
近年開催されている売野雅勇の「作詞活動40周年記念 オフィシャル・プロジェクト」という周年イベントの一環として他3作のアイテムと共に同時発売された本作。中西圭三との関係は1991年のシングル「片想いのバースデー」から、1995年のシングル「新しい僕になろう」まで、約4年間に渡って数多くの作詞を提供し、歌詞面でのメインライターを担っていた間柄。本作は1992年の「Yell」、1993年の「Steps」、1994年の「Starting Over」の全3作(通算2〜4枚目)のオリジナルアルバムの中から、売野・中西両名によるセルフセレクション。基本的に収録はほぼリリース順、アルバム単位での選曲となっており、「Ticket To Paradise」はシングルバージョンではなく「Steps」収録のアルバムバージョン(remix)で収録。リマスタリングも施され、結構派手な聴き心地で音質統一されています。
選曲範囲対象であるこの3作のアルバムリリースの頃の中西といえば、今回選曲された「Woman」「Ticket To Paradise」「You and I」といったヒット曲通り、ダンサブルな打ち込み系サウンドにキャッチーなメロディー、パワフルで透明感のある歌声を張り上げるボーカル、というイメージでセールス的にも全盛期を迎えていた頃。ヒット曲以外にもCMソングとしてオンエアされていた「Glory Days」「Precious Love」「明日はきっといい日」と、ポップス寄りの軽快なダンス系ナンバーが中心に選ばれており、ミディアム〜バラード中心にシングル曲が切られ、他アーティストとのコラボ活動に力を入れるようになる90年代中盤以降の円熟期とは違った若さ、勢いが凝縮された1枚となっています。また、この時点で既にかなりのキャリアを誇っていた売野の「作詞家らしい洗練された破綻のない歌詞」は、その後訪れるシンガーソングライター隆盛の時代とはまた異なる魅力のある内容であったことを再確認。個人的にはこの頃に中学生活を送っていた筆者の日常のBGMの一つとして聴いていた楽曲達を久し振りにまとまって聴けて、当時の思い出が蘇ってくるようでした。
なお、ラストに1曲未発表曲として、売野作詞・中西作曲による、両名に縁のある栃木県佐野市に開校した「葛生義務教育学校校歌」を収録。小西貴雄編曲の打ち込みオーケストレーションによるザ・校歌という感じで、約30年ぶりというタッグを実現させたボーナストラック的な最新作というところでしょうか。
歌詞ブックレットの中には別紙として「売野雅勇 × 中西圭三 対談」が封入。売野・中西に聞き手も交えて、二人の出会いや収録曲ごとに当時の裏話などの興味深い話題が詳細にびっしりと綴られており、読み応え抜群。特に作詞家側から楽曲の内容に言及するのは珍しいことだと思うので、フィジカルメディアならではの貴重な特典資料なのでは。
総括すると、選曲そのものが「売野雅勇作詞作品」に限られている性質上、該当期の全ヒット曲が収められているわけではない(作詞家の異なる「眠れぬ想い」「非情階段」は未収録)ので、この時期の中西圭三の魅力を1枚に全て網羅というわけではありませんが、前述の通り、この時代にリアルタイムで多感な時期を過ごした身としましては懐かしく、そして嬉しい企画ベストとなりました。
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