tsutsumi 2021年3月24日発売、2020年10月に逝去した作曲家・筒美京平の手掛けたヒット曲をカバーしたトリビュート・アルバム。全12曲収録。発売当時の特設サイトはこちら。

 ブックレットでのライナーや各インタビューによると、元々は昨年5月28日の筒美京平の傘寿(80歳)を祝うために立ち上がった企画だったのですが、コロナ禍の影響で制作が中断し2020年の誕生日には間に合わず、そして10月には筒美本人が世を去ってしまう、という予想外の出来事が相次ぎ、追悼アルバムとしての新たな意味を背負うことになった、とのこと。なお、本作全体のプロデュースは直弟子にあたる武部聡志が担当。楽曲は彼の手によるアレンジが大半であり、加えて本間昭光、亀田誠治、松尾潔、小西康陽、西寺郷太が曲単位でプロデュースに参加し、12組のシンガーが歌う、といった構成になっています。

 選ばれた楽曲は一番古い作品が1968年の「ブルーライト・ヨコハマ」。一番新しい作品は1994年の「人魚」。この約26年間の間にヒットしたアイドル楽曲、ポップス、歌謡曲、更に今でいうところのアニソンなどを幅広く選曲。特に70年代の曲が半数を占めており、以前にも別のカバー作品で書きましたが、これらの楽曲は筆者にとってのリアルタイムでの思い入れはなく後追いで聴いた曲ばかりなので、聴くにあたってはオリジナルとの比較というより、筒美メロディーをどのようにアレンジするのか、どう歌うか、という点での感想になってしまうのですが、どの曲も原曲のイメージを実験的に破壊するようなことはなく、ほぼ全ての曲がベテラン演奏陣をふんだんに使った丁寧な生演奏でレコーディングされ、シンガー側もTUBEの前田亘輝西川貴教といった50代のベテラン以外はオリジナルをリアルタイムでまず聴いていないだろうと思われる若手から中堅にあたるメンバーが集っているのですが、各シンガー達も楽曲のイメージをしっかり把握して歌っている、という印象。

 気に入ったのはmiwa「サザエさん」。まさかの選曲だと思いましたが陽気なモータウン調アレンジに彼女の歌声がマッチしていました。乃木坂46の生田絵梨花「卒業」も声色に楽曲がピッタリ。また、賛否両論渦巻いているようですが、儚げなピアノアレンジで橋本愛がウィスパー気味に歌う「木綿のハンカチーフ」もこういうのもアリだなと。前田亘輝「さらば恋人」はオリジナルの堺正章がちょっと憑依している感(?)もありましたがこれもなかなか。小西康陽プロデュースの「シンデレラ・ハネムーン」はもっとピチカート・ファイヴな感じで来ると思いきや、という意外性があり。どちらかと言えば男性ボーカル曲よりも女性ボーカル曲のほうがいいねこれ、という曲が多かったかな、と思います。

 リアルタイムでの思い入れ度が高いリスナーにはやはり原曲のほうが…という評価も分かりますが、総括するとどの曲もカバーとしての水準以上、こんな風にされてガッカリというのは皆無。筒美メロディーの魅力を存分に活かした良カバーアルバムと言えるでしょう。ポップスファンに是非聴いていただきたい1枚でした。