hatapaint 2023年3月22日発売、秦基博の通算7枚目となるオリジナルアルバム。CDのみの通常盤、前年春に開催されたBillboard Live YOKOHAMAでのアコースティックライブを収録したBlu-ray付属の初回限定盤、さらに特典映像を加え、インタビューブックも同梱したファンクラブ限定盤(映像はBlu-ray/DVDを選択可能)の三種形態での販売(CDの収録内容は同一)。同年4月よりLP盤の限定枚数での販売も開始されている模様。本レビューは通常盤となります。

 3年3ヶ月前にリリースされた前作以降に一般販売された唯一のフィジカルシングル「泣き笑いのエピソード」、加えてファンクラブ限定でフィジカル販売し、一般にはデジタルシングルとして配信された「Trick me」「サイダー」、配信オンリーの「残影」「イカロス」を含む全10曲を収録。ちなみに「泣き笑い〜」は弾き語りバージョンでアルバムに収録される機会が既にありました。また「Trick me」は英語バージョンやリミックスバージョンも配信でリリースされていましたが、これらは当然というべきか本作では未収録。なお、プロデュースは秦単独のクレジットですが、サウンドプロデュースは秦とトオミヨウの共同名義。前作では全13曲中11曲だったこのタッグで本作では全曲を担当。発売時のインタビューでもまさに二人三脚的な作業で制作が行われたと語られています。

 前作は、秦基博史上ほぼ初となる同世代のアレンジャーであるトオミヨウを迎えてアレンジ面で新風を取り入れたアルバムだったわけですが、その時点では外部プロデュースからセルフプロデュースを経て一貫して基本的に生音メインだった秦に遠慮(?)したのか、お互いの個性がまだ十分に溶け合っていなかった中途半端な感がありました。その経験が糧になったのか、本作ではお互いが描いているアレンジ像が一致したようで、生楽器の登場機会もそれなりにありますが、リズム隊を起用しない曲が半数、ドラムも奏者がクレジットされているものの、音色をかなり加工した生っぽくない聴き心地にしたりと、かなりプログラミング寄りに統一された音像に。クレジットではDX7やProphet-5などのヴィンテージシンセ使用の記載があり、これらを活用して80年代を想起させるレトロな音色を表に出す(「Dolce」などは特に顕著)一方、現代的な配色での打ち込み、生楽器も鳴らして懐かしい気もするけど古臭くない、現代的なカラフルでポップなサウンドに仕上げてきたという点ではこのタッグで場数を踏んだ成果が出ていると思います。秦の声質はサウンドに合わせて変幻自在…というわけではないですが、リード曲「Paint Like a Child」を筆頭に非常にキャッチーなダンスナンバー「Life is Art !」、昨今の世情を彼流の筆致で反映させた「2022」等、各楽曲の出来はいつも通りの安定感ですし、この声で歌えば秦基博の曲、になるという強みをこのサウンド上でも活かしている印象を受けました。

 筆者は彼のデビューより少し後の、バンドメインでのスタイルになった辺りでファンになったので、こっちの方向に行ったか…まあこれも悪くないかな…という感想なのですが、最初期のようなアコギ弾き語りを基本に、最小限の編成での演奏スタイルを重視する層には、特に本作はアコギでリードする曲は皆無「太陽のロザリオ」というエレキで弾き語りという異色作はありますが)なので、ほとんどアコースティック色を捨て去ったサウンドメイクにはもうついていけない…というリスナーもいそう。まあそういった層は既に脱落しているのかもしれませんが…。個人的には彼には時代の音楽的トレンドを取り入れつつ、これまでの秦基博らしさもある程度活かしながら新たなサウンドを模索して欲しいな、と思います。