2024年2月20日、リットーミュージックから刊行された、DEEN初のオフィシャルガイドブック。書籍のみの通常盤、オリジナルカレンダーとメッセージカード付属のスペシャルボックス盤の2形態での発売。本レビューは通常盤となります。新録ベスト、武道館公演、初の試みとなるストリングスライブやディナーショー、そして最新オリジナルアルバムを引っ提げたLIVE JOYと、精力的に活動したDEENのデビュー30周年の最終盤にリリースされた本書は、DEEN史上初となる書籍媒体作品。そのメインコンテンツはデビュー曲「このまま君だけを奪い去りたい」から、最新アルバム「DANCE IN CITY 〜for groovers only〜」までに発表してきたDEEN名義での楽曲全332曲(他アーティストのカバーも含む)を、メンバーである池森秀一・山根公路が1曲ずつ解説。なお取材と本文はDEENと旧知の仲であるライターの伊藤博伸が担当。X(旧twitter)でのやり取りを見るに、構成は池森・山根のインタビューを元に書き起こした感があり、本文は喋り言葉の柔らかい文体になっており、セルフライナーノーツではなく、さしずめセルフライナートークを一冊にまとめた、という全体像になっています。
メインコンテンツ「All Songs Stories 全曲解説」は、リリース順に1曲単位でメンバーが解説。基本的には各曲1頁程度(最重要曲である「このまま〜」は3頁)を使い、制作当時の思い出などがどの曲も端折られずに語られています。ヒット曲に関してはこれまでも公の場で制作エピソードなどが語られており、前にもこの話聞いたことが…という曲もあるものの、その他の9割5分近くの解説は初耳の話ばかり。過去に在籍していた宇津本直紀、田川伸治が作曲した作品に関しても名前を出して語られており、ビーイング在籍期に学んだこと、提供作家の楽曲に関するイメージ、楽曲制作時に目指したアーティストの曲、レコーディングに参加したミュージシャンとのやり取り、メンバーそれぞれの楽曲制作方法やこだわりなど、たまに雑談に脱線したまま終わってしまう曲もありますが(苦笑)、アーティストとしてのDEENとして興味深い話題が多数登場。過去に池森本人名義での詩集や蕎麦本などは出ていましたが、こういう解説本欲しかったんだよなぁ…と思っていた筆者のニーズにピッタリとマッチした一冊といったところ。
なお、あくまで楽曲は初発時の解説のみで、この30年で潤沢に作られたセルフカバーバージョンやバージョン違いに関してはノータッチ。まあそこまでやるとページが大幅に増えて収拾がつかなくなるということなのかもしれませんが、別バージョンのコンセプトなどもこの機会に聞いてみたかった気もします(例外として「ふたりだけのダンスフロア」のタイトルが変更された別バージョン「dance floor」は別曲扱いで解説有)。また、宇津本はともかくDEENに24年在籍した田川が残した多くの楽曲に関しては本人不在の「〜だったんだと思う」という推測の解説になってしまったのは少々残念なところ。タイミングとしてはあと5年刊行が早ければ…という気もしますが、メンバー脱退を乗り越えた上での5年間を経て今のDEENがあるわけなので、無いものねだりというやつかもしれませんが…。
…ということで、ファン歴の長いリスナーであればあるほど嬉しい刊行となったであろう本作。筆者は30年分もあるから1日1年ペースで読んでいこう…と時間をかけて読んでみたところ、読了するまでに一ヶ月を要しました(笑)。巻頭には池森とビーイング時代のプロデューサー・長戸大幸とのラジオ番組での対談、巻末には池森・山根のデビュー30周年を迎えてのインタビューも短いながら掲載されていますが、400ページ近い楽曲解説こそDEENの積み重ねてきた歴史を象徴するものかなと。全体的にはコアファン向けであり、ベスト盤は持ってるけど…ぐらいのリスナーには読んでも知らない曲ばかりとなってしまう敷居は感じますが、デビュー31周年目を迎えた今年の3月10日にB-Gram時代(1998年途中まで)の音源がサブスク解禁、既に解禁されていたBERG離脱以降(2003年途中から)の楽曲と含めて、かなりの曲が手軽に聴ける環境になったので、サブスクで聴きながら副読本的に本書を…という楽しみ方もありかもしれません。個人的にはこの30周年プロジェクトの中での一番の収穫はこの本が出版されたことかな、と思いました。
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