
TM NETWORKのメンバーの一人である木根尚登は、TMN(当時)活動休止期間中の1992年12月にソロデビュー。以降、TM本体と並行する形でソロ名義での活動を続け、2022年にソロデビュー30年目を迎えたことを記念して、同年10月20日から2023年1月19日までの期間限定でスペシャルサイトがオープン(1月20日以降も公開内容を縮小して存続)。過去楽曲のMVのYouTube公開や、twitterでは好きな木根楽曲を「キネリク」としてリスナーから募集する、などの段階を経て、12月1日に「ソロ活動30周年記念セレクション・アルバム」として本作のリリースが発表。なお、発売はソロデビューから90年代末まで所属していたSONYからとなっており、特に注釈はありませんがSony Music Shopからのオンライン販売のみとなっているようです。ちなみに最新リマスター+Blu-spec CD2仕様。
収録曲は「音楽は人と心をつなぐ」というテーマで選曲された30曲に加え、デビューシングル「泣かないで」の新録ピアノ弾き語りバージョンをボーナストラック的な扱いとしてDisc 2の最後に収録。収録順は時系列ではなく、「そのままライブのセットリストになるような構成」というコンセプトで編まれたということで、両ディスク通して30年間分の楽曲を行ったり来たり…という流れになっていますが、基本的にはシングル関連曲をメインに、アルバム曲、TM名義でリリースされた曲や渡辺美里や浅香唯に提供した楽曲のセルフカバーバージョンも含めて幅広く収録。シングル曲でも「UNKNOWN TOWN」はリメイクバージョン、「誰かが君を愛してる」はオリジナルアルバムのリマスター盤発売の際に追加収録された未発表バージョンが選ばれていたりとこだわりが。また、個人的には「I'm On Your Side 【Strings Version】」「Don't Turn Away」といったシングルのカップリング曲も選出されているのがポイント高いです。
具体的な選曲面では初期作「泣かないで」「もう 戻らない」のオリジナル音源がようやく選出されたり(長かった…)、TM名義の「LOOKING AT YOU」「Time Passed Me By」「月の河」の木根バージョンが一堂に会したり、2010年代以降のシングル「RESET」「ひかり桜」がアルバム初収録されたりと、どの年代からも万遍のない選曲で、まさに木根ソロ30年史といった趣。生バンドで丁寧に演奏されている曲もあれば、ほぼ一発録りのノリで結構荒めのテイクを採用した曲もあるなどアレンジ面のアプローチは様々ですが、どの曲にも言えるのはメロディーメーカーとしての木根の才能を大いに堪能できる点。時代に合わせたサウンドや、音楽シーンの最先端に向けてのヒットの方程式で…といった戦略とは良くも悪くも無縁であり、それがともすれば地味にも映ってしまうわけですが、この時流に左右されない普遍的なメロディーを恒常的に書き続けてきた持続力こそが木根の最大の魅力でもあるわけで、本作はその点を見事に汲んだセレクションになっていると感じました。
過去には2000年にSONY在籍時までの楽曲対象のベスト、2012年にはR&Cから2001年以降の楽曲対象のベストをそれぞれリリースしていますが、本作とは楽曲の被りは極力避けており、どちらにも存在意義を残してくれたのは嬉しいところ。公式ではあくまで本作を「ベストではなく、セレクション・アルバム」と表現しているようですが、実質はSONY、R&C、自主レーベルといった垣根を越えたオールタイム選曲による30年間の木根尚登の集大成ベストと言っても差し支えないでしょう。それだけにSony Music Shopのみの専売(=中古市場やレンタル等でも出回る確率は極めて低い)という売り方は結構勿体ない気もします。もっと彼の音楽の魅力を多くの人に知ってもらいたい、そんな思いを強くした好作品でした。
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