
「tk-trap」のオリジナル盤の発売日は1996年5月22日。同年1月19、20日に幕張メッセで開催されたイベント「ORACLE OPEN WORLD 1996」にて演奏されたライブの模様を一部楽曲を除いて収録したライブアルバム。収録は全8トラックですが、実質は全10曲で構成されています(後述)。tk-trapとは本公演のライブタイトルなのですが、小室哲哉と彼の当時の右腕的存在であった久保こーじの両名義による音楽ユニット名でもあり、小室・久保を含めた総勢11名が参加。メンバーは基本的なバンド編成に加えてパーカッション、サックス、ボーカル兼コーラスなど多彩なラインナップで、ほぼ半分が外国人ミュージシャン(ドラムスは日本人と外国人のツイン編成)というのも特徴。なお、CDではカットされた小室のキーボードソロコーナーやアンコールの模様も収録された完全版ライブビデオが本作から一ヶ月後にリリースされており、今回の復刻ではライブビデオがBlu-ray盤として、CDがBlu-spec CD2盤としてリマスターされ同梱販売されるとのこと。
さて、1996年1月頃と言えば、世の中はTKブームの真っ只中。前年夏に華原朋美がデビュー、小室自身もメンバーのglobeもデビュー、さらに秋からは安室奈美恵のプロデュースも始まり…と、以後数年に渡るTKプロデュースの三本柱が揃いぶみし、セールスも右肩上がりの時期、特にglobeは同年の元旦にリリースした4枚目のシングル「DEPARTURES」が大ヒットの最中。そんな中でTK名義での大会場を舞台にしたライブが開催されるということで、てっきり前年の「TK DANCE CAMP」のようなTKブーム期の楽曲満載のライブになる…と思いきや、蓋を開けてみれば実際は思いもよらなかった方向、思いもよらなかった楽曲が次々と繰り出されて色々な意味で聴衆を愕然とさせたのではないでしょうか(笑)。以下、演奏楽曲をご紹介していきます。
まずはドラムの演奏を軸に、サックス、エレキギターが長尺のソロを奏でる久保作品のインスト「ORACLE COMMUNICATIONS」で幕開け。シンセの音も聴こえますが主体はあくまで生楽器で、ザ・生演奏というパワフルな内容。続いて本公演唯一のTKプロデュース期作品の「Let's Go」(EUROGROOVEのカバー)を経て、TM NETWORKの1988年のアルバム「CAROL」の中から、いわゆるCAROL組曲のコアな部分(「A DAY IN THE GIRL'S LIFE」「CAROL(CAROL'S THEME I)」「IN THE FOREST」「CAROL(CAROL'S THEME II)」)を約15分間に渡って演奏。基本アレンジは同じながら歌詞は英語、ボーカルは外国人の男女が担当しており、TMバージョンの宇都宮隆のボーカルが歌詞の情況をストーリーテラー風、いわゆる第三者的に歌っているのに対し、今回のバージョンは男女のボーカル掛け合いもあり、さながらロックオペラのような熱い内容で、ボーカルが違うだけでこんなに変わるんだ…という驚きがありました。なお、この4曲ですがトラック分けの都合からか前半2曲が「CAROL(Part 1)」、後半2曲が「CAROL(Part 2)」と、1トラック2曲ずつに収められています。
再び久保の手によるロックインスト「TRANSPORTATION to The future」、同一のリフをシンセとサックスで交互に演奏していく高速ナンバー「VEHICLE 2001」と続き終盤へ。ラスト2曲は1990年の小室ソロの「天と地と」をカバーした「HEAVEN AND EARTH」、そして1991年のTMNのアルバム「EXPO」のラストナンバーでこれも小室がボーカルを務めていた「Think Of Earth」。ここでは小室は歌わず(現地で期待した人は多かったのではないでしょうか・笑)英訳詞を外国人ボーカルが歌う「CAROL」と同じ形に。前者はオリジナルの「和」の色を薄めてスケールを大きくした感じ、後者は基本的には原曲アレンジを忠実に再現。小室ボーカルであった両曲の(小室の声質的に)儚げな印象は払拭され、迫力のある生演奏、ロングトーンの力強いメロディーを熱唱するボーカルなど、こちらも本公演を聴いて楽曲の新たな魅力に気づかされる内容になっていました。ちなみに実際のセットリストでは後半ブロックは曲が前後しているようで、「HEAVEN〜」の前に「Think〜」「VEHICLE〜」が入っていたようです。
なぜこの時期にTM楽曲や自身のソロ楽曲を披露する心境に至ったのか、小室=ダンスサウンドというイメージを覆したかったのか、あるいは約一年半前に「終了」したTM NETWORK(TMN)をいよいよ再起動させるための実験的な試みだったのか、はたまた単なる気まぐれ?(笑)など、小室自身の本公演に関するコメントは個人的にはほとんど目にしていないので実際のところは把握していないのですが、いずれにしても当時は宇都宮隆も木根尚登もTM(小室)から離れたところで活動を行っており、TMの記憶も薄れゆく中で「小室哲哉がTMの曲をライブで演奏した!」という事実は、シニカルな目で世俗的なTKブームを見つめていた筆者としては衝撃的であり、このライブCDの演奏を聴いて悔しいけどカッコ良いな小室先生、と改めて思った記憶があります(笑)。
結局、tk-trapはこの2日間のみのために結成されたユニットで、このライブがその後のTKプロデュース作品に影響をもたらしたり、TM復活の足掛かりになったというわけでもないので、小室史的には異端の位置付けのイレギュラーイベントで終わってしまったのが残念といいますか、もう少しこのユニットでの活動も観てみたかったところでした。
なお、本作の復刻盤(定価5,000円+税)と同時リリースされるもう1作は、1988年12月に初の小室ソロアルバムとしてリリースされた「Digitalian is eating breakfast」の特別編集盤限定ボックス。本編にボーナストラックを追加したリマスターBlu-spec CD2、既発映像をまとめたBlu-ray、シングル3作を新規エディットで収録したアナログ7インチレコード、当時のソロツアーのパンフレットを復刻したブックレット等々…を収めた定価12,000円+税の
コメント