
2015年にコラボ先からリリースした楽曲を中心にしたコンピレーションアルバムを発売していたさかいゆうですが、本格的なベストアルバムは今回が初。おそらく、2009年のメジャーデビューから15年目を迎える2024年に向けてのプロダクツ…という意味もあってのリリースかと思います。本作は2006年リリースのインディーズ作品から現在に至るまでの彼が発表してきた楽曲を2枚のCDに「白盤」「黒盤」とそれぞれコンセプトを分けて12曲ずつ収録。なお、「黒盤」のラストには新曲を含めたニューレコーディング作品を3曲収録しています。
オフィシャルによるとDisc1の「白盤」にはポップス的側面の楽曲、Disc2の「黒盤」にはSOUL・R&B・JAZZ・ゴスペルなどの要素が強く表現されている楽曲がそれぞれ収録されているとのこと。確かに「白盤」にはメジャーデビューシングル「ストーリー」、初期の代表作でもある「まなざし☆デイドリーム」、個人的にお薦めシングル「Soul Rain」に、嵐の二宮和也がカバーして結構知名度を上げた(と思われる)「君と僕の挽歌」等の歌詞主体のメロウな曲を中心に、「黒盤」にはEPでリリースされた「サマーアゲイン」や、「煙のLADY」や「She's Gettin' Married」といったアルバム曲、外国人プレイヤーとのコラボが熱い「桜の闇のシナトラ」「孤独の天才 (So What)」など、演奏的に聴かせどころの多いナンバーをまとめて構成。メジャーデビュー初期に比べるとライト向けのキャッチーな楽曲をあまり作らなくなって…という印象のあった彼ですが、色々な時期の曲をまとめて聴いてみると、時期ごとの成長という過程はほとんど感じられず、既に最初期のインディーズ時代の頃から習作のようなものがほぼなく、安定した完成度で聴ける楽曲が多い、ということを改めて再確認できた2枚でもありました。
…とはいえ、これを入口にライトリスナーを取り込める初心者向けのベストアルバムか…と言われるとそうではないかな、というのが正直なところ。ポップスとその他で盤を分けるというコンセプト故にアルバム1枚での曲調の起伏にやや乏しく、特に「白盤」の中盤以降は泣きのミディアム〜バラード曲が続き、単品で聴くと物凄く胸に刺さる曲も連発されると食傷気味になる…という意外な弱点もあったり。一般向けに作るならば、収録を見送られてしまったシングル曲やEPの表題曲、インパクトのある楽曲を曲調に捉われずに織り交ぜて、彼の様々な側面を伝えるほうが分かりやすいのではないか、とも思いました。各楽曲自体には文句は全くないのですが、選曲・構成という点では従来のファン向けかなぁ、と。
なお、「黒盤」終盤の新録3曲はインタビューによると海外のミュージシャンを動員してレコーディングされたボーナストラック的な作品。外国人のゴスペルシンガーを招いた国際親善風(?)「よさこい鳴子踊り」のカバーは今回が2回目。「君と僕の挽歌(New York Ver.)」はオリジナルバージョンがトリを締めた「白盤」と対比的なゴージャスなリメイク。そして新曲の「Freedom Freeway」はコロナ禍で渡航が難しくなる前に行われていた海外レコーディングの復活戦のような楽曲。今後はこういった潤沢なバンド演奏の楽曲が中心の活動がまた可能になりそうですし、期待しています。
コメント