wandsburnthesecret 2020年10月28日発売、21年振りとなるWANDS通算6枚目のオリジナルアルバム。シングル「真っ赤なLip」「抱き寄せ 高まる 君の体温と共に」、先行配信された「Secret Night 〜It’s My Treat〜[WANDS 第5期ver.]」を含む全10曲収録。CD+MVを収録したDVD付属の初回限定盤、公式特設ページよりMVのメイキング映像を視聴できるシリアルナンバーが初回プレスに封入されたCDのみの通常盤の2種での発売(CDの収録内容は同一)。本レビューは通常盤となります。

 新旧メンバー三人で昨年の秋に第5期として再始動を果たした彼らとしては初となるオリジナルアルバム。その内容はシングルA面曲2曲、オリジナルの新曲4曲、過去のWANDSのヒット曲のセルフカバーを既発音源も含めて4曲、という内訳。新曲を前半から中盤に配置し、セルフカバーを中盤以降に立て続けに並べており、後半はベストを聴いている錯覚に陥りそうになる(?)など、1枚の「オリジナルアルバム」としてはいささか偏った構成でしょうか。なお、プロデューサーにはかつてWANDSをプロデュースしていた長戸大幸の名前がクレジット。メンバーインタビューによると、新曲・セルフカバーのバランス配分はプロデューサーの意見を反映したもののようです。

 オリジナルの新曲は新ボーカルの上原大史が全作詞を、作・編曲は基本的にギターの柴崎浩(「アイリメンバーU」のみ上原作曲)が担当。シニカルな「David Bowieのように」や、冷めゆく恋心を直球で描く「賞味期限切れI love you」など、なかなかに個性的。既発のシングル曲の歌詞世界も含めて、瑞々しさと達観の中間で揺れている若者の主張といった感じ。これらの歌詞が柴崎作曲のキャッチーなメロディーや華のあるアレンジと合わさってインパクトがあります。惜しむらくは打ち込みのバンドサウンドがメインなのでもう少し生っぽい重さが欲しかったところと、キーボードの木村真也の作曲が1曲もないこと。木村も作曲家としての実績があるわけだし、今後に期待したいところ。

 セルフカバー([WANDS 第5期ver.])のほうは、第1〜3期のヒットナンバーを万遍なくセレクト。どの曲も原曲を極端に壊すことはなく尊重したアレンジでの再演奏。筆者としてはこれらの曲とはやはり発売以来二十数年以上の時間を共にしているわけで、思い出補正も含めて原曲の方にどうしても軍配を上げたくなってしまうのですが、このカバーバージョンも過去のWANDS楽曲を現メンバーで「継承」という意味では納得の出来。新しい魅力としては原曲よりも軽快になり、総勢8名のコーラス陣がピースフルな雰囲気を作り出した「世界中の誰よりきっと」がいち推し。また、第3期のカバーとなる「明日もし君が壊れても」の間奏で見せる柴崎浩のギターソロが最終的にオリジナル奏者(当時のギタリスト杉元一生)のフレーズに合流するところには感動しました。

 上記のインタビュー記事でも発言していましたが、上原は制作にあたってかなりプレッシャーを感じていた模様。確かに初代ボーカルの上杉昇の歌詞や歌声があってこそWANDS、という声はこのバンド名を名乗る以上これからも付き纏うだろうし今後も比較されるのではないかと思いますが、筆者はWANDSのどの時期も好きなので、木村の言うように「その時代時代の中、新しいことをやっていく形態」として、これからもあまり気負うことなく、彼らにはWANDSとして自由に活動を続けていってもらいたいものです。全体の感想としてはオリジナルアルバムとしてはまとまりに欠けますが、新生WANDSとしてのお披露目には十分魅力的な1枚でした。