deenspur 2021年12月22日発売、DEEN通算20枚目のオリジナルアルバム。全10曲収録。CDのみの通常盤、ミックスCDが同梱される紙ジャケ仕様の初回生産限定盤、ライブ映像入りのBlu-rayが同梱されるスペシャルパッケージ仕様のファンクラブ限定盤の3種形態での発売(CDの収録内容は同一)。本レビューはその全形態をご紹介。

 カテゴリー的にはオリジナルアルバムに分類される本作ですが、2010年リリースの「クロール」、2016年リリースの「バタフライ」に続く、新曲+セルフカバー+有名曲のカバーという構成でまとめられた企画盤第3弾とも呼べる作品。今回は近年取り組み続けているシティポップアレンジを核に、冬をテーマにした楽曲を取り揃えているので、発売時期的に夏をイメージさせるシティポップアルバムだった半年前の前作とは好対照。なお制作スタッフは基本的にシティポップ班(?)、作詞・作曲・編曲の分担も変わらずと、音もスタッフの顔触れも2021年に発表されたCD作品の流れを汲む内容になっています。

 まずは全形態共通のCDの感想から。オリジナルの新曲は6曲。表題曲「シュプール」を筆頭に、白銀の世界へ向かうワクワク感(「マイナス20℃」)を描いた楽曲や、季節柄クリスマスを舞台にした楽曲(「君だけのサンタクロース」)が中心。珍しく「Happy New Year」では昨今の情勢に言及していると思われる歌詞も出てきますが、基本的には「陽」の雰囲気。演奏的にはホーン隊がフィーチャーされている曲もあるなど、全体的に生演奏の比率がここ数作の作品よりも高めでしょうか。これらの要素がシティポップサウンドと相俟って爽快な聴き心地となっていました。

 セルフカバーは「Christmas time」「愛の鐘が世界に響きますように…」のシングルタイトル2曲を<spur style>で新録。前者はストリングスで盛り上げていたオリジナルから抑えたAOR風アレンジに、後者は壮大なコーラスが主役のオリジナルからストリングスとバンドアンサンブルが主体になったリゾートライブを彷彿とさせるアレンジへとそれぞれ変更され、オリジナルとは甲乙つけがたい良いバージョンに。著名曲カバーは先行配信もされていた松任谷由実の「恋人はサンタクロース」はまあ池森が歌えばこうなるよね、的な予想通りな展開でしたが、桑田佳祐の「白い恋人達」はゆったりと跳ねたリズムに変更され、池森がこういう感じの曲を歌う機会はあまりないということもあり、結構新鮮に聴けました。

 クリスマスソングが数曲入っているのに発売時期がクリスマス直前、というのは遅すぎ…という点はマイナスポイントでしたが(こういう発売日設定のやらかしはDEENは過去にもいくつかやっているので…)、真冬から春に向かう季節には良く似合うアルバムとして、この冬は愛聴させてもらいました。

 初回生産限定盤の特典CD「DEEN WINTER SONG PLAYLIST」は、DEENのウィンターソングをセレクトした全14曲をm-floのDJ、☆Taku Takahashiの手によりノンストップで繋いだミックスCDで、「クロール」の特典ディスク「ナツベスト」の冬版、といった趣。2003年以降に発表された音源で構成されている(「このまま君だけを奪い去りたい」「永遠をあずけてくれ」「夢であるように」「哀しみの向こう側」は再録バージョン)のは例によって版権の事情なのでしょうが、それでも冬に向かう季節やクリスマスの時期をテーマにした楽曲が中心の客観的にも納得の行く選曲。ミックスに関しても基本フルコーラス、イントロやアウトロの音を抜き差しするなどして、単なる繋ぎ合わせではないあたり本職DJの手腕を感じられ、約1時間、なかなかに楽しめる内容になっていました。

 ファンクラブ限定盤の特典Blu-rayは、同年夏に行われたビルボードライブツアー「DEEN AOR NIGHT CRUISIN' 〜5th Groove〜」 2021年8月6日のBillboard Live TOKYOでの1stステージを完全収録。既発売の映像作品で同日の2ndステージは商品化されており、約一ヶ月半遅れてファンクラブ会員限定商品として映像化となりました。当時の最新アルバムの徹底したレコ発ライブだった2ndステージと異なり、1stステージはDEEN's AOR期の作品を中心に普段あまり演奏されない曲も聴けるステージ、という従来のビルボードライブに近い趣向なのですが、今回は初映像化の「Driving my car」「ROUTE466」「アマルフィ」「桜の下で逢いましょう」、原キーでのライブ映像は初の「月に照らされて」等々、レア中のレア曲の割合がかなり高いセットリストに。これらが現在好調を維持する池森の喉の状態で聴けるのはとても満足。さしずめマニアックナイト in ビルボードといったところでしょうか。ただ、通常盤のCDの内容に約1時間のライブ映像(ライブ以外の特典映像は特に無し)、タイトル画面もない作り込みで値段が5,000円以上吊り上がるのは…それでも聴きたいコアファンの心理を突いた価格設定だと思いますが、こういう売り方はあまり繰り返してほしくないかな、と(苦笑)。