
浅倉大介といえば音楽プロデューサー…という肩書きが今や圧倒的。そんな彼が最初に知名度を獲得したのは1990年、TMNのライブツアーにサポートメンバー(この時の肩書きはシンセベーシスト)として抜擢された時。元々80年代から裏方としてTM NETWORKを支えていたそうですが、表舞台に名を連ねたのはこの時が初ではないかと。以降はTMのサポートとしてTV出演やイベントライブにも参加する傍ら、1991年にはTMのインストカバーアルバム「LANDING TIMEMACHINE」でファンハウスよりソロデビュー。TMNが活動を休止した1992年の秋には全曲を作曲した2ndアルバム「D-Trick」をリリース、そしてそのアルバム内のボーカル曲に参加した貴水博之と二人組ユニット・accessを結成し同年11月にデビュー、以後の約2年間のハイペースなCDリリースを経て1995年初頭に「沈黙」(活動休止)を宣言してソロ活動を再開。5月より二週間に一度のペースでシングルを3枚リリースした後で、本作「ELECTROMANCER」はリリース。収録全12曲中、先行シングル3枚のA面曲を含むボーカル入り曲6曲、シングル3枚のカップリング曲を含む6曲という、ボーカル入り曲と完全インスト曲をほぼ半分ずつ織り交ぜた構成(既発シングル曲は全てリミックス)になっています。
ボーカル入り曲の特徴としては先行第1弾シングル「SIREN'S MELODY」、そしてアルバムの新曲「SPACE PARADISE」にて浅倉大介が本格的にリードボーカルを取っている点。歌い手としては特徴的な声というわけではなくメロディーの幅も狭めで…という本業以外の人の歌声だな、という感想なのですが、ハイトーンボーカリストのいる貴水博之とのaccessでは成しえなかった新鮮なチャレンジといったところ(なお貴水は「SPACE〜」ではかなり控えめですがコーラスとして参加)。
また、第2弾シングル「BLACK OR WHITE?」は西川貴教が、第3弾シングル「RAINY HEART〜どしゃ降りの想い出の中〜」では葛山信吾がゲストボーカル(EXPANDED VOICES表記)として参加。この時点では西川はほぼ無名、葛山も売り出し中の若手俳優というポジションで異例の抜擢だったのでは。西川はご存知その後のT.M.Revolutionとしての活動にも繋がる熱いボーカルを、葛山もバラード曲を情感を込めて真摯に歌い上げており、両者とも起用にバッチリ応えた形の良コラボを展開。他にも外国人ボーカルを招いた英詞曲「BEAT OF DREAM」などもあり、バラエティ豊かな内容に。
一方のインスト曲は元々浅倉の十八番といったところで安心安定。前年末のaccessとして活動の最終盤で約10分×3トラックの長大なインスト組曲を作り上げた実績もある彼ですが、本作においては4〜6分程度の単品のインストを制作。冒頭のタイトル曲「THE ELECTROMANCER」を筆頭に、シングルとして既出の「KARMA FOREST」や「ATLANTIC WEAVE」などに代表されるようなテーマメロディーがあり、それを展開していく形という曲の流れに合わせて聴覚を刺激するようなインスト(シンプルに言うと聞き流し系ではないということ)で、各トラックの音の定位がよく分かるヘッドフォンでじっくりと聴いていたい楽曲が多いです。また、前作「D-Trick」ではファンタジックでちょっと垢抜けない楽曲が比較的多めだった印象に対し、本作ではaccessとしての活動を経て培った、洗練されたデジタルポップス、いわゆる浅倉サウンドが全編にわたって徹底されており、TMN休止直後の時点では小室哲哉のフォロワーとしてのみ見られがちだった彼が自身のブランドを構築するまでに至った約3年間の急成長ぶりを示す楽曲が揃っているな、と思いました。
本作以降は目立ったソロ活動よりも前述のT.M.R.プロデュースや、自身も参加の新ユニット・Icemanの活動に力を注ぐようになり、結果浅倉単体としては少なくとも90年代に関しては動きがなくなってしまったわけですが、本作で表現されたデジタル+エレキギターの融合というサウンドデザインは彼のプロデュースワークでも顕著に活かされるようになったという意味では、プロデューサー浅倉大介の前史的な1枚として楽しめる作品だと思います。筆者も2013年のリマスター復刻版を手に入れて久々に聴きまして、この良い意味で如何にも浅倉!なサウンドの不変性を楽しませてもらいました。
現在では復活後は断続的に活動しているaccess、師匠格の小室哲哉とのPANDORA(小室の件ですぐに活動停止したのが残念…)、そしてプロデュースワークに加えてソロ活動も音楽以外も含めて(主にディ○ニー関連)積極的にメディア展開を続けている彼。気がつけば今年でデビュー30周年、まだまだ元気な50歳前半、これからもデジタル職人として日本の音楽界を盛り上げていってもらいたいものです。
最後に余談(?)ですが、本作の初回盤にはMac対応のCD-ROM「mediaROMancer」が同梱。この時点までの活動ディスコグラフィや動画、ミニゲームなどが収録された内容らしく(筆者はPC環境になかったので当時は通常盤を入手)、浅倉大介=デジタルというパブリックイメージに相応しいマルチメディアへの先見性をアピールという点では戦略的には正解だったのではないでしょうか。なお内容の詳細は…気になる方は検索などを(笑)。
コメント
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なぜディズニーを伏せ字にするんですか?
はじめまして。
伏せ字の件ですが、課外活動的な感じがしたので伏せました。