karashimasilenttop 12月も中盤を過ぎ、時節柄多くのクリスマスをテーマにした楽曲を耳にする機会も多くなってきた今日この頃。そんな数多くのクリスマスソングのひとつ、1990年にリリースされヒットを飛ばし、現在もクリスマスの定番曲として親しまれている、辛島美登里「サイレント・イヴ」。これまで数多くのセルフカバー、カバー、ライブテイクなどの音源がリリースされていますが、今回の「CD Review Extra」では、辛島美登里名義でリリースされたスタジオ録音バージョンのみに絞り、番外編も含めた全10曲を1曲ずつレビューいたします。

辛島美登里「サイレント・イヴ」STUDIO REC Ver.全曲レビュー

サイレント・イヴ
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 1990年11月7日発売、ファンハウスより発売された通算9枚目のシングル。作詞・作曲:辛島美登里、編曲:若草恵
 想いを寄せる相手(三角関係?)に別れを告げ、クリスマスイヴの夜を一人で過ごす女性の心理描写を儚げに綴ったバラードナンバー。毎年クリスマスの時期になると辛島本人がこの曲の誕生経緯をインタビューで語る記事が出るのだが、要約すると冒頭の真っ白な粉雪の下りは本人の経験、メインの描写である失恋部分は友人の話を聞いて作り上げた楽曲のようである。ピアノ一本から切々と始まり、徐々にバンドインして最後はストリングスも導入されて盛り上がるというバラードの定番アレンジだが、この定番さが普遍的な響きとなり長らく愛され続ける楽曲になっているのだとも思う。
 1990年のTBSの10〜12月期のドラマ「クリスマス・イヴ」(仙道敦子・吉田栄作主演)の主題歌として書き下ろされ、発売2週目でオリコンチャート第1位を獲得。その後も12月に2週連続で首位となり、年明け後も緩やかにセールスを積み重ねて累計で約80万枚の売上を記録する大ヒット曲に。辛島自身は後年にも「あなたは知らない」(約20万枚)「愛すること」(約40万枚)とヒットを飛ばすのだが、セールス的にも知名度的にも辛島美登里といえば「サイレント・イヴ」というイメージがやはり強く、本人もこの曲を核にしたクリスマスコンサートを定期的に開催している模様。
 アルバム初収録は翌年2月の通算3枚目のオリジナルアルバム「GREEN」。オリジナル音源でのベストアルバム収録は1994年の「Silent Eve 〜MIDORI KARASHIMA BALLAD SELECTION〜」、1997年の「SINGLES」、1999年の「EVER GREEN」、2010年の「Alltime Best」の他、ゴールデンベスト等の非公認的なベストにも数多く収録。なおシングル盤としてはオリジナル発売後の約1年後の1991年10月25日にカラオケバージョンを追加収録し、ジャケットの写真やデザインをリニューアルして再発も行われている。更に、発売30年後の2020年12月14日には、現在版権を持つソニーより収録曲を追加した10インチアナログレコード盤として枚数限定で販売もされた(現在は入手困難)。


サイレント・イヴ
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 1991年10月25日発売、ベストアルバム「Zinc White」収録曲。
 初期楽曲のリミックスを中心に編まれた初ベストの中でトリを飾る、新録のピアノ弾き語りでの収録。編曲は辛島美登里本人。バージョン違いだが特に表記はない。最後のリフレインへ繋がる短い間奏がなくなったぐらいでほぼ原曲のピアノテイクに忠実な再録で、演奏的にも特段盛り上がることなく淡々と終わる、言うなれば正統派弾き語りバージョン。


サイレント・イヴ(Re-Recording)
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 2000年11月29日発売、通算30枚目のシングル「楓」(スピッツのカバー)のカップリング曲。
 翌年2月発売の初のカバーアルバム「Eternal-One」からの先行マキシシングルの3曲目としてセルフカバー。編曲はハープ奏者の朝川朋之が担当。イントロは流麗なハープの独奏で始まり、その後はピアノとハープの二重奏になる。ブロックによってメインとリフ部分を交代して奏でられるなどシンプルな編成ながら凝ったアレンジになっている。全体的なテンポは若干遅く、演奏時間は6分半を超える長尺バージョン。
 セルフカバーだったからか「Eternal-One」には未収録。辛島名義のアルバムに初収録されたのは2011年11月の東芝EMI在籍期をまとめたベスト「GOLDEN☆BEST -EMI YEARS-」まで待たされた。なおタイトルに(Re-Recording)と追記されたのはこの時が初…のはずである。


サイレント・イヴ(Summer Version)
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 2004年5月26日発売、アルバム「Smile and Tears 〜微笑みの島〜」収録曲。
 インディーズレーベルに移行し、ファンハウス時代の楽曲を対象にしたセルフカバーアルバム第1弾の収録バージョン。編曲は小野リサが担当し、リフレインとアウトロ部分で短いながらもコーラスにも参加。
 「Summer Version」と冠されているが、歌詞を夏用に書き換えたということもなく、軽やかな夏向けのボサノヴァ調にテンポアップしてアレンジされているのがその由来のようである。軽快になっても歌詞は重いままなのでミスマッチな感があるが、ここまで大胆にリアレンジされたバージョンは他にないので斬新ではある。


サイレント・イヴ
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 2004年10月13日発売、アルバム「Smile and Tears 〜涙が虹にかわる瞬間〜」収録曲。
 セルフカバーアルバム第2弾収録バージョン。今回は前作と異なりサブタイトルがない。編曲は斎藤ネコが担当。原曲アレンジを尊重しつつ、ピアノとオーケストレーションに仕立て直したクラシカルなバージョンとなっており、前年の「やまとなでしこ」(13thアルバム)のボーナストラックとしてライブバージョン(あちらはもっと派手なアレンジ)で収録されていた演奏形態に近い。


サイレント・イヴ 〜snow a capella〜
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 2007年11月21日発売、ソニーにメジャー復帰しての14thアルバム「Bouquet Garni」収録曲。
 Baby Booの瀬川忍が編曲を担当。サブタイトル通り、「サイレント・イヴ feat.Baby Boo」と形容しても良い、Baby Booを全面的に起用した完全なるアカペラバージョン。基本的にアカペラコーラスはfoo〜、uh〜等で統一されているが、原曲のイントロフレーズに英詞を乗せて歌っているのが印象的。


サイレント・イヴ(colorful version)
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 2014年11月26日発売、ユニバーサルに移籍しての15thアルバム「colorful」収録曲。
 アルバム全体のサウンドプロデュースを務めた冨田恵一による一人オケ制作でのバージョン。ピアノ+オーケストレーションで楽器編成的には目新しくはないが、部分的にコード進行が不穏な雰囲気に変更されており、原曲の展開が耳に馴染んでいればいるほどコードの響きに違和感を感じるのが新鮮。この足元がおぼつかない不安定な感じが歌詞の内容に寄り添っているとも言えるか。


サイレント・イヴ(Cashmere ヴァージョン)
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 2017年10月25日発売、カバーアルバム「Cashmere」収録曲。
 著名曲のカバーと自作曲のセルフカバーを織り交ぜた企画アルバムの中の1曲。島健が編曲とピアノ演奏を担当しており、辛島はボーカルに専念する独唱バージョン。本職のピアニストならではの華麗な演奏が耳を惹きつけるアナザーアレンジといった趣。


サイレント・イヴ(2019)
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 2019年2月27日発売、ベストアルバム「Carnation」収録曲。
 公式デビュー30周年を記念し、辛島自身が選曲したシングルベストアルバムの中の1曲。本作用にピアノ弾き語りバージョンとして新たに録音された。
 弾き語り一発録音ということで、従来のバージョンよりもボーカルや演奏に緊張感があり、微妙にリズムも揺らいだりしてライブ感のあるテイク。なおこのバージョンが2023年現在における「サイレント・イヴ」最新版。デビュー35周年を迎える来年2024年には果たして新たなバージョンは登場するのだろうか…?


【番外編】サイレント・イヴ duet with 辛島美登里
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 2014年10月1日発売、華原朋美のカバーアルバム第2弾「MEMORIES 2 -Kahara All Time Covers-」収録曲。辛島はゲストボーカルとして参加している。
 編曲は宗本康兵が担当。基本的に原曲に忠実なピアノとストリングスというオードックスなカバー。華原と辛島は交互にパートを対等に分け合って歌唱しており、二人で歌う箇所は2コーラス目のサビの途中とリフレインのサビの最後をハモる部分のみ。華原の歌い方はオリジナルの辛島に寄せたのかクセがなくシンプルに歌っている印象で、二人が交互に歌っても決定的なボーカル表現の差はない。なお、華原単独歌唱バージョンは翌年発売されたカバー第1&2弾のセットに追加トラックとして収録されているとのこと。