
高橋由美子は2020年で歌手デビュー30周年。本作はそれを機にして立ち上がったベストアルバムとのこと。現在は女優業が中心になっている彼女ですが、90年代には「20世紀最後の正統派アイドル」と呼ばれ、アイドルシンガーを軸とし、女優、バラエティタレントとして幅広く活動しており、ちょうど筆者ぐらいの世代(現在40代前半〜中盤あたり)の中学高校時代にリアルタイムで直撃したアイドルとして人気を博していました。やがて女優業や舞台活動にシフトしていったこともあり、オリジナル曲のCDリリースは1999年で最後となっており、実質歌手活動は1990〜1999年までの10年間。本ベストはその10年にリリースされた全シングル24曲の表題曲に加え、SNS上で募集したアルバム・カップリング曲を2枚のCDに分け、さらにセルフカバー1曲に新曲1曲を各CDのラストにボーナストラックとして収録、という内容になっています。
CD 1は全19曲の「Fight Side」。アニメ「魔神英雄伝ワタル2」の主題歌となったデビュー曲「Step by Step」を筆頭に、アップテンポでキャッチー、勢いのある曲を基本的に時系列順に収録。「Fight!」「元気!元気!元気!」「アチチッチ」「だいすき」「Good-bye Tears」など、アニメ・ゲーム関連の曲が結構あるのが特徴でしょうか。90年代初頭の楽曲はいかにも80年代末期のアイドル楽曲っぽいアレンジでちょっと時代を感じてしまうのですが、主演ドラマの主題歌として1993年にヒットした「Good Love」辺りからぐっと楽曲が洗練、当時隆盛したガールポップ路線にシフトしていく変遷が分かる流れになっていると思います。そんなガールポップの第一人者的存在だった平松愛理から提供された「最上級 I LIKE YOU」、コミカルな結婚しようソング(?)「WILL YOU MARRY ME?」など良質のポップソングが中盤以降は並ぶなど、佳曲がぎっしりという印象。
ボーナストラックはセルフカバーの「Step by Step」。原曲のアレンジを尊重し、現代的な音に再構築しての2020年版といった感じ。現在の高橋由美子の安定して表現力のある歌唱でより応援ソングっぽい仕上がりに。
CD 2は全17曲の「Yell Side」。自身最大ヒットの「友達でいいから」を冒頭に配置、「yell」「すき...でもすき」等のミディアム〜バラード路線の楽曲を若干時系列と前後しながら収録。元気なアイドル、という一般的なイメージがあった彼女ですが、バラードシングルも初期の頃から定期的にリリースして結構意外。バラードなのでアレンジにも普遍性があり、それほど時代を感じたりはしないのですが、アルバムやカップリング曲からの選曲も多く、「Fight Side」に比べると一聴すると地味…という感じは否めませんが、「ふたりの距離」「螺旋の月」という現時点での活動晩期シングル2曲などはアイドル歌手から脱皮していく彼女の新たな一面を覗かせる楽曲だったな、と今改めて思いました。
ボーナストラックは21年ぶりの新曲「風神雷神ガール」。ベテラン作詞家・森雪之丞が意外にも歌詞を初提供した楽曲で、歌詞も曲調もアッパーなノリでテンション高く展開されるある意味問題作(褒めてます)でした(笑)。
全36曲という大ボリュームなので、聴き切るのはなかなか大変かな…と思いきや、サビだけでも結構知っている曲が多く、案外スルっと聴けてしまいました。とは言え、これはリアルタイム世代ならではの感覚だと思われ、高橋由美子のアイドル時代の曲を知りたい、というリスナーには曲がさすがに多すぎなので、そういった層には本作よりも数年前に発売された「ゴールデン☆ベスト」をお薦め(まあこちらもこちらで19曲もあるわけですが)。当時のコアなファンにはDVD付きの高額限定盤を用意しているわけで、本作の通常盤は筆者のような「ファンと言うほどではないもののアイドル・高橋由美子をリアルタイムで体験してきた世代」がふと手にして懐かしみたい、という層がターゲットなのかも。なかなか懐かしく、そして楽しいアルバムでした。
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