wesugi1 2022年3月9日発売、「オールタイムプレイリストアルバム」と冠された、上杉昇初のベストアルバム。全15曲収録。

 本ブログでも複数回採り上げているWANDS。その初代ボーカリストである上杉昇。WANDS脱退後は同じく元WANDSの柴崎浩とユニットal.ni.coを1997年より結成して活動するも2001年に解散。その後は自主レーベルを立ち上げ、ソロ名義での活動を開始する傍ら、バンド猫騙を結成してインディーで活動を行うなど、一時期は完全にメジャーシーンから距離を置いていた彼ですが、2012年夏のアニサマでは織田哲郎と共に大きなステージに立ったり、2010年代後半にはアジア圏でのライブ出演や自伝本を出版するなど、徐々に一般層にも目に触れる機会を増やしてきたところで迎えた2021年12月、プロデビュー30周年を記念した本人選曲のベストアルバムが登場。まずライブツアー会場限定での販売から始まり、翌年3月に一般流通でのリリースという運びになりました。選曲はWANDS、al.ni.co、猫騙、そしてソロの既発楽曲の中から選ばれていますが、WANDSとal.ni.coの楽曲に関しては岡野ハジメプロデュースでの新録音セルフカバーでの収録となっています(「Same Side」のみ2006年に既発のカバーアルバムでのバージョンを収録)。

 さてWANDSファンの筆者としては、まず一番に興味を持つのはやはり「現在の上杉が歌うWANDSのセルフカバー」。いきなり冒頭に「FLOWER」が配置されており早速聴いてみると…打ち込み成分多めながら原曲に比較的忠実な演奏の中で独特な癖をつけて歌う上杉の声…な、何コレ?もしかして今の上杉のボーカルスタイルってこうなの?!といきなり不安になったのですが、2曲目以降は従来の歌い方の楽曲になってひと安心(?)。これは筆者のようなWANDSの曲目当てで手に取ったリスナーへ「ついてこれるかな?」という意味でのカウンター、と思うのは穿ちすぎでしょうか(笑)。

 それはともかく、本作に収録された楽曲は基本的には退廃的な雰囲気にさらに傾いた上杉の歌詞や、ラウドなギターが響くハード寄りの生バンドでのロックサウンドが多くを占めており、二胡を用いたバラード「濫觴」、エレクトロに若干接近した「桜舞い錯乱」など、アクセントになる曲がありつつも、アンチメジャー的な作風がメイン。筆者はal.ni.coはリアルタイムで聴きましたがその音楽性について行けず、インディーになってからは彼の音楽からは遠ざかっていたので、今回本作を手に取る機会を得た時はもっとアングラな方面に行っていたらどうしよう…と思いながら本作を聴き始めたのですが、冒頭はともかく(苦笑)、歌モノとして成立しているので想像していたよりも難解ではありませんでした。過去のインタビューを読むと上杉も何度か語っているように、こういう路線が本来自分がやりたかった音楽なのであり、そして今はそれをやれている、その集大成が本作ということなのでしょう。正直に言って聴く人を選ぶ作風だと思いますし、個人的にはあまり好んで聴かない系統かな、という感想を抱きましたが、大衆受けを狙っていないが故の我が道を行っている、という点ではある意味眩しかったりします。

 何度も似たような選曲内容のベストが濫発されているWANDSとは対照的に、al.ni.co以降の約20年間の彼の活動をひとまとめに手に取れるような作品がなかったので、今回のベストアルバムは「上杉昇というシンガーソングライターを知る」という意味ではかなり存在価値の高いものだと思います。近日5月25日には本作の第2弾も発売されるとのこと。こちらも手に取ってみようと思っています。