kan23 2020年11月25日発売、KAN通算17枚目となるオリジナルアルバム。シングル「ポップミュージック」を含む全10曲収録。販売フォーマットは本編CD+レコーディングドキュメンタリー収録のDVDの2枚組仕様での一種発売となっています。

 2020年初頭に発売された書籍の中のインタビューで、「2020年にはオリジナルアルバムを出す」宣言をしていた彼。これを読んだ当時は「まあそうは言ってるけど大体制作遅れるのが定番だし、またまたKANさんご冗談を…」という感想だったのですが、何と宣言通りに年内に発売されて正直ビックリ(苦笑)。前作以降はライブアルバム1作、セルフカバーアルバム2作をリリース、弾き語りライブやバンドライブツアーも定期的に開催しており、活動的には途絶えることはなかった印象なのですが、それでもオリジナルアルバムとしては約4年半ぶり。前年秋のライブの本編で先行披露された「る〜る〜る〜」「コタツ」(この2曲のレコーディングはライブメンバーが参加)、そしてアンコールで演奏された「エキストラ」の計3曲も収録されています。

 さて本作の内容はいうと、CD帯の煽り文に記載されている「10曲10ジャンル」の通り、ビートルズライクな「る〜る〜る〜」、スケール大きめのバラード「キセキ」(秦基博がギターで参加)、恒例のEDM調「メモトキレナガール」、オケがベース+ドラムスのみのジャズ風「ほっぺたにオリオン」等、相変わらずバラエティ豊かで、ポップ職人としての彼の引き出しの多さを改めて感じさせる楽曲が揃っています。
 加えて、彼独特のユーモラスな表現が満載の歌詞世界も健在。若き日の自身を振り返るソウルフルなタイトル曲「23歳」、女性目線での悲しい片想いを綴った「エキストラ」など珍しいテーマの歌詞も散見される中、筆者が最も気に入ったのがTRICERATOPSを演奏陣に迎えたロックナンバー「君のマスクをはずしたい」。聴く前はてっきりまたエロい暗喩の歌かな?と思いきや、昨今の情勢を鑑みてのコミカルに寄せながらもメッセージ性のあるテーマには頷けるものがありました。本作は歌詞の面で強い印象を残す曲がいつもより多かったかな?と思います。

 DVD「Recording Documentary『58歳』」は、本作収録曲10曲をチャプター分けし、スタジオでのレコーディングでのやり取りを1曲ごとに公開していく構成。基本的には前作同様、KANのディレクションを受けて各演奏者が録音していく真面目(?)な内容で、楽曲の裏話などはなく淡々と進行していくので楽器演奏風景やレコーディングメンバーに興味があるか無いかでリスナーの評価が異なるかも。筆者は結構楽しめました。それにしても、録音が夏の時期だったのか、ほぼ演奏陣がTシャツ姿の中、常にアイビールックで登場するKANのこだわりは流石でした(笑)。