
デビュー15周年時の「DEEN PERFECT SINGLES+」以降、5年ごとに周年記念のベストアルバムをリリースしてきたDEEN。デビュー30周年を迎えた2023年も予想通りのベスト発売となったわけですが、これまでの三作連続シングルコンプリート系+αの内容だった周年ベストとは異なり、本作はオリジナルアレンジで代表曲を新録音したセルフカバーがメインということで、制作にあたって本格的にメンバーが新たに稼働したベストアルバムとなっています。また、公式でも各ディスクのティザー映像のみならず、発売日10日前からはカウントダウンで1曲ずつ新録曲の1コーラスMVを公開していったりと、力の入ったプロモーションが行われていました。
disc 1は「DEEN The Best Studio Live 30th」。B-Gram時代の代表的なシングル曲をオリジナルアレンジ、原キーで現在のバンドメンバーと共にスタジオ録音した11曲+新曲「RUN RUN RUN」の全12曲収録。オリジナル踏襲ということで編曲クレジットも原曲のままとなっています。近年5年間でライブでも原キーで歌うことが基本的になってきた現在だからこそ企画・制作されたディスクと呼べるでしょう。アレンジは原曲にほぼ忠実ですが、池森秀一のボーカルもデビュー当時の瑞々しさから力強さが増し、演奏面でも「ひとりじゃない」の一部のキメ部分の変更、原曲が打ち込みだった「Memories」はドラムが生になったことで躍動感が増していたり、「瞳そらさないで」はギターソロがサックスソロに変更になっていたり…と、単なるトレースではなく、これまでライブで培ってきた部分を反映させ、30年間での音楽的成長をリスナーに感じさせることのできる仕上がりになっています。
ラストに収録された新曲「RUN RUN RUN」は、TUBEの春畑道哉がソロパートのゲストギタリストとして参加。彼らのベストの新曲はミディアム系の感動的なナンバーが多いのですが、今回はタイトル通り元気で明るいアップテンポナンバー。この衒いのなさは10年代の中盤辺りを彷彿とさせる印象で、結構久々のノリだなと思いました。
disc 2は「DEEN The Best Covers」。公式の30周年特設サイトにて昨年秋から年末にかけて募集したカバー楽曲投票の上位曲を14曲+新録カバー「スタンダード・ナンバー」「Nothing's Gonna Change My Love For You」を加えた全16曲収録。2002年の初のカバーアルバム「和音」以降、コンセプトアルバムの中や、洋楽カバー、シティポップカバーアルバムに収められた楽曲からのベスト選曲…とは言っても、一時期の徳永英明のようにカバーを売りにした活動をしていたわけではないので、総カバー楽曲の分母は実はそれほど多くなく、厳選という感じはしないのが正直なところなのですが、有名曲中心に1枚のアルバムにするならこんな感じかな、という1枚になっています。意外だったのが「真夜中のドア」はライブ未披露に続いてここでも選曲されなかったという点。また、夏リリースのカバー作品が多かったので何となく全体の雰囲気は夏っぽいなぁ(思い切り真冬の曲もありますが)…という印象もあるかな、と。
初回生産限定盤のみのdisc 3は全曲初CD化の「DEEN The Special Tracks」。その内容は昨年のZARDの30周年ライブの際に池森がゲスト出演し提供曲をコラボしたライブ音源2曲、配信リリースのみだったデジタルシングル3曲のフィジカル化、未発売音源のSHU(池森ソロ)のリミックス曲、新録でアカペラクリエイター・とおるすをフィーチャーした「DEEN Greatest Hits アカペラメドレー」に、かねてから交流のあるparis matchとのコラボ新曲「ふたりだけのダンスフロア」の全8曲収録。
アカペラメドレーは矢継ぎ早に10曲のサビをメドレーしていく、楽しくも締まった内容。「ふたりだけのダンスフロア」は近年のDEENの音楽性の延長線上にあるシティポップ路線で、現時点でのDEENを象徴する曲といえば「RUN RUN RUN」よりこっちかも。それだけにこのディスクだけの収録にしておくのが勿体ない気もする良曲。企画色が強くアルバム未収録のままだった「そばにいるだけで」「間違いない世界」の収録も嬉しいところ。
ベスト発売直前のインタビューでも「ベストは散々出してきてるので…」とメンバー(池森談)がぶっちゃけている通り、確かにこれまでは5年周期で同じような内容で年々値段の高くなるベストばっかり毎度毎度…という気持ちがあったのですが(苦笑)、今回は新録音メインということで発売前から楽しみでしたし、実際購入後も過去の周年ベストと比べてもかなり高い頻度で愛聴している作品となりました。CD発売と同日に通常盤のサブスクも一部を除いて解禁されたようですし、コアなファン以外にも気軽に「今のDEENの演奏で過去の代表曲が聴ける」環境が整ったというのは大きいと思います。ということで大変意義のあるベストアルバムでした。
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