
ヤファイアン・アッチャーズ・バンド(Y.A.B)は、BEGINの比嘉栄昇の出身地でもあり、現在居住している石垣島で生活するミュージシャン達で結成した新たなバンド。メンバーは固定ではなく、公式情報によると「島で暮らし、仕事の都合が付くメンバーが集まってライブを続けていくという「ゆる〜く」確かな信頼関係で結ばれた音楽集団。」とのこと。現在の主な活動は石垣島にある閉館した映画館を改装し、オリジナル・カバーを交えたライブを月イチペースで開催しているとのことですが、最近では大阪でワンマンワイブを敢行するなど、島を出ての活動も開始しているようです。本作はそんな彼ら(…と呼んで良いと思います)のファーストアルバム。当初はライブ会場中心に販売されていたようですが、2023年10月に全国流通に乗り、同時に配信も開始となりました。
収録曲のうち「生活の柄」は高田渡のカバー、東日本大震災の津波に流され西表島に漂着した宮城県の郵便ポストに材を採り2013年にBEGINが制作した盆踊りナンバー「歌津さきてけさい」のY.A.Bバージョン等の既発表曲もありますが、基本的にはオリジナル作品の模様。リード曲的な風格のポップロック「風の馬車」を筆頭に、ハワイアン、ロックンロール、ブルースに民謡…と、様々なジャンルの楽曲をストレートなバンドサウンドに乗せて奏でていくその様は、例えるなら「地元の顔役的なバンド」という印象。
比嘉栄昇が中心になってのバンドだから当然メインボーカルは…と思いきや、意外と彼自身がリードを担当している曲は多くなく、メンバーで比嘉の次男である比嘉ケンジロウがメインボーカルを務める曲と半々ぐらい(他、メリーアラキがボーカルを務める「石垣 My Love」も有り)。高めの良く通る声質を持つケンジロウのボーカルはテンションの高いナンバーにも順応し、本人自作の「月の形」ではラップも披露するなど、各楽曲にフレキシブルに対応できそうなシンガーだと思いました。一方の父・栄昇は、彼が歌えば何でもBEGINの曲になってしまう(?)ほどの貫禄のボーカルを本作でも発揮しているわけですが、アルバムタイトル曲の「漂着」など、歌詞の内容と相俟って現在のBEGINのカラーとは違う枯れた味わいの哀愁漂う歌声を披露しており、BEGINとは異なる角度からのアプローチが新鮮でした。
なお、ほぼ全ての楽曲の作詞・作曲はさくふうめいというクレジット表記。聞いたことのない名前で調べても出てこなかったので、誰かの変名なのでしょうか?謎は深まるところです。それはともかく、BEGINはもう5年もオリジナルアルバムを出してないのに新しいバンドを始めて早速アルバム出すのか比嘉栄昇…と聴く前は思っていたのですが(?)、先日の石垣島でのライブの無料生配信を拝見した感じだと楽しい課外活動のような印象であり、前述の通りBEGINとはボーカル、サウンド、活動内容が異なるアナザーワークということで納得。でもまあ、本音を言えばそろそろBEGINもアルバムを…(苦笑)。
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