
まずは影山ヒロノブの略歴を簡単に解説すると、1977年、ロックバンド・LAZYのボーカリストとしてプロデビュー。LAZY解散後は1981年にソロデビューをするものの目立ったヒットは残せず、1985年に当時所属の日本コロムビアのディレクターから次回のスーパー戦隊シリーズの主題歌の歌唱を依頼され、KAGE名義で「電撃戦隊チェンジマン」のオープニングを歌ったことをきっかけに、特撮・アニメ主題歌を数多く担当するようになり…という経歴。なお筆者は80年代中盤から後半までの小学生時代に「宇宙船サジタリウス」、「聖闘士星矢」、そして「ドラゴンボールZ」と、当時視聴していたアニメの主題歌シンガーとして影山ヒロノブの存在を認識してきた世代でした。90年代に入っても数多くのアニソン・特撮ソングを歌い続けてきた彼ですが、今回ご紹介する「CYVOX」は、そんな彼の90年代前半〜中盤辺りまでの楽曲を集めた、コロムビアでは2枚目(通算では3枚目)のベストアルバム。発売日は1995年4月21日…のはずなのですが、ケースには誤表記で1994年4月21日とプリントされているのはご愛嬌(苦笑)。
収録曲は「聖闘士星矢」関連の楽曲として1988年に発表の「TIME〜2036の選択〜」以外は全て90年代に発表された楽曲からのセレクト。当時人気絶頂の「ドラゴンボールZ」の二代目主題歌「WE GOTTA POWER」「僕達は天使だった」等、ドラゴンボールシリーズからは5曲も選ばれていますが、中でも「青い風のHOPE」は開放感のある爽やかな佳曲。また、この1995年始にアニメ放送が開始されたばかりの「鬼神童子 ZENKI」の同名主題歌が早くも収録され、1993年にOVA展開された「キャシャーン」の主題歌「キャシャーン〜風の墓標〜」は本作用のニューアレンジ(CYVOX VERSION)で新録。変わりどころとしては進研ゼミのミニ番組「ふしぎチャレンジ」のテーマソングに起用され珍しく影山本人のラップも聴ける「Do! Challenge」、Jリーグ・柏レイソルのオフィシャルチームソングとしてシングルリリースされた応援歌「WE ARE REYSOL」も収録。さらにはオリジナルの新曲として「光りのこども」「ずっとこのまま」が最初と最後に配置されるなど、単なるベストアルバムで終わらないサービスを加えた全14曲となっています。
各楽曲はほぼタイアップを受けての制作と思われ、依頼先のニーズによって曲調は様々。アレンジ面でも打ち込み要素満載の曲、生バンドの曲、デジタルと生音を上手く融合された曲と、90年代中盤までの音楽シーンを思い起こさせる楽曲が揃っています。ボーカルスタイルとしては彼の今日まで続くイメージである、これぞ影山アニソン!的な魂を込めた楽曲あり、「STAND ALONE〜涸れ果てた心に〜」のような哀愁を感じさせるロッカバラードあり、新曲の「ずっとこのまま」ではボサノバ調で優しく語りかけるように歌ったり…と、曲に合わせて変えており、元々ロックバンドのシンガーとしてスタートしたこともあり彼の歌唱力は申し分ありませんが、本作を聴いているとそのボーカルスタイルはただ一直線に熱いだけではなく、どこか陰りを感じさせる部分もあり、歌だけではなく表現力にも秀でたシンガーなんだな、と月並みながら正直な感想を本作では改めて抱きました。本作に収録されたような王道楽曲から変化球的な楽曲までを幅広く歌いこなすからこそオファーも継続して来るのであり、息の長い活動をし続けてられているんだな、とも。
なお、コロムビア制作のベストアルバムは、本作以前の1992年に第1弾、本作以後の1996年に第3弾がそれぞれリリースされています。第1弾「スターダストボーイズ」は先述の筆者の小学生時代に直撃の三大アニメ(サジタリウス・星矢・DB前期主題歌)の楽曲が前半に、戦隊モノ主題歌が後半にというコンピ的要素があり、第3弾「Mixture」は「WE GOTTA POWER」の英語バージョンが収録されているなど若干変化球気味で聴き手を選ぶ内容(ベストなんですが…笑)。その後の彼はコロムビアとの関係を保ちながらも他レーベルからのリリースや、アニソンユニット・JAM Projectを設立した他、非アニソン曲のリリースも断続的に行いながら活動しており、今のところの最新ベストはデビュー40周年記念として2018年2月に発売されたコロムビア版権の楽曲を中心とした2枚組38曲入りのベストアルバムになりますが、さすがにボリュームが凄すぎて入門編には不向きなので(苦笑)、影山ヒロノブの魅力をまずは知りたい!という方にはコンパクトにまとめられ、楽曲のバランスも良好な本作を是非どうぞ。
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