bz1988 音楽制作会社ビーイングのボーカルスクール出身の稲葉浩志(Vo)、スタジオミュージシャンやバンドのサポートメンバーとして活動していた松本孝弘(G)による二人組ユニットとして結成され、1988年9月21日にBMGビクターよりレコードデビューを果たしたB'z。あまりに数多くのヒット曲、ミリオンセラーアルバムを世に送り出してきた彼らは今年2023年でデビュー35年目に突入。今回の「Artist Archive」ではB'zの活動最初期にあたる1988〜1990年にリリースされた全アルバム作品を一挙ご紹介。デビューアルバム「B'z」から、ブレイクを果たした4枚目のオリジナルアルバム「RISKY」までのオリジナルアルバム、2作のミニアルバムの計6作を1枚ずつレビューいたします。

B'z 1988-1990 全アルバムレビュー

B'z
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 1988年9月21日発売、デビューアルバム。全9曲収録。
 デビューシングル「だからその手を離して」と同時発売。当時主力となりつつあったメディアであるCDの他、カセットテープ、LP盤でもリリースされていた。CD盤の歌詞カードは単色刷りの1枚モノ、盤面もメーカー汎用のデザインという、デビュー作ならではの質素な仕様になっている。
 生のボーカルにエレキギター+デジタルビートという初期のB'zのコンセプトを具現化した記念すべき作品…なのだが、本作においてはデジタル部分が松本のエレキの鳴りに比べてかなり前面に出ており、両者が上手く融合しているとは言い難い音像。稲葉の歌詞も後年のようなユニークな側面はほぼ見受けられずあまり印象を残せていない。なお1曲ずつ稲葉、松本がそれぞれ作詞・作曲を外部に委ねた楽曲がある「Nothing To Change」「孤独にDance in vain」)。また、「ハートも濡れるナンバー 〜stay tonight〜」「君を今抱きたい」は翌年以降にタイトルを変更して英詞でリメイクされた。
 筆者が本作を初めて聴いたのは彼らがブレイクを果たした1991年頃だったのだが、その時点でも既に古臭さは否定できず、まさに初期中の初期、習作と呼んでいい内容かもしれない。本作のキャッチコピーに「最先端から加速する」とあるが、むしろここから最先端へ向かって加速していった、それだけ数年間で劇的に彼らが進化した始まりの1枚ではある。


OFF THE LOCK
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 1989年5月21日発売、2ndアルバム。全10曲収録。
 シングル「君の中で踊りたい」と同時発売。前作に続くデジタル路線ではあるが、松本の印象的なフレージングのギターが聴ける曲が増え、また生ドラムが大半の曲で導入されてライブ感がかなり増した。稲葉の歌詞も軟派なラブソングが中心ではあるが独自の表現方法が開花しつつあり、今後に繋がるB'z像が徐々に垣間見えてくるなど成長が見られる。そういった意味では本作が本当の意味での彼らのデビューアルバムなのかもしれない。
 1,000時間をかけてレコーディングされた…とよく語られており、その割に発売当時は前作同様ほとんど売れなかった(ブレイク後に他作品と同様に売り上げは伸ばしている)ようだが、「LOVING ALL NIGHT」「NEVER LET YOU GO」「OH! GIRL」等、後年になってリメイクされる曲が結構あり、当時のセールス面はともかく楽曲的には一定のクオリティを達成している作品が多いと思う。個人的には泣きのバラード「ROSY」、そして青春時代を振り返った「GUITAR KIDS RHAPSODY」がイチ推し。今年「君の中で踊りたい」が2023年版のB'zサウンドでリメイクされた時は正直驚いた。


BAD COMMUNICATION
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 1989年9月21日発売、初のミニアルバム。全3曲収録。
 表題曲「BAD COMMUNICATION」に、デビューアルバム関連の楽曲の英詞リメイク+リアレンジバージョンの2曲を収録。3曲共に「OFF THE LOCK」の路線とは異なりダンスビートの打ち込みサウンドが全開で、曲間の繋ぎもほぼノンストップに近く、ロックな要素をほぼ排除した仕上がりに。
 CMタイアップを獲得し、彼らの初の代表曲となった「BAD〜」の効果でセールスを地道に積み上げ、オリコン最高位12位ながら数年後にミリオンセールスを達成。各曲7分以上と非常に長く、表題曲はともかくリメイク2曲は元々4分程度だった曲を引き延ばしており、長すぎてメリハリに欠けるというマイナスポイントも正直ある。アルバム作品というよりは1,500円のちょっと高めのマキシシングル、という印象。
 なお、本作には外箱付の初回盤が存在。現在では中古市場で安価で容易に手に入るようだが、90年代には結構なプレミアム価格で取引されていた記憶がある。また、本作よりB'zオリジナルのCD盤面のデザインが採用されるようになった。


BREAK THROUGH
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 1990年2月21日発売、3rdアルバム。全11曲収録。初回盤は紙製の外箱が付属していた。
 シングル「LADY-GO-ROUND」と同時発売。「OFF THE LOCK」の(この時点での)生音要素と「BAD COMMUNICATION」でのダンスビート路線を折衷した感のある全貌で、王道楽曲以外にも全編ラップの「B・U・M」、ヒップホップ調の「HEY BROTHER」等、現在の彼らからは想像もつかないジャンルにまで手を出しているのが特徴。様々なカードを切ってどの手で行くかを模索していたのかもしれない。故に若干とっ散らかっている感はある。
 表題曲「BREAK THROUGH」「BOYS IN TOWN」など、現状を打破して高みに上りたい的な稲葉の歌詞はこの時期ならではか。「LOVE & CHAIN」「今では…今なら…今も…」は後年リメイクされた。切なくも激しく疾走するラストナンバー「STARDUST TRAIN」は名曲。
 余談だが、本作までの原盤権はビクター(現在はソニーに吸収されたアリオラジャパン)が所持。ここまでの作品は後年のB'zの公認ベストにはなかなか収録されない。何とかして欲しいものである。


WICKED BEAT
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 1990年6月21日発売、2ndミニアルバム。全4曲収録。
 直近のシングル「BE THERE」「太陽のKomachi Angel」がスマッシュヒットを飛ばす中でリリースされた全英詞のノンストップミニアルバム。本作用の新曲はなく、過去のシングル曲と「BAD COMMUNICATION」の英詞リメイクという、この時点でのベスト的な選曲内容になっているが、「I WANNA DANCE」(「君の中で踊りたい」リメイク)は全くの新アレンジ、他の3曲も原曲から若干リミックス的な要素を加えられ、マイナーチェンジされて収録されている。
 本作を最後にダンスに特化したアルバムは制作されなくなるので、これまで積み上げてきた打ち込みダンスビート路線の集大成とでも言うべき作品。ややマニアックな作品ではあるが、直後のブレイクの余波もあり、ロングセラーとなって後にミリオンセールスを達成。


RISKY
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 1990年11月7日発売、4thアルバム。全10曲収録。初回盤はフォトブックレット入りのプラケース仕様。
 これまでサウンドプロデュースとしてクレジットされていた松本の名前が、プロデュース名義に移行した初のアルバム。前月リリースのシングル「Easy Come,Easy Go!」(RISKY style)「愛しい人よGood Night...」を収録。この2曲に象徴されるように、前作までのダンスビート路線からギターとドラム中心のロックバンド路線へと変化を試みた作風となっている。本作では他の音色が霞むほどにドラムの響きがとにかく強いミックスの印象が強く、ライブ感は「OFF THE LOCK」の比ではない。その一方でクラビネット系の音を始めこれまでのダンスサウンドを構成していたオケもある程度残しており、デジタルからロックへの過渡期とも呼べる作品。これまで打ち込み系楽曲のヒットでファンを増やしてきたB'zにとっては賭けの一作だったと思うが、初のオリコンアルバムチャート首位獲得、ミリオン突破と、絶大なる成果を挙げることに成功している。
 曲単体に目を向けると、実質1、2曲目の「GIMME YOUR LOVE -不屈のLOVE DRIVER-」「HOT FASHION -流行過多-」でのマシンガンの如く畳みかけるような歌詞(とその内容)のインパクトでリスナーを一気に引き込み、ヒットシングルになだれ込む前半の構成が効果覿面。中盤以降はミディアム系も登場して勢いはやや落ちるが、「VAMPIRE WOMAN」「FRIDAY MIDNIGHT BLUE」といった佳曲もあり最後まで飽きさせない。ラストの「It's Raining...」はサビ以外は稲葉が電話口で喋っているという設定の斬新すぎる楽曲。個人的にはアルバム全体のサウンドの変化よりも、この曲で一番衝撃を受けた(笑)。
 前述の通り過渡期的な作風であるが、翌年以降のロック路線に完全に移行していく彼らの新たなスタート作、とも呼べる1枚。