lagalaksiafervojo 8月もお盆を過ぎ、徐々に夏の終わりに近づきつつある今日この頃…という時節のご挨拶はさておき、今回の「今週の1枚」では、かつてこの時期に公開されたアニメーション映画「銀河鉄道の夜」のサウンドトラック盤をご紹介。

 「銀河鉄道の夜」宮沢賢治原作の児童文学作品。この作品を漫画家であるますむらひろしが登場人物を擬人化した猫で描いた漫画を原案に、1985年7月に夏休み映画として公開されたのが本映画。筆者も公開当時に家族で映画館に観に行ったのですが、2時間近くの長尺映画ということや起伏の少ない展開ということもあり、小学校低学年だった当時のちゃんとした感想ははっきり言って憶えていません(苦笑)。ただ、ますむらひろしの原案の漫画は公開前後に読んでおり、話の大まかな筋は知っていたので、いずれ機会があればまた観たいな…ということを漠然と考えていました。

 …結局その機会が巡ってきたのはつい最近、CSチャンネルでのオンエアで実に約36年振りに再見。詳細な内容の感想はここでは避けますが、作品内でモチーフのように流れていたテーマメロディー、そしてエンディングで流れるインストに心を惹かれ、「この映画のサントラってないのかな?」と思って検索したところ、上映当時の1985年8月に初版、1990年に再発、1996年にはCD選書版、そして2008年にはリマスター・紙ジャケ仕様のSHM-CDという形で定期的にリリースされており、さらに2018年12月12日にはオリジナル盤発売から33年の時を経てボーナストラックや未発表音源を追加したCD2枚組の特別版として装いも新たにリリース。今回はこの「銀河鉄道の夜・特別版」のレビューとなります。

 DISC-1は全24曲。うち1〜20曲目まではオリジナル盤の曲目をそのままに最新リマスターで収録。本作品の作・編曲を手掛けたのは原作小説に関する奇縁を持つ元YMOの細野晴臣(一部例外あり)。収録順は基本的には映画の本編に沿って構成されたと思われ、不穏な雰囲気の「メイン・タイトル」で幕を明け、この曲をテーマに様々な編曲でのアプローチを見せる辺りは王道のサントラといった趣。なお、「銀河鉄道の夜」自体がゆっくりと展開(起承転結の「承」にあたる部分が長め)して、ドラマチックな緩急を持っていない物語だと思うのですが、それに寄り添うように、サントラも「一番のさいわい」「走る」などアップテンポな曲もあるにはありますが、基本的には今でいうところのアンビエントやエレクトロといった幻想的な雰囲気の楽曲が中心。
 サウンドに関しては生演奏の中にシンセっぽいストリングス、加工したようなピアノの音など、1985年という公開当時の時代を反映したような音色が際立つのですが、本作においては作品全体の淡々とした雰囲気と相俟って、そのレトロさが良い方向に影響しているように思われます。なお「別離のテーマ」は映画内の印象的なシーンで使われていたからなのか、本作の中で筆者が唯一憶えていた曲でした。そしてやはりエンディングで流れる「エンド・テーマ「銀河鉄道の夜」」の静謐さは特筆モノ。今こうやって無音の環境の中で文章を書いていても頭の中を旋律が流れてきています(笑)。以上の20曲、映画を回想しながら浸って聴くも良し、前述の通り起伏の少ないサウンドなのでBGMとして流しながら作業に集中するも良しと、ファンタジックながら日常生活にも溶け込むことのできるサントラでした。

 「特別編」初収録の音源についても。DISC-1の21〜24曲目は既発音源からのボーナストラック。テーマの初期版「銀河鉄道の夜(ピアノ・ヴァージョン)」、劇中で使用された讃美歌「主よ、みもとに近づかん」に加え、公開当時にイメージソングとしてEP盤でリリースされた中原香織が歌う「銀河鉄道の夜」を収録。こちらは歌モノで作品世界に踏み込んだ作詞は松本隆が担当(作曲は細野でメロディは主にメインテーマを引用)。サントラとは一線を画す明確なポップソングで本編では使用されず、初聴きでは「なんか明るすぎない?!」という感想でしたが、明るい中に潜む陰りやドッシンドッシンしたオケが聴いていくと結構クセになる、中毒性の高い楽曲だと感じました。
 DISC-2は今回のリリースに際してリサーチをした細野晴臣所有の蔵出し音源集で全15曲収録。未商品化音源、TV-CM音源、デモ音源の詰め合わせで、本編で流れた「家路」「燐光の原」などDISC-1に入っていても良いのでは?という曲から、サントラのバージョン違い、如何にもデモです、といった曲まで玉石混交。マスターテープが傷んでいたのか音質的にも状態のあまり良くないトラックもあるなど様々で、より深く、マニアックに楽しみたいリスナー向けといった印象。トータルタイムが30分程度なので割とライトに聴ける音源集となっていました。

 なお、封入されているブックレットにはスーパーバイザーである鈴木惣一朗によるライナー、収録曲全曲の解説、細野晴臣とのラジオ番組の対談の書き起こしなどに加え、公開当時の上映館に貼られたポスター、サントラの雑誌広告の切り抜きなどが掲載されるなど、特別版ならではの気合の入った仕様で内容充実。これらの付加要素も含めて個人的には非常に楽しめるサントラでした。ただ、本作品の現行のサントラはこの「特別版」のみで、過去リリースのオリジナル盤は既に全作廃盤(紙ジャケリマスターの2008年版が一番入手困難の模様)となっており、映画を鑑賞後に気軽にDISC-1の本編内容だけを聴きたいリスナー(本当は筆者もそうだったんですけど…)には若干敷居は高いかな、とは思います。オリジナル盤のリマスター廉価再発もそのうちしてくれないかな、という願望を記して(?)今回の「今週の1枚」を締めさせていただきます(笑)。