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ZARD 全オリジナルアルバムレビュー・後編
TODAY IS ANOTHER DAY
1996年7月8日発売、7thアルバム。全12曲収録。
本作より坂井泉水のプロデュース名義となる。実質ソロユニットとしての表明か、坂井以外の各楽器演奏・コーラス陣も歌詞ブックレット内にクレジットされるようになった。また、ブックレットとは別のライナーノーツが初めて封入。以降、ライナーノーツはベストを含む各アルバムによって存在したりしなかったりする。
同年に入ってから発売され3作目のミリオンセラーとなった「マイ フレンド」を始め、前年の「愛が見えない」、「サヨナラは今もこの胸に居ます」(ボーカル新録バージョン)、アルバム先行の「心を開いて」の4枚のヒットシングルを収録。またカップリングとして既発の坂井作曲の「眠り」(リミックス)、さらにFIELD OF VIEWに歌詞提供を行った「君がいるから」「突然」「DAN DAN 心魅かれてく」、Barbierに歌詞提供の「LOVE 〜眠れずに君の横顔ずっと見ていた〜」のセルフカバー4曲を含めると既存発表曲は9曲。完全な新曲は3曲で、1995〜1996年におけるZARD以外も含めた坂井のワーク集といった趣の構成。
既発曲がありまくりなのだが、ZARD名義のシングル以外は新規に制作された音源なのでギリギリオリジナルアルバムと呼べるか。「DAN DAN〜」は2番以降のボーカルが機械的になるなど実験的な要素も。全体的にごった煮状態なのがプロデュース処女作らしい初々しさも感じる。そんな中でタイトル曲の「Today is another day」は後年よく見られる諦観のある歌詞に、疑似バンドとホーンセクションが上手く絡んだ名曲。アルバムとしてのまとまりは欠くが、後のベストアルバムにほとんどの楽曲が選出されるなど、曲単体では良い線を行っていると思える作品。
永遠
1999年2月17日発売、8thアルバム。全13曲収録。
1997年4月のセレクションアルバム「ZARD BLEND 〜SUN & STONE〜」を挟み、約2年半振りのオリジナルアルバム。「ZARD BLEND」以降にリリースされたシングル全7作、カップリングからも2作、WANDSに歌詞提供した「Brand New Love」のセルフカバーも含めると13曲中10曲が既発曲というセミベスト状態になっているが、「永遠」「運命のルーレット廻して」「少女の頃に戻ったみたいに」「GOOD DAY」はアルバム収録にあたって曲のサイズやミックスが変更されているなど微妙に手直しがある。
織田哲郎、栗林誠一郎、明石昌夫、葉山たけしが制作から離脱、徳永暁人や大野愛果、綿貫正顕といった若手クリエイターへと制作陣が新旧交代していくZARDにとって(ビーイングにとってもだが)過渡期にあたる時期の作品で、様々な作家の楽曲が収録されているが、根底には「バンドサウンド」があるようで、前作よりもある程度の音色的なまとまりはある。キャッチーなシングルタイトル曲が多くを占めているせいか、アルバムの新曲は変化球気味の曲が多く、前作の「Today is〜」(曲のほう)のようなアルバムの芯を担う新曲がないのが欠点といえば欠点か。
なお、初回限定盤には「Can't take my eyes off of you」(カバー曲)の8cmシングルが同梱。プロデュースは当時PIZZICATO FIVEの小西康陽が担当。完全にビーイング外部のアーティストがプロデュースを手掛けるのは極めて異例であった。
時間の翼
2001年2月15日発売、9thアルバム。全12曲収録。
1999年に2作のベスト、2000年のライブアルバムを経ての2年振りのオリジナルアルバム…なのだが、前2作同様シングル表題曲5作、カップリング曲1曲、WANDSに歌詞提供した「明日もし君が壊れても」のセルフカバーの計7曲が既発曲。「世界はきっと未来の中」は大幅にリアレンジ、「promised you」はイントロ冒頭にピアノ演奏が追加されたアルバムバージョンでの収録。また終盤には10周年記念として「揺れる想い」「負けないで」の長尺リミックスが配置され、セミベスト+リミックスという組み合わせからオリジナルアルバムと呼ぶのを躊躇ってしまうような構成である。
この時期はビーイングの新レーベル・GIZA studioが台頭。その影響か本作の音楽性はGIZAっぽい薄味・音数少なめのクールな打ち込み中心の方向に向かっているのだが、それがZARD(坂井)のボーカルカラーに合っているかというと疑問の付くところで、ボーカルとオケの乖離を色濃く感じてしまう作品になってしまっている。更にラストに配置のタイトル曲「時間の翼」は途中からフェードインしてくる未完成バージョン。「これで本当にオッケー出したの?」と思わせる箇所が散見される問題作。
この時期から坂井の体調が思わしくなかったらしいということが後になって明かされたが、デビュー10周年記念作品ゆえの強行リリースだったのかもしれない。それが原因なのかは不明だが、本作は全オリジナルアルバム中唯一の生産中止作品(廃盤)になっている。
止まっていた時計が今動き出した
2004年1月28日発売、10thアルバム。全11曲収録。
前作発売後にセレクションアルバム「ZARD BLEND 〜LEAF & SNOW〜」のリリースを経て、2002年の春より「ZARD第2章」を宣言。翌年には「明日を夢見て」「瞳閉じて」「もっと近くで君の横顔見ていたい」と精力的にシングルをリリースし、明けた2004年に約3年振りの待望のニューアルバムをリリース。前作のタイトル曲「時間の翼」(フルサイズ)、2002年のシングル「さわやかな君の気持ち」は新アレンジでの収録となり既発曲は5曲。完全な新曲は6曲と、6thアルバム「forever you」以来、久々に新曲が既発曲を上回るオリジナルアルバムらしいバランス配分になった。
20世紀末〜21世紀初頭の実験的な要素は払拭され、打ち込みリズムはやや軽めながら、エレキギターやキーボードなどの「バンドっぽい」音を配した、セールス全盛期とは少し違ったアプローチで全編を統一。新曲では決意表明を想起させるタイトル曲「止まっていた時計が今動き出した」、儚げながら強い意志を感じるバラード「pray」が二強だが、オリエンタル調の「出逢いそして別れ」や意外と今までこういった軽やかな曲調はなかった「天使のような笑顔で」などの佳曲も取り揃えられ内容が充実。一般的に2000年代のZARDの楽曲はあまり顧みられない(=ベストアルバム類にあまり選曲されない)傾向があると思うのだが、次作共々ライト層にも聴いて欲しいアルバムである。
本作を引っ提げ、坂井の生涯唯一のライブツアーとなった「What a beautiful moment Tour」を春から夏にかけて全国で開催。このツアーの模様は映像作品としてリリースされており、2005年6月にDVDが、2020年10月に内容を再編集したBlu-rayがそれぞれ発売された。
君とのDistance
2005年9月7日発売、11thアルバム。全13曲収録。
前年のツアー中にリリースされた「かけがえのないもの」、年末の「今日はゆっくり話そう」、2005年春の両A面シングル「星のかがやきよ」「夏を待つセイル(帆)のように」のシングルタイトル4曲に加え、90年代半ばに歌詞提供した「あなたと共に生きてゆく」(テレサ・テン)、「Last Good-bye」(FIELD OF VIEW)のセルフカバー2曲を収録。新曲も準タイトル曲「サヨナラまでのディスタンス」「君とのふれあい」等、7曲収録され、前作同様オリジナルアルバムの体裁を成している。
セールス全盛期のZARDを支えたアレンジャー・葉山たけしが約半数の楽曲の編曲を手掛けるなど本格復帰。90年代を彷彿とさせるビーイング的なアレンジを骨格に、音色は2005年当時の音楽シーンに沿ったものが選択され、過去と現在の音楽性を上手く融合させた手腕が光る。坂井のボーカルが曲によっては高音が苦しそうに聴こえたり、世の中や恋愛に対しての無常観が描かれている内容の歌詞が多いなど、発売時点では明かされていなかった病気との付き合いをどうしても連想してしまうが、ラストに配置された「君と今日の事を一生忘れない」での魂を振り絞るかの熱唱は感動的。
なお、本作発売後、翌2006年にシングル2枚、15周年記念ベストと映像DVDを発売して彼女の生前のリリース活動は終了。結果的に本作がZARD最後のオリジナルアルバムとなってしまった。
TODAY IS ANOTHER DAY

本作より坂井泉水のプロデュース名義となる。実質ソロユニットとしての表明か、坂井以外の各楽器演奏・コーラス陣も歌詞ブックレット内にクレジットされるようになった。また、ブックレットとは別のライナーノーツが初めて封入。以降、ライナーノーツはベストを含む各アルバムによって存在したりしなかったりする。
同年に入ってから発売され3作目のミリオンセラーとなった「マイ フレンド」を始め、前年の「愛が見えない」、「サヨナラは今もこの胸に居ます」(ボーカル新録バージョン)、アルバム先行の「心を開いて」の4枚のヒットシングルを収録。またカップリングとして既発の坂井作曲の「眠り」(リミックス)、さらにFIELD OF VIEWに歌詞提供を行った「君がいるから」「突然」「DAN DAN 心魅かれてく」、Barbierに歌詞提供の「LOVE 〜眠れずに君の横顔ずっと見ていた〜」のセルフカバー4曲を含めると既存発表曲は9曲。完全な新曲は3曲で、1995〜1996年におけるZARD以外も含めた坂井のワーク集といった趣の構成。
既発曲がありまくりなのだが、ZARD名義のシングル以外は新規に制作された音源なのでギリギリオリジナルアルバムと呼べるか。「DAN DAN〜」は2番以降のボーカルが機械的になるなど実験的な要素も。全体的にごった煮状態なのがプロデュース処女作らしい初々しさも感じる。そんな中でタイトル曲の「Today is another day」は後年よく見られる諦観のある歌詞に、疑似バンドとホーンセクションが上手く絡んだ名曲。アルバムとしてのまとまりは欠くが、後のベストアルバムにほとんどの楽曲が選出されるなど、曲単体では良い線を行っていると思える作品。
永遠

1997年4月のセレクションアルバム「ZARD BLEND 〜SUN & STONE〜」を挟み、約2年半振りのオリジナルアルバム。「ZARD BLEND」以降にリリースされたシングル全7作、カップリングからも2作、WANDSに歌詞提供した「Brand New Love」のセルフカバーも含めると13曲中10曲が既発曲というセミベスト状態になっているが、「永遠」「運命のルーレット廻して」「少女の頃に戻ったみたいに」「GOOD DAY」はアルバム収録にあたって曲のサイズやミックスが変更されているなど微妙に手直しがある。
織田哲郎、栗林誠一郎、明石昌夫、葉山たけしが制作から離脱、徳永暁人や大野愛果、綿貫正顕といった若手クリエイターへと制作陣が新旧交代していくZARDにとって(ビーイングにとってもだが)過渡期にあたる時期の作品で、様々な作家の楽曲が収録されているが、根底には「バンドサウンド」があるようで、前作よりもある程度の音色的なまとまりはある。キャッチーなシングルタイトル曲が多くを占めているせいか、アルバムの新曲は変化球気味の曲が多く、前作の「Today is〜」(曲のほう)のようなアルバムの芯を担う新曲がないのが欠点といえば欠点か。
なお、初回限定盤には「Can't take my eyes off of you」(カバー曲)の8cmシングルが同梱。プロデュースは当時PIZZICATO FIVEの小西康陽が担当。完全にビーイング外部のアーティストがプロデュースを手掛けるのは極めて異例であった。
時間の翼

1999年に2作のベスト、2000年のライブアルバムを経ての2年振りのオリジナルアルバム…なのだが、前2作同様シングル表題曲5作、カップリング曲1曲、WANDSに歌詞提供した「明日もし君が壊れても」のセルフカバーの計7曲が既発曲。「世界はきっと未来の中」は大幅にリアレンジ、「promised you」はイントロ冒頭にピアノ演奏が追加されたアルバムバージョンでの収録。また終盤には10周年記念として「揺れる想い」「負けないで」の長尺リミックスが配置され、セミベスト+リミックスという組み合わせからオリジナルアルバムと呼ぶのを躊躇ってしまうような構成である。
この時期はビーイングの新レーベル・GIZA studioが台頭。その影響か本作の音楽性はGIZAっぽい薄味・音数少なめのクールな打ち込み中心の方向に向かっているのだが、それがZARD(坂井)のボーカルカラーに合っているかというと疑問の付くところで、ボーカルとオケの乖離を色濃く感じてしまう作品になってしまっている。更にラストに配置のタイトル曲「時間の翼」は途中からフェードインしてくる未完成バージョン。「これで本当にオッケー出したの?」と思わせる箇所が散見される問題作。
この時期から坂井の体調が思わしくなかったらしいということが後になって明かされたが、デビュー10周年記念作品ゆえの強行リリースだったのかもしれない。それが原因なのかは不明だが、本作は全オリジナルアルバム中唯一の生産中止作品(廃盤)になっている。
止まっていた時計が今動き出した

前作発売後にセレクションアルバム「ZARD BLEND 〜LEAF & SNOW〜」のリリースを経て、2002年の春より「ZARD第2章」を宣言。翌年には「明日を夢見て」「瞳閉じて」「もっと近くで君の横顔見ていたい」と精力的にシングルをリリースし、明けた2004年に約3年振りの待望のニューアルバムをリリース。前作のタイトル曲「時間の翼」(フルサイズ)、2002年のシングル「さわやかな君の気持ち」は新アレンジでの収録となり既発曲は5曲。完全な新曲は6曲と、6thアルバム「forever you」以来、久々に新曲が既発曲を上回るオリジナルアルバムらしいバランス配分になった。
20世紀末〜21世紀初頭の実験的な要素は払拭され、打ち込みリズムはやや軽めながら、エレキギターやキーボードなどの「バンドっぽい」音を配した、セールス全盛期とは少し違ったアプローチで全編を統一。新曲では決意表明を想起させるタイトル曲「止まっていた時計が今動き出した」、儚げながら強い意志を感じるバラード「pray」が二強だが、オリエンタル調の「出逢いそして別れ」や意外と今までこういった軽やかな曲調はなかった「天使のような笑顔で」などの佳曲も取り揃えられ内容が充実。一般的に2000年代のZARDの楽曲はあまり顧みられない(=ベストアルバム類にあまり選曲されない)傾向があると思うのだが、次作共々ライト層にも聴いて欲しいアルバムである。
本作を引っ提げ、坂井の生涯唯一のライブツアーとなった「What a beautiful moment Tour」を春から夏にかけて全国で開催。このツアーの模様は映像作品としてリリースされており、2005年6月にDVDが、2020年10月に内容を再編集したBlu-rayがそれぞれ発売された。
君とのDistance

前年のツアー中にリリースされた「かけがえのないもの」、年末の「今日はゆっくり話そう」、2005年春の両A面シングル「星のかがやきよ」「夏を待つセイル(帆)のように」のシングルタイトル4曲に加え、90年代半ばに歌詞提供した「あなたと共に生きてゆく」(テレサ・テン)、「Last Good-bye」(FIELD OF VIEW)のセルフカバー2曲を収録。新曲も準タイトル曲「サヨナラまでのディスタンス」「君とのふれあい」等、7曲収録され、前作同様オリジナルアルバムの体裁を成している。
セールス全盛期のZARDを支えたアレンジャー・葉山たけしが約半数の楽曲の編曲を手掛けるなど本格復帰。90年代を彷彿とさせるビーイング的なアレンジを骨格に、音色は2005年当時の音楽シーンに沿ったものが選択され、過去と現在の音楽性を上手く融合させた手腕が光る。坂井のボーカルが曲によっては高音が苦しそうに聴こえたり、世の中や恋愛に対しての無常観が描かれている内容の歌詞が多いなど、発売時点では明かされていなかった病気との付き合いをどうしても連想してしまうが、ラストに配置された「君と今日の事を一生忘れない」での魂を振り絞るかの熱唱は感動的。
なお、本作発売後、翌2006年にシングル2枚、15周年記念ベストと映像DVDを発売して彼女の生前のリリース活動は終了。結果的に本作がZARD最後のオリジナルアルバムとなってしまった。
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