
ドキュメンタリー映画なのでネタバレも何もないと思いますので、今回は畳まずに書きます(笑)。
アメリカで昨年夏より公開された本映画は、ジャズ界の帝王と呼ばれるトランペッター、マイルス・デイヴィスの65年の人生を彼の遺した発言からの引用や関係者からの証言を基に構成された約2時間のドキュメンタリー作品。
基本的には時系列順に出来事を並べ(一部前後している箇所もあったような)、彼の生前のモノクロ写真、動画などを使用、BGMは彼の音楽作品からの楽曲をふんだんに使用。オープニングからラストまでひたすら彼の生涯を追った作品に仕上がっていました。
マイルス・デイヴィスの没年は1991年。その頃筆者は中学に入学したばかりの頃だったわけで、リアルタイムで彼の音楽を意識して聴いたことのない世代ではありますが、「マイルスはこういう性格の人間だった」ということは後に情報を得て知っており、作中でも「世間一般のイメージ通りのマイルス」像が展開。こんな意外な一面が!?的な要素は特になかったような。生涯で4回も妻(あるいはそれに近い女性?)を娶るなど、恋多き人物だった面も語られていましたが、映画を観ていると彼女らの存在も音楽制作のモチベーションのひとつだったようにも思えました。
エピソードとしては初めて聞くような話と、何度もドラッグ中毒になっては立ち直り…の繰り返しや、名声を得たアルバム「Kind of Blue」発売直後であるにも関わらず、白人警官に言いがかりをつけられ暴行を受けて血まみれに…などの既知の話が半々ぐらい。あまりマニアックになり過ぎず、彼の情報をほとんど知らない観客がふらりと観に来ても楽しめるという意味ではそれほど敷居が高くない内容だと思います(ディープなマイルスファンにとってはほとんど知ってる話になっているのかもしれませんが)。個人的にはこれぐらいの案配がちょうど良かったな、という感想。
モダンジャズの全盛期を彩った、存命の関係者ミュージシャンがスクリーンに次々出てくるシーンではやはり興奮(笑)。特に50年代末のカルテットのドラマー、ジミー・コブ(今年逝去)、60年代カルテットのウェイン・ショーター(サックス)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)らが本人の口からマイルスのエピソードを語るシーンはテンションが上がりました。あと彼らも含めて皆マイルスのセリフを言う時は彼の声色を声帯模写して物真似っぽく語るのは何だか微笑ましかったです。ちなみにそのハスキーな声になったエピソードも劇中で語られていましたね。
常に開明的であり、古い伝統よりも新しい音楽に刺激を受け、興味を持ったジャンルの音楽に積極的に挑戦する…という彼の芸風には賛否両論あるでしょうが、最後まで守りに入らず、死の間際までミュージシャンとしてそのスタンスを貫いたのはなかなか真似できない格好良い生き方。前述の通り一見さんお断りな内容では決してないので、マイルス・デイヴィスという人間に興味を少しでも持っている方には是非鑑賞してもらいたい映画でした。
なお、上記ミュージシャン達のコメントトラックを含む映画のサントラも公開に先行して今年の2月に発売されたとのことです。
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