hirai10th 2021年5月12日発売、通算10枚目となる平井堅のオリジナルアルバム。全13曲収録。CDのみの通常盤、前年12月に開催された配信ライブを収録した映像作品(DVD又はBlu-ray)付属のデジパック仕様初回生産限定盤、一昨年12月に開催された上海でのクリスマスライブを収録した映像作品(DVD又はBlu-ray)付属の三方背ケース仕様ファンクラブ限定盤の全3形態(映像のメディア違いを含めると全5形態)での発売。本レビューは通常盤となります。

 本作は2020年5月にデビュー25周年を迎えた平井堅の約5年振りとなるオリジナルアルバム。間にリリースされたベスト盤にも収録されたシングル「僕の心をつくってよ」「ノンフィクション」、ベスト明けのフィジカルシングル「トドカナイカラ」「知らないんでしょ?」「half of me」「#302」、配信限定シングルとしてダウンロード販売された「いてもたっても」「怪物さん feat.あいみょん」といった前作以降の全シングルタイトル曲8曲を一挙に網羅。シングル詰込み型のオリジナルアルバムという点では前作同様(初音源化の新曲が5曲というのも同様)で、強烈なリード曲を配置するということもなく(MVが制作された「1995」は別の意味で強烈ですが・笑)、潤沢なシングル群の合間合間に新曲を差し込んでみた、という構成になっています。

 既発シングルはこれぞ平井堅!的な泣きのバラードや、2010年代以降はもう一つの彼の代名詞にもなりつつあるキャッチーなエレクトロのアップテンポなど、まさに平井堅だね〜、という思う一方で前もこういう曲あったよな…というマンネリ感も正直感じてしまうのですが、今回の新曲に関しては「オーソドックス」「鬼になりました」など、妙にシニカルで、傍観者的なようでいて、どこか苦悩を感じられるような歌詞の曲が次々と飛び出してきてちょっと驚き。発売直後のインタビューでも現在の心境等を赤裸々に語っていたりして、コンプレックスの塊みたいなものが一気に爆発した作風で、聴いてるこっちが心配になるほど(苦笑)。
 また、サウンド面では前述のインタビューで語っているように、シングル曲も含めて大々的に盛り上げずにオケをシンプルに纏める方向に向かっている成果が表れており、生演奏主体の楽曲でもほとんどが小編成、ピアノだけ(「half of me」)、エレピだけ(「おやすみなさい」)という曲もあるなど、全体的にサウンドは脇役、シンプルに平井堅の「歌」をしっかりと聴かせるように仕上がっており、それだけに、例の歌詞も強調されて、自称「歌バカ」のエンターテイナー平井堅とはちょっと角度の異なるシリアスな一面を味わえる1枚ではないでしょうか。

 シリアスと言えばアルバムタイトルも何だか意味深。これについては平井堅自身、以前から「自分がない」「周囲の才能に嫉妬する」的なことを度々発言していた記憶があるのでついにそれがタイトルになるまで極まったか!という感想なのですが、彼が歌うだけで広がる独自の平井堅ワールド(?)というものは確かにあると思うし、それとは裏腹な極端なナイーブさも彼の個性ではないでしょうか。音楽を続ける限り彼が言うところの「闘い」は続くのでしょうが、移り変わりの激しい音楽界の波を独自のフォームでこれからも泳ぎ続けて欲しいものです。