mrchildrencover2 来たる2022年5月10日にデビュー30周年を迎えるMr.Children。デビュー翌日には通算5・6枚目(c/wベストを含めれば7枚目)となるベストアルバム「Mr.Children 2011-2015」「Mr.Children 2015-2021 & NOW」が同時発売、また開催中の全国を回るアニバーサリーツアー等、メディア出演を含め様々なスケジュールが組まれている模様です。今回の「Artist Archive」では、大ブレイクを果たした後の1996年から、20世紀最後の年である2000年までにリリースされた彼らのオリジナルアルバムを1枚ずつレビューいたします。

※1992〜1994年までのオリジナルアルバムのレビューはこちら

Mr.Children 1996-2000 全オリジナルアルバムレビュー

深海
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 1996年6月24日発売、5thアルバム。全14曲収録。
 前作「Atomic Heart」発売後はシングルを6枚リリースしたが、本作には1996年に入ってからの直近シングル「名もなき詩」「花 -Memento-Mori-」の2枚のみを収録。同年8月に「マシンガンをぶっ放せ」がシングルカットされた。また、これまで小林武史単独だったプロデュース名義が本作より小林武史&Mr.Children名義となった。
 前作で大ブレイクを果たし、多忙な環境の中で桜井がどんどん擦れていったのか、アルバムタイトルの如く人間のダークな内面性を描いた楽曲がひしめく。「シーラカンス」「ありふれたLove Story 〜男女問題はいつも面倒だ〜」「So Let's Get Truth」等、ラブソングやメッセージソングを問わずに歌詞は重く、エレキギターや乾いた感じのドラムなど、作品全体を通して煮詰まった雰囲気を醸し出している。あまりのシリアスさ故に初期のポップな路線を求めるファンや、アイドルバンド的な目線で彼らを応援していたファンはこの辺りで結構淘汰されたと思われ、現在でも軽い気持ちでCDトレイに乗せられないアルバムではあるが、この生々しさこそが本作の魅力でもあると思う。
 なお、これまでのアルバムでは恒例だった初回限定盤は存在せず、汎用プラケースの通常盤のみの発売。以降のアルバムは変型仕様のケースが多くなるが、初回盤自体のリリースはしばらく無くなる。


BOLERO
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 1997年3月5日発売、6thアルバム。全12曲収録。
 当時の最新シングル「Everything (It's you)」、前作「深海」に収録されなかった1994〜1995年リリースのシングル「Tomorrow never knows」「everybody goes 〜秩序のない現代にドロップキック〜」「【es】〜Theme of es〜」「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」の計5曲のシングルを収録。「Tomorrow〜」はリズム隊を生音で録り直したバージョン(remix)に変更され、数年後発売のベストアルバムでもこちらのバージョンが収録されている(シングルバージョンはこちらにのみ収録)。
 長らくアルバム未収録だったミリオンセラーシングル5曲が収められているということもあり、ハーフベスト的なとっつき易いラインナップ…と思いきや、アルバムの新曲は「タイムマシーンに乗って」「傘の下の君に告ぐ」等の風刺的な作風だったり、ポップなメロディーに反して歌詞があまりに残酷な別れ歌「幸せのカテゴリー」、退廃的な「ALIVE」など、シングルの雰囲気とは全く異なる楽曲が並んでおり、むしろ前作よりも重た目な内容かも。
 これ以降のミスチルにはあまり見られない攻撃的な要素の強い楽曲が連発されるので、たまに聴くと結構新鮮に感じて面白い。シングルとアルバムの曲調に落差が激しいので、ベスト的な内容を求めるリスナーには不向きである。なお、本作発売後のドーム公演終了後ミスチルは活動休止を宣言。しばらく表舞台から姿を消すことになる。


DISCOVERY
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 1999年2月3日発売、7thアルバム。全11曲収録。
 1998年2月のシングル「ニシエヒガシエ」を経て、同年10月の「終わりなき旅」で本格的に活動再開。翌年年明けの「光の射す方へ」までの3枚のシングルを収録。なお、5月には収録曲の「I'll be」をアレンジの全く異なるバージョンでシングルカットしている。
 タイトル曲よろしく、深海からようやく脱出して何かを「発見」したアルバムかと思いきや、「何かを探し続けている」的な曲が多く、20世紀末の音楽シーン独特の「模索感」を感じるアルバムである。ギターロック路線は相変わらずではあるが、活動休止前に顕著だった攻撃的な部分は若干後退し、「Simple」「ラララ」「Image」等、何かを探しながらも穏やかなナンバーが多め。その中で中盤に配置され、アコギで始まり徐々にバンドやストリングスが入って盛り上がっていく9分超えの長尺ナンバー「I'll be」は本作で最も印象に残り、その存在感が大きい。なお、この曲ほどではないがやたら各楽曲が長く(5分超えが8曲、7分超えの曲も「I'll be」含め2曲)、全11曲にも関わらずトータル演奏時間は1時間を超える。


Q
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 2000年9月27日発売、通算8th扱いのライブアルバム「1/42」を挟んでの9thアルバム。全13曲収録。
 久々にキーボード色の強い「口笛」、従来のギターロック路線の「NOT FOUND」という2枚のシングル曲を収録しているが、アルバムの音楽性はそのどちらでもなく、トーキング調の「友とコーヒーと嘘と胃袋」、初期路線を彷彿とさせる「ロードムービー」、バンドというよりも桜井のソロ作品のようにも思える「つよがり」「安らげる場所」、歌詞のテーマが壮大な「Hallelujah」など、良く言えばバラエティ豊か、悪く言えば脈略のないごった煮状態の、かなり奔放な作りのアルバムになった。
 「ダーツでテンポを決めた」「酩酊した状態で録音した」「クジ引きでコード進行を決めた」等々が逸話として発売時から音楽雑誌等で語られていたが、それ故かアルバムとしてのまとまりは無いに等しく、リアルタイムで聴いた当時は「もうバンドでやりたい事無くなっちゃって解散するんじゃないか」という感想を抱いた。翌年以降はその状態がリセットされ、結果的に杞憂に終わったのでひと安心だったが、今振り返ると、2000年という世紀末真っ只中の混沌した時代にシンクロした、バンドとしての転換点を間近に迎えたミスチルのドキュメンタリーアルバムだったのかもしれない。