
1975年に憂歌団のボーカリストとしてレコードデビューした木村充揮は、バンド活動後期の1994年にソロ名義でもデビューしバンドと並行して活動。1998年末に憂歌団が休眠(事実上の解散状態)に入った後は、ソロ活動に加えて新バンドCUM'CUM'を結成したり、有山じゅんじや近藤房之助とタッグを組んでアルバムをリリースしたりと恒常的な活動を続け、2014年には憂歌団のギタリストであった内田勘太郎と憂歌兄弟を結成。また憂歌団自体が活動を再開した同年以降(と言っても近年はご無沙汰のようですが…)も基本的にはソロに軸足を置いて活動している模様。そんな彼が「木村充揮ロックンロールバンド」としてリリースしたライブアルバムが本作。2022年新春に大阪・京都・名古屋にて行われた3公演のうち、1月6日、京都・磔磔での模様をCD2枚にわたり全曲収録。また、その中から抜粋された10曲をライブDVDとして同梱したCD2枚+DVD1枚形態での販売。本レビューは配信されているCD部分のみのレビューとなります。
木村充揮ロックンロールバンドは元々は2019年に木村の主催企画にて一日限りのイベント用に結成されたバンドで、その際は木村、三宅伸治(G)、中村きたろー(Ba)、ケニー・モズレー(Dr)の四人編成。今回はさらに前田サラ(Sax)を迎えた五人編成での演奏。音の定位置的にはリズム隊が中央、サックスが左寄り、ギターが右寄りにバランス良く配置されており、木村のボーカル(とギター)は当然センター。ライブ録音にありがちな各楽器がゴチャっとした感は全くなく上手く分離しており、適度に観客のエアー音声も混ざっており録音状態はなかなか良好といったところ。
演奏楽曲は本編13曲、アンコール3曲の全16曲。選曲は「おそうじオバチャン」「胸が痛い」「シカゴバウンド」「嫌んなった」といった憂歌団の鉄板代表曲を要所で演奏しつつ、洋楽邦楽問わずのカバー、木村のソロ名義での楽曲も散りばめた、木村の活動全史からのベスト選曲といった感じ。御年70歳を手前にしても木村の独特の歌声は不変のもので、長年歌っているであろう憂歌団の曲にも節回しにクセをつけずオリジナルに近い歌唱パフォーマンスを披露。何十年も変わらない声質をキープしながらの熱唱っぷりには圧倒されます。それとは裏腹に曲間でのフニャ〜っとしたトークも相変わらずで(笑)、バンドメンバーがあまり積極的に喋らないということもあり、一人でノリツッコミしたり観客からの野次に応えたりするMCは微笑ましく、演奏との両極端さもある意味健在(笑)。
バンドアンサンブルとしては、ソロの見せ場的に三宅のギターと前田のサックスが絡みも含めてほぼイーブンで出番があり、特に艶のあるサックスの音はやっぱりバンド演奏に華を添えるなぁ、と実感。また、モズレーのドラムは正確かつパワフルでまさにロックンロールバンドを体現している印象。個人的には木村ソロ名義の「野良犬」の泥臭く大胆なリアレンジ、そして失礼ながら「こんな良い曲あったっけ?」とすっかり忘れていた同じく木村ソロ名義の「わけもなく」が特に心に残りました。後者は1997年の作品で、あれから約四半世紀が過ぎ、筆者も年を重ねた分、当時は実感として分からなかった歌詞の意味が沁みた…という意味で嬉しい再発見となりました。
総じてロックンロールバンドとしてのダイナミズムが全開であり、憂歌団の楽曲もロック寄りのアレンジになっているので、憂歌団的なアコースティック基調の演奏を期待するとちょっと違う…という感想になるかも。この辺りは木村以外プレイヤーも異なるわけで、前歴云々よりも「木村ソロのバンド形態」として聴くのが一番の楽しみ方ではないでしょうか。なお、このバンドは同年夏のフジロックフェスにも出演し、2023年以降も不定期ながら活動は継続しているようなので、またいつかこういったライブ作品をリリースしてほしいものです。
最後に余談ですが、木村・内田の両名は憂歌団外でも積極的に活動を発信しているものの、ベースの花岡献治が近年消息不明気味でちょっと心配していたのですが、今年になって近況が報告されてひと安心(?)。木村や新井田耕造(島田和夫亡き後の二代目ドラマー)とも時々一緒にライブを行っているようですし、各メンバー共無理せず、元気で活動を続けていって欲しいと願っております。
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