zard30thtoki 2021年9月15日発売、「デビュー30周年記念 リアレンジアルバム」と称された(CDのシュリンクに貼り付けられたシールより)、ZARD通算9枚目のオリジナルアルバムのリメイク盤。全10曲収録。

 原盤「時間の翼」はZARDのデビュー10周年時にあたる2001年の2月にリリース。ZARDのアルバムの中でも珍しく明確な廃盤作品となっており、デビュー20周年時に全オリジナルアルバムをリマスターしたアルバムボックス(現在生産終了の模様)には収録されたものの、現時点では正規ルートでの単独新品は入手できないという状態になっていた曰く付きのアルバムでした。今回のリメイク盤はデビュー30周年を迎えた2021年の7月に全オリジナルアルバムの単独リマスター盤の発売アナウンスと共に、本作のみは新たに全曲をリアレンジした新作として同時発売されることが発表。その経緯を語ったディレクターのインタビューはこちら。なお、発売と時を同じくしてZARD楽曲のサブスク配信が解禁(全曲ではない)され、本作もその中のラインナップに含まれています。

 本作のプロデュースは「DAIKOH NAGATO with all of heart to Izumi Sakai」名義。収録曲は原盤の全12曲から、「揺れる想い」「負けないで」のリミックスを削除した全10曲となり、アレンジャークレジットは全曲鶴澤夢人名義に。といっても、坂井泉水の没後のベスト等に収録されたような、大きくアレンジを変更した楽曲は皆無。どの曲も原曲のアレンジを「ZARD王道路線」に寄せて再録した、という程度に留まり、原盤のアレンジャーの名前も併記しておくべきでは?と思ってしまう曲が多数(まあ「編曲」の定義って曖昧なようですし…)。とはいえ、原盤の発売時は主力作家が大量離脱し、ZARDの新しい方向性を探って試行錯誤、もっと言えば音楽性が迷走していた感のある1999〜2001年辺りの結果的にデコボコした質感になっていたアルバムを仕立て直した、という統一感はあります。

 具体的に曲名を挙げていくと、舌足らずのラップが飛び出す「痛いくらい君があふれているよ」や、当時倉木麻衣のサウンドチームだったCybersoundを起用してまんま倉木なオケの「Promised you」辺りは今回のリメイクで実験的要素はだいぶ薄れて世間一般的なZARDらしくなったし、「窓の外はモノクローム」も切ない歌詞とメロディーを引き立てる落ち着いたアレンジになって印象度が上がりました。また、原盤では未完成であり、今回新たに完成させたタイトル曲「時間の翼 〜30th Anniversary〜」は少ない素材で1曲としてよく成立させてくれた、と思います。一方で、原曲をしっかり聴いてないとニューバージョンともあまり気づかれなさそうな「Get U're Dream」みたいな曲、デジタルビートやラウドなギターが楽曲を引っ張っていた「この涙 星になれ」「世界はきっと未来の中」はZARD王道に寄せたことで何か大人しくなっちゃったなぁ…と思ってしまう曲もあり。個人的には本作中で一番好きな曲である「hero」にカラオケみたいなガイドメロディーが付いてしまったのはかなり残念…など、トータルでは玉石混交な1枚になってしまったかな、と。

 本作のCDリリース、サブスク配信という流れの中で、原盤のアルバム曲のオリジナルアレンジ版は廃盤、未配信という扱いとなり、恐らく今後はこのリメイク盤が9枚目の正規のオリジナルアルバムという役割になるのでしょうが、21世紀初頭、時代の流れに追いつこうと坂井泉水や当時の制作スタッフが全力を尽くした原盤を完成度はともかく「無かった事」にするのは、リアルタイム世代としては異を唱えたいところ。筆者は迷った挙句購入に踏み切りましたが、原盤に深く思い入れのあるリスナーにはまずは環境があればサブスクで聴いてみて判断、という手段をお薦めいたします。