chickcoreatrio 2023年9月15日発売、海外アーティストのテレビ・ラジオオンエア用に収録されたライブアーカイブを商品化しているIAC MUSIC JAPANよりリリースされた「HI HAT」シリーズの一作、チック・コリアのトリオ編成によるライブアルバム。CD2枚組全9曲収録。

 チック・コリアはアメリカ出身のジャズピアニスト。1960年代末にマイルス・デイヴィスのグループに加入して知名度を上げ、グループ脱退後はフュージョンバンドであるReturn To Foerverを結成、解散後もソロ活動と並行して様々なミュージシャンとのプロジェクト活動を能動的に続けるなど、2021年に71歳で逝去するまで実に半世紀近くジャズのみならずクラシック、ロック、エレクトリックまでこなす守備範囲の広い鍵盤演奏の第一人者として実績を残した人物。本作はその活動の中で生まれたChick Corea Akoustic Bandとして1989年7月6日にノルウェーのコングスベルグにて行われたコングスベルグ・ジャズ・フェスティバルに出演した際の録音音源。商品の外帯にて「完全収録」と表記されているので、全演奏楽曲が収録されている模様です。

 Chick Corea Akoustic Bandとは、1985年にチックが結成したElectric Bandから派生したバンドであり、メンバーはチック(kbds)、ジョン・パティトゥッチ(ba)、デイヴ・ウェックル(ds)による三人編成。1987年から活動を開始し、1989年にはこの名義を冠したスタジオアルバム(日本では「スタンダーズ・アンド・モア」というタイトルが追記)がリリースされ、グラミー賞の最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞を獲得するなど、彼の経歴の中でも著名な作品となっているようです。そして本ライブ盤は同年に収録されたということもあり、演奏曲の中にはスタンダードのカバー曲「Sophisticated Lady」「Autumn Leaves」や、チックのオリジナルである「Morning Sprite」、代表曲「Spain」といった「スタンダーズ〜」収録曲もピックアップされている上に、新たな著名カバー曲も演奏されているということで、曲目を見た感じでは結構聴き易そうだな…と思い、本作購入を決断しました。

 さて、実際聴いてみると前半は著名曲をピアノを軸に仕立てた良カバーが続き、これは予想通り…と思いきや、中盤辺りから出てくる「スタンダーズ〜」収録曲に関しては、ライブ用にアレンジや構成を変更しており、例えば「Autumn〜」などは一瞬テーマが出てきてあとはほとんど別の曲、みたいな崩し方を本格的に行っており、確かに流暢なピアノ演奏をリズム隊で熱く支える演奏には聴き応えはあるのですが、終盤に配置されたセロニアス・モンクのカバーである「'Round Midnight」などと同様に、未発表のオリジナルを聴いているような錯覚に陥ってしまうほどの変貌ぶり。あとはチックのオリジナルである「Quarter No.2 Part 供は、各パートの単独ソロに多くの尺を割き、実に30分近い演奏時間という大作であるということもあり、音だけ聴くよりも映像込みで観たほうが印象が良くなるんだろうなぁ…という感想を抱いてしまったり。チックのオリジナル&カバーのライブベスト盤、みたいな認識で気軽に手に取ると、色々な意味で衝撃を受ける作品だと思います(苦笑)。

 ライブ自体は勿論良く、オーディエンスの反応も1曲目が終わった時点で次なる演奏を求める手拍手のようなものが自然発生したりと、演者と共にヒートアップしている様子が伺いしれます。録音状態も、ジャズの古めのライブ盤はベースの音があまり拾い切れておらず、スピーカーで鳴らす場合にはイコライザーで調整しないと良く聴こえない…という作品も結構あったのですが、本作は30年以上前の録音にも関わらず、特に調整しなくてもベースの低音がしっかりと聴こえてきておりなかなかに良好。前述の通り、曲目の割にライト層が気軽に手に取って満足できるか…というのはさておき(?)個人的には各演者の熱量のある演奏と技巧の数々を楽しませてもらいました。なおこの「HI HAT」シリーズ、本作以外でも70年代から2000年代初頭までのチックの様々なプロジェクトのライブアルバムを既に10作以上リリースしているようなので、彼のコアなファンはそちらもチェックしてみては如何でしょうか。