
ZARDのトリビュートバンドとして結成され、カバーアルバムを2作連続でリリースしてきたSARD UNDERGROUND。その前後からオリジナル楽曲のシングルリリースも続けており、本作は2020年からリリースしてきたフィジカルシングル3枚と、配信シングル1曲が発表された段階で2021年7月発売の初のオリジナルアルバムとして「夏の終わりに…」というタイトルでリリースされる予定になっていたのですが、同年の5月27日付けでギターの赤坂美羽が体調不良を理由にバンドを脱退し、専属契約も解除される事態に伴い、アルバムは一旦発売延期され、7月1日に配信シングル「夏の恋はいつもドラマティック」のリリース告知と共にアルバムタイトル・商品番号も変更し仕切り直されてのリリース再発表という、異例の経緯を辿っての発売となりました。なお、4人組だったバンドは赤坂が抜けて本作ブックレットでのメンバー表記も3人になりましたが、Special Thanks to表記として赤坂の名前も掲載されています。
さて、本作はトリビュートバンドから始まったバンドが遂に全曲オリジナルのアルバムを…というのが最大のトピック。とは言っても作詞はシングル3曲の表題曲は坂井泉水の未発表作品(他の曲の作詞はボーカルの神野友亜)、作曲は川島だりあ、徳永暁人、大野愛果という、かつてZARDに関わり、現在もビーイングに所属している作曲家陣が大半を担当してメンバーの自作曲はなし、という、ZARDトリビュートの看板を掲げているバンド名に因んでと思われる構成に。編曲も鶴澤夢人にプロデューサーの長戸大幸というSARD作品を一手に引き受ける(同時期にZARDのリメイクも)コンビの手によるもので、SARDとしてのオリジナル曲だけどもメロディーのエッセンスはZARD的、アレンジも90年代中盤あたりのセールス全盛期のキラキラしたテイストを基調に、20年代的な音像に仕立てた(サウンド的にはこの作品に近い)、という印象となっています。
具体的には明るくポップな「オレンジ色」、まさにZARD王道風味な「君には敵わない」、若干ハード目なマイナーナンバー「黒い薔薇」、哀愁系の「夏の終わりに…」「Blue tears」など、ZARDっぽい、ZARDはこういう路線の曲やってたよね、的なサウンドが次から次へと出てくるので、新曲ではあるのだけどどこか当時を感じる…というノスタルジーをZARDの全盛期をリアルタイムで体験していた筆者には強く感じられました。まあ長戸プロデューサーの狙いどころとしてはそこなのかな、という気もしますが。一方で、ZARDの枠内でSARDのオリジナルを作りました、という感もあり、ZARDの枠を飛び出してバンドの幅を広げようとか、そういったサウンドの曲はあまりなかった、というのは現時点としてはともかく将来的にはバンドとしてそれで良いのかな…?という気持ちも抱いたり。ベテラン作曲家の手腕でクオリティーは一定以上だったのはさすがでしたが、ちょっと保守的な要素が強めだった点は気になるところでした。
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