tmhowdoyoucrashit 2022年4月21日発売、TM NETWORK初の無観客配信ライブ全三部作を収録したライブ映像作品。Blu-rayディスクのみの通常盤、特典としてライブ三部作収録のCD3枚+新曲「How Crash?」を収録したCDに加え、夏に行われるライブツアーの先行予約用抽選シリアルナンバーが封入された初回生産限定盤の2種での発売(映像収録内容は同一)。本レビューは通常盤となります。

 デビュー30周年時の一連のプロジェクトを2015年3月の横浜アリーナ2daysで完結させ、活動休止に入っていたTM NETWORK。次に本格的に動くのは恐らく35周年時の2019年か…と予想していたのですが、2018年の1月に小室哲哉が芸能界を引退し表舞台から姿を消し、メンバー三人全員揃っての活動は不可能状態に。それでも2019〜2020年にかけては古巣SONYから蔵出し映像ありのBlu-rayボックスが発売されたり、ファン投票による結果を反映したベストアルバムをSONYavexの協力体制のもとで同時発売したり、宇都宮隆はソロ名義でTMの楽曲で構成されたツアーを敢行したり…と、様々な形で35周年は祝われましたが、本体稼働はならず。
 そんな中で迎えた2021年10月、小室の完全復帰とTM NETWORKの「再起動」が宣言され、まずは10月、12月、2022年2月に無観客でのライブを3回に分けて配信。そして2月の配信終了直後に本映像作品のリリースが発表。メンバー主導のリリースものとしては、30周年の締めくくりの横アリライブBlu-ray以来、実に約6年半ぶりとなります。なお、本作は近年所属していたavexでも、かつて所属していたSONYでもなく、宇都宮隆の個人事務所M-TRESからの発売となっています。ということは現在はレコード会社には所属していないということ?

 本編は全3回の配信ライブをそのまま収録したわけではなく、1本の映像作品として仕立てるためか曲順もかなり変更を加えて再構成(それとは別に楽曲を好みの順番に配置できる「MY PLAY LIST」も実装)。演奏曲は「MY PLAY LIST」のカウントでは全25曲、基本的に2〜3曲ごとにライブ以外のショート映像を入れることで単調にならず、ドキュメンタリーフィルム的な効果をあげています。その映像を観るに、今回は30周年の際の「TM NETWORK=タイムマシンで時代を行き来して調査云々」というストーリーの続編であり、30周年の最後にTMからミッションを託された潜伏者達が2015年以降に調査した世界情勢をメンバーがそれぞれの場所で映像確認し、そして動き出す…という感じで、次回以降のライブに繋がるような流れで本編終了。

 それらの映像に挟まれるライブ演奏ですが、今回は三部作ライブということで演奏楽曲も膨大、収録時間も約170分と、Blu-rayならではの記録量を活かしたセットリスト。選曲は「Get Wild」はもちろん、「I am」「SEVEN DAYS WAR」「BEYOND THE TIME」「LOVE TRAIN」「RESISTANCE」「BE TOGETHER」「Self Control」等の代表曲はもちろんのこと、「1/2の助走」「WINTER COMES AROUND」といった超レア曲、アレンジを大幅に変更した「ACTION」「LOUD」「N43」等の比較的近年の楽曲、恒例の小室のみならず木根尚登のインストソロコーナーなど、楽曲的には大充実。最終盤では「QUIT30」組曲を彷彿とさせる新曲「How Crash?」の完全版も披露されるなど、次の展開にも期待できそうなライブではあったと思います。
 ただその一方で、やはり無観客ライブである上に全て同じステージでの演奏、サポートメンバーも起用せずにオケが大量に鳴っている三人だけの演奏、照明や多彩なCG演出を含めてもカメラワークも限界があり…という点では、スタジオライブを延々と続けている、という印象で、曲は多く演ってくれているんだけどライブ(=生演奏)的な見どころはあまり無く、従来のようなライブならではの熱気を期待して観ると、物足りなかったのが正直なところ。

 まあ、このライブが企画されていた頃は、コロナ禍の影響で有観客ライブの開催が現在よりももっとデリケートな問題になっていた時期で、対外活動を配信のみで行う、という手法は最初期のTMのコンセプトに結果的に合致する点もあると思われるので、この形での活動再開第1弾は正解だったと思います。ですがやはり現地観戦に勝るライブはない(当たり前ですが)ですし、この夏から始まる全国ツアーもようやく有観客。この状態を最低限キープ可能な世の中になって欲しいと切に思います。次こそは筆者も会場で生でTMを観る機会を得られることを切望しております。