンセプトに合致したのか、この曲をハンドマイクで熱唱している姿がライブ作品「UNCUTTABLE 129min.」にて確認できる。余談だが、このシングルの背の部分には「死ぬまで君を離さない」としか書かれていない。アーティスト名も同時に掲載されるのが通常なところタイトルだけの表記なのがかなり謎であった。
2.丸いお尻が許せない
1993年1月21日発売、14thシングル。
タイトル通り、有り体に言って男のセックス願望を描いたスケベ系ソング。メロディーはキャッチー、アレンジは爽やかなポップ調なのであまりイヤらしさは感じないのだが、歌詞が結構きわどく、これをMステやCOUNT DOWN 100などのゴールデンタイムの歌番組で披露していたあたり、振り返れば大らかな時代であった。本人曰く「30歳を過ぎたら自分の頭の8割を占めるこういったテーマの曲も作っておかなければ」とのこと(KANは前年9月に三十路を迎えていた)で、その8割の部分はこの後も「夏は二の腕発情期」だの「ひざまくら」だの「胸の谷間」だので存分に活用されることになる(苦笑)。
翌月の7thアルバム「TOKYOMAN」では表記はないがアルバムバージョンで収録。シングルではフェードアウトで終わるのだが、アルバムでは最後まで完奏。さらにアウトロの部分で「オシリ〜♪」というコーラスが2回繰り返されて終わる
3.まゆみ
1993年4月21日発売、15thシングル。
「TOKYOMAN」からのリカット・シングル。三ツ矢サイダーのイメージソングとしてこの年の春から夏にかけてテレビCMでオンエア。その効果でシングルカットながらロングランを記録し、約18万枚を売り上げて「愛は勝つ」に次ぐ自身二番手のヒット曲となった。
別々に作っていた曲のメロディーを無理やり合体させて1曲にした、と発売当時から本人が語っており、確かに淡々とした平メロから跳ねるようなサビへの繋ぎ方が強引なのだが、サビ直前で派手に盛り上げるアレンジによるドラマチックな展開にはカタルシスがある。歌詞についてはKAN自身はほとんど言及していないが、好意を持つ相手に恋焦がれるも、想いも伝えられずにただ見ているだけ…というまさにKANの曲恒例のウブな主人公像で、この曲のヒットにより「愛は勝つ」とは異なるナイーブな歌詞の作品が陽の目を見たのは良いことだったと思う。以降発売のベストには公認・非公認問わず全て選曲されている。
4.いつもまじめに君のこと
1993年11月17日発売、16thシングル。
歩くテンポに近い軽やかなノリで展開されるミディアムナンバーで、なかなか会えない君を想いながらも、君のことを気遣う紳士的(?)な主人公によるラブソング。曲中で悲しい出来事も特に起こらず割と良い状態…という状況は彼の曲の中では珍しいか。楽曲としては悪くないのだが、セールス的にはこの辺りで「愛は勝つ」からついてきたファンが離脱していったのか、一気に2万枚台まで落ち込んでしまった。ストリングスのリフが曲中にふんだんに使われており、2017年のセルフカバーアルバム「la RINASCENTE」では弦楽四重奏+ピアノという形で新録されている。
余談であるが、この年の春にKANは数年続けた真ん中分けヘアーから突然丸坊主に断髪。夏のイベントやライブツアーでは坊主頭で出演しておりインパクトがあった。本作はそれからしばらく経って髪が少し伸びてきた時期に撮影されたのか、シングルCDの裏ジャケには数年ぶりに短髪にした姿を確認できる。
5.Sunshine of my heart
1994年11月26日発売、17thシングル。
9thアルバム「東雲」と同時発売でアルバムにも収録。ダメ元で告白したらまさかのOKを貰って超上機嫌、無敵のハッピーぶりを歌い上げるというおおよそKANらしくない(苦笑)浮かれまくりのファンク系ノリの軽快ナンバー。様々な愛の形や報われない恋がディープに描かれる「東雲」の中では浮きまくっており、アルバムの1曲目に配置されたのは妥当なところか。前年12月の8thアルバム「弱い男の固い意志」から約1年経過というご無沙汰ぶりに加え、アルバム同時発売ということで前作よりもさらにセールスは半減。この辺りからシングル向けではなさそうな曲を積極的に切っていく傾向になっていくのは意図的なことだったのだろうか。
6.すべての悲しみにさよならするために
1995年1月25日発売、18thシングル。
「東雲」からのシングルカット。プライムタイムの日テレ系情報番組「スーパーテレビ・情報最前線」のエンディングテーマに起用された。
ピアノの弾き語りで始まりサビ直前でバンドインして盛り上がっていくロッカバラード。愛する相手に対して熱く語りかける様は「死ぬまで君を離さない」を連想させるが、こちらはお互いがお互いを必要とし、すべての悲しみや憂鬱を乗り越えていこう、と「死ぬまで〜」よりも一段階愛情が深まっている描写のある集大成的な楽曲。「東雲」のハイライト的な役割(10曲中9曲目)を担っており、演奏時間は7分近い超大作なのだが、あまり体感的な長さを感じさせないのは曲の展開の完成度の高さゆえか。
ライブツアーでは本編ラストに配置して何度か演奏されていた。前述のタイアップや、久々のMステ出演などが功を奏したか、リカットにも関わらず約3.5万枚を売り上げ、「Sunshine of my heart」よりもセールスは3倍弱ほど上回った。1999年の非公認ベスト「TREASURE COLLECTION」ではトリを飾っており、ポリドール時代を総括するベストとしてはなかなか良い締めであった。
7.東京に来い
1995年5月10日発売、19thシングル。
前作に続き「東雲」からのシングルカット第2弾。アルバムでは中盤の箸休め的な役割の2分半程度の小品だったのでこの曲でシングルを切ると知った時はかなり驚いた。なおリリースに際してはボーカルのリバーブをカットするなどミックスが変更され、シングル盤では「ビートル ミクス」と表記。
遠距離電話で愚痴も聞き飽きた主人公が、いっそ(自分が住んでいる)東京に来い、という提案を持ちかける。渋滞はシャクだし家賃は倍だけど何かが待っている、そして「何より君にとっても一番大切なぼくがいる」、というフレーズから、この「来い」というのは遊びに来いではなく一緒に暮らそうという意味でもあるようで、KANの作品の主人公にしてはなかなかに大胆。生バンド風の軽快な演奏も聴き心地が良い。シングル向きではないと思うが個人的には結構好きな曲。
8.MAN
1996年5月27日発売、20thシングル。
本作よりマーキュリー・ミュージックエンタテインメントに移籍。10thアルバム「MAN」と同時発売。ポリドール期から引き続きアレンジは小林信吾との連名だが、本作よりKANの名前が頭にクレジットされるようになる(「MAN」アルバム表記より)。
KAN流の「男の哲学」といった歌詞。女性に対する恋愛観をここまでダイレクトに描いた楽曲は彼の中では珍しいと思う。4ビート主体のピアノがリードする重厚なバンドサウンドが耳を惹くが、サビの早口部分の勢いも手伝ってかピアノ弾き語りでも結構ステージ映えのする曲で、2016年の弾き語りライブアルバム「弾き語りばったり #19 今ここでエンジンさえ掛かれば」にはライブ音源が収録。
9.涙の夕焼け
1996年8月26日発売、21stシングル。
「MAN」からのシングルカット。編曲は3年前のシングル「まゆみ」のカップリング曲「フランスについた日(Re-arranged)」で初タッグを組んだ十川知司との共同名義。十川とのタッグはこれが二回目にして最後となった。
じきにフラれてしまうことを予感しながらも、沈みゆく夕焼けを見ながら彼女への未練を綴るKANらしい楽曲。いわゆるリバプールサウンド的なアレンジで牧歌的なメロディーというギャップが切なさや悲しみを増幅させる効果があり、「MAN」の中では一番一般ウケしそうな曲だと思うが、後にあまり顧みられている曲ではないのが若干不憫。
10.Songwriter
1997年8月27日発売、22ndシングル。
この年デビューして10年目を迎えたKANの文字通りの「ソングライター」としての矜持や迷いを描いた楽曲。自信は打ち砕かれ必死だった恋は終わりを告げ、それでも答えなき答えを探して広がるべき未来の景色を求めピアノを叩く…という葛藤は、ミュージシャンという職業のみならず、創作に携わる人々の胸には深く響くのではないだろうか。流麗なピアノが織りなすバンド調のアレンジも隙の無い完成度の高さで、会心の作品だと思う。
一週間後に発売の公認シングルベスト「The Best Singles FIRST DECADE」の先行シングルだったが、ワーナー移籍後の翌年3月の11thアルバム「TIGERSONGWRITER」にもカップリングの「君を待つ」共々収録された。配信のほうではレーベルの壁は超えられなかったのか、この2曲はカットされ収録されていないのが残念(まあ「The Best Singles〜」やシングル単体の配信では聴けるけど)。
11.ドラ・ドラ・ドライブ大作戦
1997年12月25日発売、23rdシングル。
本作よりワーナーミュージック・ジャパンに移籍。カントリー調の軽やかな演奏をバックに、意中の相手をドライブに誘い、あれやこれやを妄想する脱力系楽曲。シングルCDのジャケットも遊び心満載で、移籍第1弾がこれで良かったのか…と思いつつ、体裁はともかく(?)ノリが良く演奏時間もそれほど長くないので楽しく聴ける。ただ本当にもうシングルヒットを狙わなくなったんだな…とは当時感じた。
翌年3月の11thアルバム「TIGERSONGWRITER」では、-トラ・トラ・トラどし大先輩-(特製ミックス)とサブタイトルが付き、シングルバージョンでは2コーラスから入るガヤや合いの手が初っ端からピンポイントで多数挿入されるアルバムバージョンで収録。ちなみにガヤの声はツアーメンバーであった西嶋正巳や野沢トオルが担当。シングルバージョンは本ベストにて27年の時を経てアルバム初収録となった。
12.サンクト・ペテルブルグ 〜ダジャレ男の悲しきひとり旅〜
1998年2月5日発売、24thシングル。
1コーラスではロシアの都市「サンクト・ペテルブルグ」上空を旅行中の飛行機の窓から見下ろし、2コーラスでは旅の目的地のパリでの出来事を、所々にダジャレを挟みながら回想する斬新(?)な楽曲。「ドラ・ドラ〜」に続いて脱力系のフザけた曲かと思いきや、歌詞を追っていくと実は失恋した後での傷心旅行だった…というとても悲しいオチが待っている。
KAN本人が「メロディ・歌詞共に最も納得度の高い楽曲のひとつ」と公言しており、次作シングル「英語でゴメン」のカップリングにはライブテイクの「SANKT PETERBURG LIVE」が収録。2007年の通算3作目の公認ベスト「IDEAS 〜the very best of KAN〜」にも並みいるシングルを押しのけて選出。さらに2018年のセルフカバーアルバム「la RiSCOPERTA」でも新録された。意外にも2004年の非公認ベスト「ゴールデン☆ベスト」にも収録されていたりするなど、この時期のシングルとしては公認・非公認問わず扱いが大きめ。
(以下、後日更新予定のDISC 3編へ続きます)
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