kanideas3　2024年10月30日発売、オフィシャルとしては通算4作目となるKANのベストアルバム。CD2枚組全29曲収録。

　本作は昨年11月にこの世を去ったKANの、逝去後初のCDリリース作品（生前最後のライブツアーBlu-rayと同時発売）。ベストとしては1992年の「めずらしい人生」、1997年の「The Best Singles FIRST DECADE」、2007年の「IDEAS 〜the very best of KAN〜」に続く作品となりますが、DISC1は2007年のベスト（以下「旧盤」と表記）と同一の内容、DISC2は旧盤以降にリリースされた作品を集めたコンピレーション、という形での、半分カタログ活用、半分新規編纂という特殊な形態でのリリースとなりました。なお、本作のマスタリングエンジニアとして柴晃浩がクレジットされており、旧盤のマスタリングを担当した松永健司の名前は非表記となっているので、DISC1の音源も完全な使い回しではない…と思われます。

　DISC1は旧盤当時の新曲「IDEA」、生バンドで新録の「プロポーズ」、ピアノ弾き語りで新録の「50年後も」を含む全17曲収録。「愛は勝つ」「言えずのI Love You」「KANのChristmas Song」「まゆみ」といった鉄板の代表曲、直近のシングル「カレーライス」「世界でいちばん好きな人」に加え、周囲の意見を聞きながらも自分のこだわりも取り入れた、ということで、アルバム曲からも何曲か収録されるなど、本人の「ここを聴いて欲しい」という意志が反映されたラインナップだと思います。ただ、コンセプト上はデビュー20周年記念のオールタイム・ベストという1枚になってはいますが、最初のベストである「めずらしい人生」に収められた初期5年間の楽曲でこちらにも選曲されたのは「愛は勝つ」と「言えずのI Love You」（のバージョン違い）の2曲のみ。そのおかげ（？）で「めずらしい人生」自体の存在意義も継続された形になったわけですが、実質は1992年から2007年までのセルフセレクションかな…と今でも思いますし、この1枚だけではここまでの20年間を総括し切れていないな、という気もします。

　DISC2は全12曲収録。前半部分は2008年以降にリリースされたシングル4曲（「よければ一緒に」「Listen to the Music」「桜ナイトフィーバー」はアルバム初収録のシングルバージョン）に、結果的に最終作となったアルバムから「23歳」「エキストラ」を時系列順に収録。この辺りはこの時期のベストを作るなら入るよね…という納得のラインナップ。DISC1と比べると曲順が味気ない気もしますが、本人不在での選曲なので特に捻らずに並べた…ということなのかもしれません。後半は、2005年発売の木村和名義の弾き語りアルバム「何の変哲もないLove Songs」から「何の変哲もないLove Song」「雪風」、そしてジョンB、菅原龍平、ヨースケ@HOMEとの四人組ユニットCabrells、KとのユニットK-KAN、山崎まさよしとのYAMA-KAN、そして秦基博との合体楽曲「カサナルキセキ」と、コラボレーション楽曲を4曲収録。KANが関わったコラボ作品はこれだけではないのでコンプリートではありませんが、10年代以降のKANが他のアーティストとの共作を楽しんでいた、というのが伝わる楽曲が並んでいます。彼を慕う年下のアーティストも多く、本当にこの人はミュージシャンズ・ミュージシャンだったんだな、と。また、これまで入手不可のプレミアアイテムと化し、配信でも出ていなかった弾き語りアルバムからオリジナル音源2曲が選曲されたのは、ようやく一般層にも所持できるような環境になったということで、大変喜ばしいことだと思いました。

　なお、装丁は三方背の紙製ケースに中綴じのブックレットが封入。ブックレットには全曲の歌詞に加え未公開のKANの写真数点、meiyo（ミュージシャン）の2頁に渡るライナーノーツが掲載というシンプルながら愛のある作りに。ただし旧盤の初回生産限定盤の封入ブックレット内のKAN自身の楽曲解説は未掲載なので、これからも筆者は旧盤を所持し続けることでしょう。総括すると、これからKANの音楽に触れてみたい方には、旧盤よりも最晩年の作品まで収録された本作を手に取っていただくのがお薦め。それに加えて初期5年間のベストである「めずらしい人生」を聴いて、オールタイムに彼の音楽家人生を振り返っていただければ嬉しい限りです。出来れば「めずらしい人生」のリマスター盤をリリースしてくれないかなぁ…（可能性は極めて低そうですが）。あと余談ですがツッコミポイントとして、アルバムタイトルは何故「�掘廚覆里�…この謎かけに苦悩している今日この頃です（苦笑）。