MRCHILDRENST 2020年12月2日発売、Mr.Children通算18作目(ライブ盤やカップリング集をカウントすると通算20作目)のオリジナルアルバム。両A面シングル「Birthday」「君と重ねたモノローグ」、配信シングル「turn over?」を含む全10曲収録。CDのみの通常盤、撮り下ろしライブ映像やインタビューを収録したDVD付きの初回盤A、Blu-ray付き初回盤B、さらに初回生産限定盤としてアナログレコードでの発売も有り(収録曲の内容は全形態同一)。本レビューは通常盤となります。

 バンド史上初の完全単独プロデュース名義で制作された前作から二年。本作リリースの発表時にグラミー賞受賞のエンジニア、Steve Fitzmauriceとの共同制作、ロスやロンドンでの全曲海外レコーディング、マスタリングはSterling SoundのRandy Merrillが担当して…という、海外スタッフと共にレコーディングに臨みました、という謳い文句が並べられており、公式特設サイトでもその旨が明記されています。と言ってもミスチルの海外レコーディングは初めてではないし、日本人ミュージシャンも連れ立って海を渡って作業したということでしょう…と筆者などは思っていたのですが、歌詞カードのクレジットを見ると、参加ミュージシャンもどうやら全員が外国人プレイヤーで徹底。また、プロデュースはMr.Children、先述のSteve Fitzmaurice、そしてKen Masui(前作よりミスチルのディレクターを担当しているらしいです)の3組の共同名義、さらに管弦楽曲のアレンジにはSimon Haleがクレジットと、表向き名義だけで沢山の人々が関わっているアルバムとなっています。

 詞曲に関してはリード曲の「Documentary Film」を筆頭に、既発の「君と重ねたモノローグ」のような7分半越えの長尺バラード、ポップな「Brand new planet」、箸休めの小品的な「losstime」と、まあいわゆるミスチルらしい曲が並んでいて、新鮮な驚きもないですが安心して聴ける…という点では前作と同じ。ただ印象が異なるのは共同プロデュースの賜物かアレンジ面。あくまでメンバー四人の音を全面に出して、という前作に比べ、全10曲中7曲に導入されたストリングスの音が本編を鮮やかに彩っているのが特徴。といっても、小林武史プロデュース時代末期の豊潤なストリングスがバンドの音を遠方に追いやるなどの過剰な覆い被さり方とは一線を画し、常に主旋律を左チャンネル寄りに位置し(エレキギターは右寄り)、ドラム、ベースの音とも干渉せず、上手い具合に分離している配置の妙を感じました。一部の曲で桜井和寿のボーカルにザラっとした処理を軽く施した曲があったのには「?」と思いましたが、本作のアレンジ面での変化、バランスの良さは好印象でした。

 …というようにアレンジ面ではまた一つ新しいアプローチで聴けたな、と思う一方、メロディーラインはかつてのヒット曲連発だった頃に比べるとインパクトが足りない…というのがここ数作の正直な感想であり、本作も残念ながらその印象を覆せなかったのですが、これまでほぼ全ての曲を書いてきた桜井もこの時点でデビュー28年半、200曲以上の曲を書いてきたわけで、そこまで求めるのも、という気もします。本作では「人生の終わり」に向かう様子をダイレクトに表現する歌詞が目につきましたが、桜井はじめメンバー全員含めたMr.Childrenというバンドが今後もずっと続いていて欲しいな、と改めて思いました。