sakaiainodeban 2021年5月12日発売、さかいゆうが同年初頭にLP盤、配信の二形態でリリースした通算7枚目のオリジナルアルバム「thanks to」と、通算8枚目の新作オリジナルアルバムとして制作された「愛の出番」をカップリングしたCD2枚組。初回生産限定盤にはライブDVDが付属。本レビューはCD2枚組の通常盤となります。

 2021年1月6日にリリースされた「thanks to」は、先行配信のデジタルシングル「BACKSTAY」「崇高な果実」を含む、LP盤は全8曲、配信ではボーナストラックを2曲追加の全10曲。CDでは未発売のニューアルバムということで、色々な意味で話題になった作品でしたが、発売から4ヶ月を経て本作のCD-2としてLP盤の収録曲8曲を初CD化。筆者もようやく聴くことができました。制作にまつわる発売当時のインタビューはこちら
 前作では海外を旅しつつ、現地のミュージシャンとコラボレーションして作品を作り上げる、というスタイルを貫徹していましたが、さすがに昨今の世情を鑑みるとそれは出来ない…ということなのか、出だしこそゴージャスな生バンド演奏で前作の延長形のようなスタートを切るものの、中盤以降は基本的にさかい本人+αの小編成の曲が最後まで続き、バラード続きな構成もあってなんかどんどん地味に…という印象が。ただ、筆者はさかいは元々一人で何でも器用にこなせるタイプのポップス系アーティスト、という点をこのアルバムを聴いて気に入って聴くようになった経緯があり、近年のアプローチはどんどん一般向けから遠ざかっていってちょっと物足りなく思っていたので、多重アカペラバージョンの「Magic Waltz」など、彼個人が軸となって構築されたトラックを数曲ながら久々に聴くことができたのは嬉しいところでした。

 そしてCD-1は完全新作となる全8曲のニューアルバム「愛の出番」。新作…といっても、新曲は先行配信された「嘘で愛して(Tell Me A Lie)」、そしてタイトル曲の「愛の出番」の2曲のみ。この2曲を冒頭に配し、以降はアルバム未収録だった配信シングル「Journey」、過去のアルバム曲から歌詞を英語に変更してボーカルを新録した曲、配信オンリーのリミックス曲など、過去音源から引っ張ってきた初CD化の楽曲で構成。そのせいか、一作のアルバムというよりも、00年代初頭に見かけた「新曲+リミックス大量収録のマキシシングル」という感覚になってしまうのは仕方のないところ。まあでも「Journey」はようやくCDで聴けたし、「thanks to」とは対照的にアップ〜ミディアムテンポの曲でガンガン音を鳴らしノリの良い曲が続くので、聴いていて楽しくなる1枚ではありました。

 どちらもオリジナルアルバムとしてのカウントになってはいますが、従来の作品と比較すると構成的にはミニアルバム、企画物的な要素が濃いめ。正直物足りなさは感じますが、静の「thanks to」、動の「愛の出番」と、カラーの違う小品集、としてその時の気分に合わせてトレイに載せる、というのがお薦めの聴き方かも。あとさかい本人は現在アナログにかなり愛着がある故の「thanks to」のリリース形態だったようですが、またLP盤をリリースする時は、タイムラグ無しでCD盤も同時リリースして欲しい、と切に願います(苦笑)。